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【完結御礼】戦国武将ゲーム! 豊穣楽土 ~木下藤吉郎でプレイするからには、難波の夢を抱いて六十余州に惣無事令を発してやります~  作者: 香坂くら
第3部 天下争奪編 京坂動乱 ~東軍盟主を引き受けるからには天下分け目の天王山で勝ってみせます~
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029 友ヶ島海戦


 摂津国(=現大阪府)

 ―京街道(新道)古市村付近―


 クロカン(黒田官兵衛)の運転するジープ、ウィリスM38改造型が突如道を外して横滑り、土手に落ちた。ハンドル操作を誤ったのだ。


 後続のバイクが二台、急停止する。

 ライダーは長束正家に荒木村重。


 さらにその後を騎馬武者姿の仙石秀久が続いた。

 彼の周囲には完全武装した侍集団がびっしり張りついている。ざっと30人ほど。


 長束と荒木は田畑のきわで停止したジープの無事を見届けてから散開した。

 ふたりにはそれぞれ兵が従っていて、その大方が鉄砲衆と弓衆で構成されている。


「別所殿、大将を救え! その間我らが堰き止める!」


 声掛かった相手は別所長治。彼は大呼した仙石秀久に大きく頷きを返し、同胞衆とともに土手を駆け降りて行った。この集団はすべて短めの槍持ちだった。


 間髪入れず、耳をつんざく鉄砲音。

 その止み間に白黒段々模様の軍旗、毛利家きっての猛将、吉川元春の旗印が雪崩れるように乱立する。

 数はおびただしかった。


 中国の地より大坂を経て淀川沿いに味方との合流を目論んだ上月、姫路、三木、有岡の群将はここに来て西軍の猛追に捕まってしまった。


 大坂で滞っていた西軍の動きが急速に回復したのである。

 原因は島津にある。当主義久が派手に檄を飛ばしたからだ。


 触発された吉川元春が島津軍に断りも無く大坂を進発、怒涛の北上を始めた。

 主導権を得たいがためだが、その根底には島津への敵愾心を芽生えさせたせいもある。


 島津よりも先に入京してやる。


 彼は近臣にそう宣言し実行に移した。


 一方の島津も負けてはいられない。

 島津義久の号令一下、武田信繁が籠る大坂城本丸の攻略を後回しにし、毛利の後尾を追った。


 異常に膨らんだ西の軍勢。総数、6万2千。

 その鋭鋒で気を張るのは毛利軍陸上部隊の大将、吉川元春。

 一番槍は誰にも譲らぬとばかりにクロカン軍に喰いつく。


 ジェットコースターばりの運転で目を回した黒田官兵衛と、同乗していた山内鹿之助がエンストした運転席から引き出され、軍勢同士の衝突に出くわしたのは土手上に生還したとき。


「浅井長政軍!」


 3ツ盛亀甲のど真ん中に剣花菱を打ち染めた軍旗。

 先頭の偉丈夫、威風堂々の騎馬武者が下馬し、クロカンに手を差し出した。


「――ケガは無いか? 後は任せろ」

「お、おう」


 男であるクロカンが、男をカッコいいと思ったのは人生でこれが初めてだった。


 笑みこぼし合う二人の両脇を浅井先駆けの兵が次々に追い越し、吉川勢に躍りかかる。

 身構えた吉川元春に、長束と荒木の鉄砲と弓が支援の応酬を掛けた。ニヤリと歯を剥き出した元春の護衛がバタバタと斃れる。瞬間、彼の背後にあらわれたマキシム機関銃がお返しの火を噴いた。日露戦でロシアが大量投入した兵器だ。


「伏せろッ!」


 突っ込んだ浅井の先陣、そして前線の長束、荒木両隊が一気に半減した。

 それでもひるまぬ猛者群が機関銃に取り付き、踏みつけ、破壊した。

 その彼らは槍で突き伏せられた。


 大将の長政が仇とばかりに吉川元春に斬りかかる。戦国武将同士の戦闘だ。

 素早く抜刀した吉川の受けに長政が烈として圧を掛ける。


「ぬオオオオ!」

「グぬゥッ?!」


 流石に力負けした吉川が右によれ、長政の剣戟を辛うじて避けた。

 それでも吉川は不敵な目付きを崩さない。


「生きてるな、オレたち」

「急に、なんだ?」


「面白いじゃねーか! 大将が一騎打ちなんて実際無いぞ! 戦国武将ゲーム様々だな! 気分サイコーだ!」

「……それは良かったな」


 ふたたび長政の重い剣を受け止めた吉川は、彼の胴を思いっきり横蹴りした。

 小さく呻いた長政、そのまま反撃の剣圧を込めて吉川を弾き飛ばした。


「この道。さしずめ名神高速か? 良く造ったな おかげで大層走りやすい」

「ぺらぺらとおしゃべりなヤツだ。造ったのはオレ以外の誰かだ。知らん話をするな」


 大坂から京までのルートは江戸時代の主街道に倣い、土を踏み固め、砂を撒いて小石を敷き詰めている。所々にはアスファルト舗装の箇所もある。さらには両側に松や桜、銀杏などを等間隔に植え根付かせている。

 これらを整備したのは東神連合で、世間の誰もが知っている。

 むろんそんな事は当の長政も承知している。ただその問いに反応したくないだけだった。


 軽く声を立てて嗤った吉川は後退して長政の背後を指差した。

 山内鹿之助と仙石秀久が部下を従え今まさに突入しようとしていた。


 だが吉川の指した先には別の物が存在していた。

 ――汎用型、軍用四輪。高機動車両が10台、猛スピードで迫っている。


「恐らく木下藤吉郎陽葉。それと……あれはオマエの彼女か」

「なんだと?」


 クルリと反転した吉川は多数の味方に囲まれて去った。

 法螺貝とラッパが交互に鳴り響いた。

 うねうねと毛利軍団が変容する。

 さらに前進を止めていた。


 前衛が逆茂木を並べ立て、その少し後方で土木部隊が土塁を掘りはじめた。俄かの陣地を造るらしい。近付こうとすると容赦のない矢玉が飛んだ。


「ナガマサ! 織田・北条の水軍が紀淡海峡で交戦してるよ!」


 織田御市の呼び掛けに振り向きもせず、小さく「そうか」と応じた浅井長政は、前方の吉川元春から目を外すことなく引き下がった。




◆◆◆




 紀淡海峡(友ヶ島水道)は赤い炎に染まっていた。


 淡路島と紀淡海峡の西端にある友ヶ島諸島沖ノ島の間は由良瀬戸と呼ばれ、幅一里足らず(3.8km)ほどで、通常大型船はそこを航行する。


 織田・北条の水軍主力はそこを目指した。


 知多半島の海岸に、紀伊山中の巨木と多量の竹材を持ち込んで急場しのぎのクレーンを造り、浅瀬に没した黒船と戦艦長門を引き揚げに成功した九鬼嘉隆・真田昌幸コンビは、徳川家の援けを借りて船体の大補修をおこなった。

 約一月で航行だけはできるように仕立て、紀伊半島の周回に挑んだ。


 それを事前に察知していた長宗我部元親、信親親子の率いる水軍は大坂湾で待ち受けた。


 舟戦は辰の刻(午前8時)ごろに始まった。


 徐々に潮が引くとともに大坂湾から紀伊水道へと海水が流れると、長宗我部早船群の勢いが増し、友ヶ島海峡に殺到した。

 織田の黒船と戦艦長門は、甲板より群がる船に向かって火矢を打ち込む。


 その間に地ノ島と沖ノ島間の中ノ瀬戸(海峡)から迂回した小早川隆景を大将とした毛利船団が、後詰の北条水軍と激突。紀伊水道上で海域の奪い合いを演じる乱戦になった。


 互いに決め手の無いまま一刻(2時間)が経ち、北からの風が強まったのを契機に一度も大包を放つ機会も無いまま、戦艦長門が大坂湾の水域に突出して行った。

 それは、敵中での孤立を意味していた。


 その頃には艦上でも戦闘が始まり、甲板は魚を捌く俎板のように鮮赤が流れた。

 長宗我部の水兵は、山岳に棲む猿獣に匹敵する素早さと強靭さで織田九鬼軍を翻弄する。


 小早川と九鬼がほぼ同時に放ったドローンが、それぞれ北条と長宗我部の船群に甚大な損害を与えた。


 羽根を回す空の悪魔は、その小さなボディからボトボトと菜種油と火炎瓶を投下する。

 運悪く命中し炎上した船は、乗組員を海に追い放ち、藻屑となって海底に沈んでいく。

 満ち足りるという言葉を知らないドローンらは餌食を求め続けたが、やがて、温存していた重火器が戦場に駆り出されるに至り、その標的となって次々に数を減らしていった。


「真田昌幸の部隊がおりません!」


 その報告を聞いた長宗我部元親は「チッ」と舌打ちし右手を挙げた。


「父上」

「時間切れだ! 淡路に戻るぞ!」


 長宗我部信親は()()()先輩プレイヤーに一礼し、「全軍撤退!」と応呼した。


 同時刻、長宗我部の引き揚げを目視した小早川隆景は「もう少しだったのに」と歯噛みしつつ、大坂湾の方向に舵を切った。



 淡路島本島の南、沼島の沼島城を制圧した真田信幸隊は、その足で本島に上陸して淡路の重要拠点、洲本城に迫る姿勢を見せた。


 長宗我部軍はそちらの対応に係わらなければならなくなった。




◆◆◆





「御市さん。友ヶ島戦は引き分けです」


 浅井長政とともに木下陽葉に振り返った織田御市は「うん」と短く返事して車に乗り込んだ。


「隠岐の島海戦の方は――」


 御市の隣の席に腰を落とした陽葉。

 彼女の食い付き具合を窺いつつ、「勝ちました」と告げた。


「ああ、そーなんだ。上杉軍って海でも無敵なんだね」

「いえ、不戦勝です。織田信長は戦いを放棄して対馬に向かったそうです」


 長政が陽葉の隣に陣取り、陽葉は左右から挟まれた格好になった。


「――で上杉謙信は?」

「そのまま西進し、臼杵城(うすきじょう)に兵を入れたそうです」


 臼杵城(豊後国=現大分県臼杵市)は丹生島という干潟の小島に築かれ、周囲三方を海で囲った天然の要害である。

 城主はキリシタン大名の大友宗麟で、上杉謙信は彼の救援要請に最大限の誠意で応えたのだった。

 宗麟は城の入り口まで謙信を出迎え、彼の手を取って「共に島津を倒しましょう」と嬉し涙を流したとか流してないとか。


 とにかくも上杉の神将当主は、史実に反し、九州の地に足を踏み込んだことになる。

 取りも直さず、上杉の主力は、天下分け目の戦いの枠の外に身を置くことが確定したのも事実である。


 数日を経てからようやくその報告を聞いた木下陽葉は、織田御市とふたりで肩を落として上杉謙信のマイペースぶりを痛感したのだった。




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