027 福島正則(1)
摂津国、和泉国、河内国境界(=現大阪府)
―城郭都市堺―
戦って戦って。
そのすべてに勝って。
オレは認めもらう。
又左さんに。
オレはアンタに死んでもついて行くぜ。
「見てろよォ……!」
――っと?!
ゲームカードがブルった。着信か。
「ん? 陽葉さまから?」
電話でなくメッセージだ。
「うおお、陽葉さまぁ!」
又左さんが至上のご師匠なら、陽葉さまはオレにとって天上の女神だぜ。
ふたりともオレに生き甲斐を与えてくれた。
――さてと。なになに?
「ケガしたそうだけど痛くない? ムリしちゃダメだよ?」
かっはーッ。
業務連絡かと思いきや、愛情たっぷりのお叱りメッセージじゃねーのさ!
えーと……。ポチポチ。
「死んでお役に立ちます」
と。……これで返信っと。
「ふふ。もっと強烈にののしって欲しいところなんだがな。姫はお優しすぎるんだぜ」
「……きしょくわる。正則さん、その緩み切った目じりを何とかしてくれませんか。とっとと目の前の島津たちを防いでください」
「おうよ、テメーの指揮なぞ不要だぜ。島津はオレさまが一手に引き受けてやらぁ!」
見ててくださいよ、又左さん。
……アレ? でもどーやってこの活躍を見せたらいいんだ?
ん? また姫から着信? 「わたしの言ってるイミ、ちゃんと理解してる?」 ええ、100ぱー理解してますとも! ポチポチ。グフフ。
「よー佐吉。オレの活躍動画、撮っとけよな。後で陽葉さまに送るから」
「……そんなゆとりアリマセン。自撮りしてください」
ハラっ立つ。
んじゃ島センパイに頼もうか。……いや、島センパイは佐吉の部下、ちーっと気が引けるぜ。
するってーと……。
「オーイ! 本願寺!」
「ハーハー。な、なんなんだよ、いったい」
まだバテてやがんのか、ひ弱なお坊ちゃんめ。
ちょっと10キロばかり、戦いながら走っただけじゃねーか。
「オレの雄姿を撮っとけ。きっとプレミアつくぞ?」
「……あぁ? 人の死ぬところなんて撮りたくないよ。バカだろ、ひょっとしてオマエ?」
死ぬところ? ダレが死ぬんだ?
「あなたも顕如っちとおんなじ、げえむぷれいやぁなんでしょ? わたしが代わりに撮ったげる。えーと。それで誰に遺言を遺すの? 立派な最期だったって絶対に伝えといてアゲルからね。安心してわたしたちのために死んでね?」
遺言だと……如春尼とか言ったか、この子。
気が利いていいヤツだな。顕如のヨメにはもったいないぜ。
「いいか如春尼。今日からオマエはオレのヨメだ! 未来の旦那のカッコイイところを存分に収めておけよ! わかったか?!」
「……えー……この人こわいよ、たすけて顕如っち」
ん? 随分シャイな子だぜ。
オレが魅力的すぎるせいだな。
「すみません。木下家の恥さらしです。どうか大目に見てくださいね」
「テメー佐吉イ。しょっぱな退治されたいのか?」
「いいから待てよ。これ預かってたから正則さんに渡しますよ。前田又左さんからの手紙です。『キミの活躍に期待する』そう書いてありますよ」
な、なんだと?
又左師匠がオレに手紙?!
陽葉姫に続いて師匠からもお叱りを頂くなんて、どこまでオレは果報者なんだ。
「さっさと寄越せ! ……ん? これ英語……」
「バカだな、古文ですよ。読めなくても正則さんなら心の目で読めるでしょう?」
「え? それ英語でしょ?」
「わたしも英語に見えるわ」
「ヤダな、顕如さんも如春尼さんも。……正則さんにはどっちでも構やしないんですよ、ねぇ、正則さん?」
んー?
まぁ……どっちにしたってオレは心の目で読むから問題ないぞ。
「……でも又左さんが英語の手紙とか書くかな。……あれ、島さん? どうして頭を抱えてるんですか?」
「オマエらといると一生懸命戦っている事がどうでもよくなってくる」
島センパイよ。
アンタ何が言いたいんだ?
「とにかく突撃じゃあ! 島津を返り討ちにしてやるゼ!」
「勝手に外に飛び出さないでください。よーく見て、長宗我部軍が沖に引き上げているでしょう?」
「あーん? ……あー……まーそうだな」
「我らが堺城市に逃げ込んだところで、島津軍の追い討ちも停止しています。恐らく大量の鉄砲攻撃にひるんで警戒しているんだと思います」
「アホか佐吉。それ先に言えよ」
「それに雑賀孫一隊の側面攻撃も効いているんでしょう。でも状況をもう少し見極める必要があります」
あーイライラする。コイツは万事考えすぎなんだ、もっと要領よく生きろや。
「……お? 雑賀の連中から何か動画が届いたぞ? ――真っ黒な船と、バカでかい戦艦」
すると佐吉がオレの頭に手をかけて、オレの首を捻じ曲げやがった。何だよ、コイツ?!
「ええぇぇぇ! 黒船と戦艦長門がもう来たの?! スゲー、スッゲー!」
「アルジ、興奮しすぎです」
「どーしたの? 石田さん、なにが?」
島左近と本願寺顕如は、援軍の出現より佐吉の豹変ぶりが気になったようだ。
オレの耳は、わめく佐吉のせいでバカになった。