032 千里ケ丘決戦・木下藤吉郎陽葉(7)
1月2日ぶりの更新ということで
空想歴史ふぁんたじーラブコメの再開です。
摂津国(=現大阪府)
―吹田付近木下隊本陣―
本来ここにいるはずの無い前田又左衛門に、木下陽葉は驚きを隠さずに咎めた。
「あ、あれ? 又左、作戦中だよ?」
「陽葉。木下陽葉。――ああ、分かっている。スグに持ち場に戻る」
陽葉、うなづく。
本当は何か激励か労いの言葉でもかけるべきだろうが。
彼女はいぶかし気なカオをして床几に着いた。
「……。あの、いったいどうしたの?」
まだいると。
去ろうとしない又左に、陽葉は少しだけイライラを滲ませた。
正直、先刻の竹中半兵衛との遣り取りを引きずっていた。
「オマエに言いたいことがある」
「……」
泳ぐ陽葉の目。
周囲の護衛をチラ見する。彼らは慌ただしく動き回っている。
ふたりに気を回すゆとりのある者は居ない。
彼女は混乱していた。
第一に気になるのは戦況。
島津と浅井がまともにぶつかりだした。
島津の得意戦法とされる【釣り野伏せり】をどうにか防ぎ、浅井は互角の勝負を継続させている。
支援が必要なタイミングはおそらく今なのだ。
足利義昭と足並みをそろえて早々に前進し、後衛を務めなければならない。
次に気になっているのは竹中半兵衛との会話。
「死んだ人たちは本当に生き返るのか?」
という問いに竹中半兵衛は「もちろんだ」と答えた。
だが。
彼女は、【戦国武将ゲームプレイヤー】が死ぬことを恐れていた。
もし仮に死んでしまった場合は……。
この戦いに勝ってゲーム勝者になったとしても、その者らの死亡はチャラになり、無事に元の世界に戻される――という保証はどこにも無い。無いというか、不明瞭である。
NPCと言うべき戦国武将ゲームプレイヤー以外はどうも生き返るようだが、肝心のプレイヤー……となるとよく分からない。
既に死んでしまったプレイヤー(かつカード失効者)がその後、日ノ本のどこかに再登場していないか調査しているが、今のところ発見された者はいない。
竹中半兵衛は「調査中なので」と濁しているが、少なくとも陽葉は同様の調査を行っている徳川家康からも「発見した」との報告を受けていない。
つまりこのまま陽葉がアンカープレイヤーとして勝利を収めても、全員の帰還が果たせるのか不明のままということになる。
なので、この戦いで敵味方関わらず、プレイヤーが死ぬことがあっては絶対にならないと思っている。
「又左、どうしたの? 報告?」
「陽葉。オレはこの世界の人間だ。そしてオマエは別の世界の人間だ」
又左の言葉にハッと目を見張った陽葉は、カオを曇らせて俯いた。
「オレは――」
「ごめん。そのハナシ、いま聞かなきゃダメ?」
二人の間に沈黙が流れた。
その原因は又左からすれば見えない壁――だった。陽葉が無意識に作り出したものだ。
陽葉は覚っていた。
今から又左が何を言おうとしているのか、そして、その言葉がどれだけ重く深いものか。
それを受け止めるには余りにも心構えが足りなかった。
それが例え、以前に言われた言葉であったとしても、彼女は受け止めることはできないと感じていた。
そんな気持ちさえ、あなたには分からないの?
そんな風に、又左の空気の読めなささに彼女はイラついたように、ギュッとこぶしを握り締めた。
「又左、いま戦の最中なんだよ? プライベート……あ、えーと、私的な話は後にしてくれないかな?」
冷たく突き放す。
これは逃げなんかじゃない。思い遣りの無い又左が悪いんだからね。
そう言いたげな口ぶりだった。
「忙しいんだ、わたし」
言外にトゲを含ませて彼にぶつけ、立ち去ろうとした。
「陽葉。この戦いが終わったら、オマエも昭和に帰るのか?」
「……」
「オレはイヤだ。オマエを昭和には帰さない」




