033 千里ケ丘決戦・木下藤吉郎陽葉(8)
空想歴史ふぁんたじラブコメ・続き (陽葉視点)
陽葉と又左の会話(2)
摂津国(=現大阪府)
―吹田付近木下隊本陣―
◆木下陽葉
……言われた。
言われてしまった。
聞こえた。
耳に残った。
残ってしまった。
間に合わなかった。
又左はずっとヘンだった。
わたしに何か伝えたいことがあるってのには気付いていた。
でもわたしは知らんぷりを通した。
だって。
そうしないと、又左が遠くに行っちゃうから。
わたしから離れて行っちゃうから。
わたしはズルイ。
こっちの世界に来た時から、彼はずっとわたしに付き添ってくれていた。
それをわたしは当たり前に感じていたし、そうすべきだよねと、いつの間にか彼を、自分の付属品のように扱っていた。
便利で都合のいい道具にしていた。
「……妹を。恋を帰さなきゃなんないんだよ。元の世界に」
「あの子はひとりで帰れる」
「お母さんが……心配だから」
ああ。
違う。サイテーだよ、わたし。
何だよその理由付け。
わたしって又左がキライなのか?
そんなに昭和に帰りたいのか?
彼を突き放して悲しくさせたいのか?
「……そうだな。母親が心配するな」
「あ、いや、そのさ。……ごめん。何言っても言い訳だよね」
ふと、又左の目が赤い。
最初からそうだったのか、いまそうなったのか。
泣き顔なのか、怒っているのか。
ハッキリしているのは。
「陽葉」
――あ。……もぅ。それ、止めて欲しいんだけど。
ホントに空気読めないんだから。
「あのさ。――わたし、又左は……好きだよ。割と前々から。でもさ、香宗我部イチゾウをほっとけないんだ。アイツはああいうヤツだけど、それでもわたしの大事な人だから」
「……あ、ああ」
「又左さぁ、近頃ずーっと陽葉って呼ぶよね? 前は藤吉郎だったのに。……それ、わざと? それとも無意識? わたしさぁ、性悪女なんだよね、イチゾウと又左、どっちも気になってるってか、ふたりとも……。だからね、どっちも選びたくないんだ」
「……」
又左、初めて目を逸らした。空を見て、横を見て。それから再度わたしを見た。
「承知した。持ち場に戻る」
掻き消えるように又左がその場から居なくなった。
数秒間、わたしは彼の残像を眺めていた……気がする。
◆◆
「オヤ? どーかしたか、お嬢? 頭から煙が出ているぞ?」
「……あ、いや。わたしポンコツなので」
「将軍さんが到着だ。行くぞ、急げ」
「うん。分かってる」
前野将右衛門は木下陽葉の背中をポンと叩いた。
「あー、それとな。あっちで単純純情バカが二人ほど鬱陶しく淀んでるから、スッキリ掃除しといてくれ。戦争の後で構わんから」
「え、ふたり?!」
「又とイチ。それぞれ思うところがあるんだろよ」
「……」
陽葉、先に歩き出した将右衛門を数秒間眺める。
「うん」
返事した彼女は大股で前野将右衛門を追い越し、陣幕を出た。
また明日。




