16歩 「教科書(2)」
――そこに書いてあったのは……。
――織田美濃は、尾張(愛知県)西部の小大名の姫君でありながら戦国武将となって家中をまとめ上げ、駿河(静岡県)の今川義元の大軍を桶狭間(愛知県)の戦いで破った。その後、美濃(岐阜県)の斎藤氏と結び、勢力を拡大していった。
織田美濃……って、きっと維蝶乙音ちゃんのコトだよね……。
1563年、幕臣細川藤孝の協力を得て足利将軍の後見職に就き、実権を握った織田美濃は反勢力を武力で抑え込み、織田、斎藤、細川による三頭政権を成立させた。1570年に室町御所(京都府)を廃所し、代わり福原(兵庫県)、難波(大阪府)、那古野(愛知県)を政治経済の新しい拠点と定め、大都市を造営し発展させた。この時代を三都時代という。
アレ? 安土は? かの有名な織田信長はどうなったの?
――しかし、斎藤氏家中の争いが発端となり起こった【逢坂の変】で、織田美濃を殺害した三好氏を、細川藤孝が【山崎の戦い】を経て滅ぼしたことで勢力の均衡が崩れ、三氏の合議による三頭政治は終わりを告げた。
1575年に、執権となった藤孝によって京の地に室町御所が復興され、しばらく途絶えていた、足利将軍家を主体とした幕府政治が再び興されることになった。
だが、幕府の威令がこれまで以上に及ばなくなった地域では、戦国大名をはじめとする地場の支配力がさらに強まり、それぞれの分地で独自の領国経営体制を確立させ、群雄が割拠する下剋上の世がその後も長く続くことになった……。
「な、なんだコレ?! 逢坂の変なんて聞いたコト無いし……」
だいたい織田、豊臣、徳川について、その後なんの記述も無いし!
江戸時代は? 明治維新は?
ページを繰る。
――摂津守護代の大外儀片が、1688年、果てなく続いた動乱の世にピリオドをうった……らしい。って、誰?! 大外って!?
……長々とした戦国時代による荒廃の果てに、本来は江戸という太平だったはずの時代に埋没していた大英傑が日の目を見て大改革を起こし、近代国家の礎が芽生え、そうして現代へと推移していった……。
「恋! 恋!」
バンバン! と遠慮なく、ほんのさっき妹が入ったばかりの個室のトビラをたたく。
これにはさすがにハラを立てたのか、まだビシャビシャに髪の毛を濡らしたままの彼女が鬼の形相で飛び出してきて、
「いっぺん死んでみる?」
「聞いてっ、恋! いま何時代だっけ?」