038 迎えの夫婦
大坂発、鹿児島行き。
波穏やかな瀬戸内のルートを村上水軍に薦められたが、木下藤吉郎陽葉は土佐国の岡豊城に、長宗我部元親を訪ねたいと希望。立ち寄るためにわざわざ四国沖を通る航路を選択した。
室戸岬で有名な、高知県室戸市に室津という港町があった。
室町期には漁船以外にも東西交易する商船が定期的に出入りし、畿内と九州南部を結ぶ太平洋航路上の中継地として発展していた。
木下陽葉一行はいったんそこに船を着け、ここから沿岸沿いに、陸路で高知を目指すことにした。
結局、彼女に付き従っているのは、香宗我部イチゾウ、前田又左、前野将右衛門、竹中半兵衛、不動のレギュラーメンバーに加え、織田御市、更に武田信繁といった異色の新顔もいた。
「随分手前で下船するんだー?」
「目的地までまだ50キロ以上あるんじゃねーか? 病み上がりの人間に思い遣りの欠片もねーな」
新顔のふたりは陽葉の判断に文句タラタラだ。
「味方になったとはいえ長宗我部はまだ親しい間柄ではありません。大坂を発つ前からアポイントを取っていましたが、念のために用心しておくのに如くはなしです。変心し再び敵対行動を取るかもしれませんし」
「アポならプレイヤーカード使って何度もとってたじゃん? だいぶと慎重なんだね」
「そらそーだ。長宗我部さんにゃ、島津への繋ぎをしてもらわにゃならんしな。低刺激に配慮するのよ」
「フーン。そんなもんかー」
竹中半兵衛と前野将右衛門の主張に、御市は一応納得し引き下がった。
しかし、
「フン。慎重……というより、お試しなんじゃねーの? 長宗我部のハラでも探ってやろうと」
武田信繁の勘ぐりに前将、大げさに肩をすくめる。
半兵衛は苦笑いするばかりだった。
「前から車が来るぞ?!」
香宗我部イチゾウの指差す方向に目線が集まった。
◆◆
「長宗我部信親です。初めまして」
痩身高身長の色白男子が低頭した。
一見おっとり気味に見えなくもないが、優しい物腰の、何故だが知らぬが又左とイチゾウが顔をしかめるほどの整った顔立ちをしたイケメンである。
前に立った陽葉が慌ててお辞儀する。不愛想を貫く武田信繁以外も、ノロノロと彼女に倣った。
長宗我部信親は、彼の後ろに隠れていた人物を紹介した。
「この子は石谷さん。同級生です」
「は、初めまして、石谷です」
信親が大柄な分、小柄な彼女は一層小さく思えた。おなじく小柄な陽葉と同等か、もしかすると、並ぶともっと背が低いかも知れない。
だが、前野将右衛門の目つきに気付いた陽葉が、彼の鳩尾に容赦のない肘鉄を喰らわした。
もともと現代人だろう彼女は、クラシカルなセーラー服を着ていた。――が、彼女、誰の目から見ても相当包容力のある胸もとを強調していたので……。
ゴマカシのニヘラ笑いで衆目の関心を逸らす陽葉。
「あ、あの。おふたりは同じ時代から?」
「ええ。昭和10年から。銭湯でふざけていると、こちらの世界へ。妙なクイズと言うか、ナゾナゾを解いたら跳ばされまして」
「長宗我部元親さんとも、もともとお知り合いなんでしたっけ?」
「同じ学校です。父親役……といってもほとんど同じ歳でして、彼はいっこ上の先輩です。――で、この子とは3歳ほど離れています」
石谷と名乗った少女は信親の背にぴったりと張りつき、陽葉たちから半身を隠している。態度だけ見ていると更に年齢が下に思える。
「こっちに来てすぐにこの子と結婚したんですが、彼女は他の戦国人たちになかなか馴染めなくて……。なので常にべったりです。今日も同伴させて頂きました」
「け、結婚……! そ、そうですか。それは……おめでとうございます」
ここは欠くべきではない礼儀だと思ったのか、オドオドとしつつも少女が前に出て「有難うございます」と丁寧に頭を下げた。
「ではあらためて。――主の長宗我部元親が岡豊城でお待ちです。お迎えに上りました。車にどうぞ」
信親は微笑し、迎えの車に乗車するよう促し――。
「――オヤ、7人おられますか。思ったより大人数でしたね。生憎この車は5人乗り。残り3名しかお乗せできませんね」
陽葉らはカオを見合わせた。
イチゾウが黙って挙手。すぐさま又左も手を挙げた。
御市と半兵衛は怖いカオでふたりを睨んでいる。
意を決した陽葉が全員を見渡してから言った。
「イチゾウ、又左、行くわよ」
「ではお乗りください。御足労をお掛けしますが、残りの皆さんは先導をつけますので、ここまで来られた船で、浦戸までお越しください」




