015 黒田官兵衛(1)
播磨国(=現兵庫県)
―姫路城―
「さーて。そろそろだな」
「軽い男だなぁ、クロカン! 生きるか死ぬかのピンチなんだぞ!」
修羅場なのはわかってるがな。
傍らの山内鹿之助がキーキー騒いでてやかましいので、逆にどこか冷めた自分がいる。
「別所長治よう。何か見えるか?」
「クロカンさんの期待通り、毛利の軍勢が迫ってるねぇ」
双眼鏡から眼を離して答える別所。
僕、クロカンこと黒田官兵衛と、山内鹿之助、別所長治は同じ時代出身の親友同士、学校も同じだ。だが性格がまるで違う。
「陸じゃあなくって海の方だ。船が通ってないか?」
「船? あー黒船が三隻見えるね」
「そーだろ」
「く、黒船だぁ?!」
鹿之助は直情型。
いちいち興奮して人の話も聞かず、ここ、姫路城の本丸館を飛び出してしまった。そしてすぐに全速力で戻って来た。
「どうやら島津のご一行さまだ! 大筒を使おう。今なら殺れる」
だからわかってるって、島津だってのは。
「物騒なヤツ。ムリだ、届かないって。無駄撃ちになる。少しは落ち着け」
別所から双眼鏡を借り、念のため自分の目で確かめる。
先頭が島津歳久、そして二番艦が義弘、さらに旗艦が当主の義久か。
うまく罠に掛かってくれたらいいが。
――と、予定の頃合に爆発音がした。
「歳久の艦が立ち往生しちゃったよ?」
「ああ。……だな」
どこか間の抜けたトーンの別所。かたや鹿之助が狂喜する。
「機雷を仕掛けておいた」
「彼らの進路に? 予想してたの?」
「――そりゃまぁね。上手くいって良かった」
「座礁するぞ! 沖に兵を繰り出そう」
「必要ない。それより尼子の殿に一報入れとけ」
「え? おお、わかった!」
尼子の殿はゲーム上、山内鹿之助の主だ。でもって、こいつの使命は尼子再興。条件を満たすとどうもボーナス特典があるらしい。先日ゲームマスターやらからそういう通知が来たって話だった。
尼子氏の現当主、尼子勝久は、鹿之助を頼りにして宇喜多家が所有していた播磨国(=兵庫県西南部)の上月城を奪取し籠城後、毛利勢の逆襲を予期してもなお頑なに退去を拒んでいたが、上方の木下藤吉郎陽葉から上杉謙信軍の山陰遠征を聞き、念願だった父祖伝来の拠点、月山富田城(=島根県)の奪還に動いた。
姫路に入城した鹿之助の行動は、尼子勝久にとっては言わば陽動。彼自らは少数を率いて上月城を抜け出して一路隠岐の島を目指している。そこで上杉水軍と合流する手筈だ。
「島津の大将格が姫路沖でトラブルになれば、本国の兵らは大慌てで救援に駆けつけるに違いない。一方毛利は二方面からの侵攻を受けて戸惑い、進軍速度を鈍らせるだろう」
「うんうん」
別所が目を輝かせている。いい気がしなくも無いが、男の視線は幾ら浴びてもあまり嬉しくはない。
「そう言えば別所。こっちの世界で嫁さんがいたな」
「うん、いるよ。波多野照子さん。嫁さんと言うか、カノジョだよ」
「な?! 照ちゃん、こっちの世界に連れて来たのか?! やるなぁ」
「こんなことになるって思わなかったものだから……」
今は別所家の拠点だった播磨三木城にはおらず、木下陽葉の所領になっている甲斐国(=山梨県)に引き取られ暮らしていると言う。どうりで彼も素直に木下の言う通りに動いているわけだ。
かく言う、僕もなんだが……。




