020 今川氏真(2)
山城国(=現京都府)
―二条城(室町御所武衛陣)―
さて、ここからが本題らしい。
足利義昭……(一応の礼儀だ、さまをつけてやろう)がナゼ将軍位に就けたか。その説明を頼まれた。
前述したと思うが、義昭さまの将軍就任をジャマ立てしていた者が数人いた。
右大臣、花山院家輔と薩摩の島津、そして中国毛利、四国長宗我部。
わたしら東神連合に対抗している、日ノ本の言うなれば西側諸国連盟だ。現在ゲームの中で日ノ本の国は、東西にザクッと分断した情勢なんである。
当然ながら将軍の後継問題は紛糾しかけた。
江戸の幕末と同様、存在を誇示する薩摩島津は、当主島津義久(西郷隆盛)の上洛などという歴史を裏なぞりするような手に出て室町政庁と朝廷を混乱させ、また、それに遅れじと中国長州の毛利が長途上洛の軍を進発させた。
そんな混沌を打破したのが正親町天皇。
正確には、正親町天皇を動かした菊亭晴季。
そして、これはずぇったい認めたくないんだが、弱腰の菊亭晴季をその気にさせたのは、恐らく木下藤吉郎陽葉……だ。
もっとも菊亭晴季はゲームプレイヤーだったから木下陽葉もとっつきやすかったんだろうし、第一木下には武田信繁や上杉謙信、それに本願寺顕如なんかの強力なプレイヤー仲間のバックアップがあったし、菊亭晴季の難敵だった花山院家輔のライバル、内大臣九条兼孝の抱き込みにも成功したから、結局のところ、これら諸々が決め手になったんだと思う。
――で補足として、なんで九条兼孝がこっち側の味方に付いたのか、なんだが、敵の敵は味方という事もあったのと、もうひとつ。大の大人連中が小娘が絡む色恋で惑ったも正直大きい。
……うーほんとトホホに情けない。
あのギャル女、斯波義銀の仕業だ。
アイツは、容姿はわたしから見てもまーまーなカンジだし、性格もまー……そんなに悪くない。
まずはそれで九条兼孝が引っ掛かって(かの内大臣さまが、だ)アイツを口説き出して……なところで菊亭晴季が仲を取り持つとか言葉巧みに乗せたことから、朝廷が大きく動きかけた。(マジでだ)
動きかけたんだけど、九条が何者かに暗殺された。
犯人は薩摩だってのがわたしら東神連合の見解だが、それはまぁ置いとく。
とにかくここで菊亭晴季一党、つまりは東神連合の推す足利義昭は伝手を失って不利になるハズだったんだが、そうはならなかったんだな。
まったく呆れかえる話だが。
要は政敵の花山院家輔の動向だ。
あろうことか、ヤツも斯波義銀にチョッカイ出そうとしてたんだよ。つくづくオヤジたちに好かれる女だ。そうこうして九条兼孝が死ぬ。薩摩島津は不心得者九条を誅殺したぞと花山院に喧伝した。(これは推測)
しかーし。
花山院からしたら自分も斯波義銀には少なからず色目を使ってただろうから、暗にそれを非難しとんのか! となって、清廉潔白、イイ子ぶった薩摩を目障りに感じる。
そのあたりの絶妙なタイミングで、菊亭晴季が講和を持ち掛けたという次第だな。
条件はよく分からんが、斯波の扱いも無関係じゃなかろうな。
「しかしそれでは斯波さまがあまりにも不憫ですが」
坂井大膳がわざとらしい口をはさむ。
当然、花山院家輔の言いなりになるつもりは、斯波には毛頭ない。
それとなーく菊亭が、天子さまのお耳に届くよう宮中で色恋騒動の顛末を触れ周り、結果、花山院に対し不快の念を抱かれるにいたった。
花山院の信用低下と、東神連合の朝廷内での勢力伸張は反比例した。
薩摩は状況の不利を知り、いったん国元に引き上げた。
または毛利軍と合流するために一時京を離れた――とわたしらは考えている。
「こんな話、わたしは興味ないしツマランのだがな」
「出番を得るには色々ご苦労をしなければならんのですよ、氏真さま」
「知った口を利くな」
ベラベラしゃべったが、これぜーんぶ妹の徳川家康から教えてもらった情報だ。
「にしてもだ、権力者と言ってもオトコどもの生来のアホさにはホトホト呆れるな」
「中年紳士は可愛らしいオナゴが大好きですからな」
「……う。それ以上言うな、坂井。叩き斬るゾ」
「くわばら、くわばらでございます」