017 織田御市(3)
播磨国(=現兵庫県)
―姫路城郊外―
「もっと飛ばせないの?!」
少しずつ引き離されてる。これじゃ逃げられちゃうよー!
「御市さまあッ、ここは戦国期の道路ですッ! 幾らオフロード車でもムリがありますッ!」
運転手の長束正家クンが悲鳴を上げる。
「それ言うなら向こうだって同じ条件でしょーが」
わたしらは暴走する車両を追い掛けていた。
検問所を突破した車だ。
木下藤吉郎陽葉の差配がどの程度のものか見聞してやろーって、はるばる姫路までお忍び旅行したってのに、どーしてこんな状況になっちゃったの?!
後部座席で腕組みして黙ってる仙石秀久クンが犯人だ。
「キミが余計な発見しちゃうから、鬼ゴッコに発展したんじゃないっ」
「……はぁ。オレがっすか?」
◆◆◆
播磨国(=兵庫県)別所三木城の増強工事に参加していた彼らふたりはその日、幹線道路の検問にあたってた。そこへわたしが変装で通りかかって。ソッコー身バレして。
「御市さま! あなたは京都の防衛を任されてたでしょ!」
なんて長束クンがゴチャゴチャ騒ぐので反論してモメてたら、傍で仙石クンが怪しい車を止めて。
「おーい長束クーン。コイツら怪しくないっすか? だって車、SUVっすよ?」
「だから何なんだ? ゲームプレイヤーなんだろ? それくらい乗ってても不思議じゃないさ。 ――なぁオマエら、そうだろ?」
わざわざ不審車の連中の代わりに弁護してやり、わたしの相手を再開。なんでやねんっ!
「せめてさぁ。その人らのプレイヤーカード確認したら?」
「えー。メンドーっすよ」
「アンタら何のために検問してんのよッ!」
――押し問答してる隙にジープ、発進。
見送る彼ら。
「行っちゃいましたよ。ゲームプレイヤーは見逃して構わんですか?」
「追い掛けなさいよ、アホなの? バカなの? ゲームプレイヤーだから看過できないっての! 行くわよッ!」
「ちょ、まだあなたの尋問が」
「長束のアホーッ! ここには乗り物無いの?!」
「バイクならあります。オレの愛車っす」
「……。わたしのジープで追い掛けるわよ! 乗りなさい!」
◆◆◆
「このジープ! 武田信繁の愛車っすよね」
仙石クン、ご名答。わたしのって言っちゃったけど、実は拝借しました。
「そーよ! ウィリスM38改造型よ。とにかく丈夫なの」
「御市さまッ、検問係はどーするんですかッ」
「長束クン、キミはね、ひとつのコトに執着し過ぎなの。いまは運転に集中しなさい」
「長束ぁ、オレが運転代わってやろう」
後部座席にいたのにヒラリと前に移り、ハンドルを取る。なんて身軽。わたしみたい。
危ないって思う間に長束クンは後部に投げ移された。なんて怪力。ナガマサみたい。
「撃ちますか?」
と聞きつつ仙石クン、発砲。
「いいよ」
と答えてわたしも発砲。
「わーッ、コイツら狂ってる、狂ってる!」
「人を捕まえてなんて言い草、相手に当たんなきゃノープロブレムっしょ!」
追跡開始から1時間経過。姫路の城が見えてきた。
田舎とは言え、往来を行き交う人が増え始める。
急ハンドル急旋回の連続。
「これじゃ撃てないね」
「当たり前だ!」
「カリカリすんなよ長束。だからカノジョに振られるんだぜ」
「な?! ウゼエ、コイツ!」
後ろから仙石クンの首を締めにかかるから、大きく車が蛇行。
「長束クン! 戦後武将カードで黒田官兵衛に電話!」
「もうしましたよ。――仙石クン、停車して」
追跡車両の行く手で爆発。
城から大筒が放たれたんだ。
命中精度は恐ろしく低いが、動揺は誘ったみたい。急停車……しようとして運転を誤り、道のノリ面を滑り落ちた。2、3回転してひっくり返った状態で停止。
「ひょえええ?! やりすぎですよぉ!」
「……あ、いやいや。キミだよ、姫路城に応援頼んだの」
「ダレが乗ってんですかねぇ」
わたしの予想だと……!
「死んだんじゃないですかっ!」
「え? それは確かにやりすぎ……」
怖気づく長束クンを置いて、わたしと仙石クンで駈け寄る。
仰向けの車体から這い出したのは――。
「あなたは……島津義弘……だっけ? く、黒船に乗ってたんじゃなかったの?!」
「あたた……、そーよ。――黒船? そげん分かりやしリスクは犯さん。おい用心棒。出番じゃ」
ニュッ! と刀の先っぽが伸びた。
わたしに届く手前でそれが止められる。
仙石クンの抜いた刀身が、がっちりわたしをガードしてくれていた。
「オレが天下に名高い仙石秀久だ。名を名乗れ」
「――岡田以蔵、殺し屋だ」
は?
岡田以蔵? 幕末の? 例の男?!




