012 織田御市(2)
空想歴史ファンタジーです。歴史ファンの方、ご注意ください。
言いたい事は全部言ったよー。
そんなカオして徳川の家康ちゃん、むっつり寡黙になった。それと入れ替わりに滑らかに舌を動かし出したのは、木下藤吉郎陽葉ちゃん。
あーしよこーしよと、自分の考えを積極的に繰り出し、軍議の主導権を握りはじめた。
別にいーけど。なんかクヤシイ。
対してうちのナガマサは口下手だし。ここはわたしの出番なのか?
「はい!」
びしっと手を挙げてやった。
「あ、織田御市さん。どーぞ」
当てられちゃった。
さて何話そう。
「わが浅井家が掴んだ情報だと、毛利方は備中高松城(現岡山県西部)を出て東に進軍、備前亀山城(現岡山県東部)を包囲しつつあるって話だよ? ちょっと出遅れたんじゃない?」
思った以上に空気が変わった。
余裕をかましてた藤吉郎ちゃんが大慌てになって、大きな地図を広げて確認する。
「あ、大丈夫。そのお城は宇喜多直家さんが守ってます。そうカンタンには落ちませんよ」
「えー宇喜多秀家クンも戦国武将ゲームのプレイヤーでしょ? 彼って、ホントにわたしたちの味方なのかなぁ?」
「そ、それは……」
「織田御市どの。御市どののおっしゃりようは理解出来ます。つまり宇喜多は毛利の与していると?」
竹中半兵衛さんのツッコミ。流石アタマの回転早いね。
「状況からしてそーとしか思えないよ。数の上で劣勢の毛利が、幾ら薩摩衆に先んじたいって言っても、まったく考え無しに上洛軍を興すわけも無いし」
藤吉郎ちゃん、地図の一点を押さえて言う。
「上月城(播磨国、現兵庫県)の山内鹿之助さん(戦国武将ゲームプレイヤー)に連絡して、備前飯盛山城(現岡山県東部)からけん制してもらうコトにしようか」
「いや、御市どのの言う通り、宇喜多はすでに毛利方でしょう。となると最早小手先の対応はムダなだけです。播磨姫路城(現兵庫県)に戦力を寄せ、対抗の準備をするべきです」
半兵衛さんの意見に気色ばんで反対したのは、色白長髪の少年。織田美濃お姉ちゃんの配下、荒木村重さん。
「姫路の城は黒田官兵衛が押さえてるだろ? オレ、黒田は嫌いだ。なんでわざわざアイツの城に出向いて守らなくちゃなんないんだ?」
んー?
そーいや荒木さんと黒田官兵衛くん、同じガッコーだっけ? じゃあよくあるパターンだよね。部活とか成績とか、リアルでの人間カンケーのこじれで仲が悪い、みたいな?
「荒木さんにまで援兵しろとは言ってないよ? ただ黒田くんとは事前に話を進めててね、播磨三木城の別所長治さんにもオーケーもらってて、姫路に兵力集中させる算段にはなってたんだ」
「……という事は、黒田官兵衛はすでに史実通り、木下家の家来になっているという事なんですか? センパイ? いつの間に裏工作してたんですか」
藤吉郎ちゃんに、織田美濃お姉が別視点の詰問。
そりゃ、これから戦いの場になる地域に根回しくらいしてたってフシギじゃないよ、そんなに目くじら立てんでもいーんじゃない?
竹中半兵衛さんが藤吉郎ちゃんの代わりに「わたしが説得し木下家に迎え入れました」と説明した。
「織田家にも可能な限り協力頂ければ有難いですが」
「自分たちの城に他家の兵を入れて守りを固めるとか、ずいぶん都合よくないか?」
荒木さんがむくれる。まー彼は木下配下じゃないもんねぇ。
「それなら京にいる上杉軍に出張ってもらえばどーなんだ?」
「上杉さんには別の任務を引き受けて頂いてます」
「別の任務? なんだ? それ」
荒木さん、秘密裏の作戦と言われて一層機嫌を損ねる。織田美濃お姉は、口をくの字に曲げて苦り切ってる。彼女としては、織田が完全に後れを取ってる状態なのに不服をぶつける相手もなく、そんなカオになるのも仕方ない。
「テメーら。つまらんことでぐちゃぐちゃ仲間モメしてんじゃねーよ。……それとも、東国でもっかい群雄割拠の戦国時代を満喫するかい?」
すごむのは、武田信繁。信玄の弟だ。
旧日本軍の軍服の胸を開き、真っ白のシャツを目立たせている。ボサボサ髪で無精ひげ。緩み切った身だしなみなのに、やたらギラつく眼のせいで、やさぐれ感よりも威圧感がハンパなく強い。溢れ出す精気を相手にぶつけようとしてるみたい。
黙り込んだ荒木さん。トーゼンながら納得して矛を収めたわけじゃない。
でも結果的にたった一言で反発者を封じ込めたんだから大したもんだよ。こんな人材を部下にした藤吉郎ちゃんって意外とヤルヤツかもしんないな。
「上杉は日本海より水軍を走らせて隠岐の尼子残党と合流します。そのまま西進し直接長州を攻めます。九州の大友、竜造寺への加勢です」
きっぱりと作戦内容を告げたのは上杉謙信さん。戦国武将ゲームプレイヤーの中で一番の年長者だ。あと3ヶ月ほどで規定年齢の18歳に到達してしまうらしい。ナガマサが言ってた。だからわたしたちは上杉に協力することにしたんだ。
「――木下藤吉郎さん。じゃあわたしらは山陰方面を担当したらいいの?」
「いいえ。済みませんが上杉留守中の京を守ってください」
「わかった。そーゆーコトだよ、ナガマサ。朝倉義景さん」
力のこもったうなづきを返すナガマサ。ただ唖然としたままうなづく朝倉義景さん。
よし。浅井朝倉は急ぎ上洛し、京を死守する。
「待って。織田もおるんやで!」
織田美濃お姉ちゃんが気張る。放置されたと思ったのかな?
「陽葉センパイ。わたしらは大坂城に入ればええの?」
「そうです。織田、徳川、北条、武田、木下は大坂で軍備を整えて毛利、島津、長宗我部連合軍を迎え撃ちます」
「予定戦場は?」
「福原、尼崎あたり。もしくは山崎」
「じ、じゃあ、姫路城は?」
木下藤吉郎陽葉ちゃん、黙った。
その眼を見て背中がゾクッとした。
「姫路は捨て駒です。山内鹿之助、別所長治、黒田官兵衛は最悪ゲームオーバーを覚悟しています」
「……なんでそんな」
「時間稼ぎです。毛利の侵攻を遅らせ、島津と長宗我部も畿内におびき寄せます。三者を一気に撃滅します」
「…………」
幾らゲームとは言え、そんなに劇的にコトが運ぶわけが無いし。
だいたい自分から捨て駒を志願して、みすみすゲームオーバーになりたいヤツなんていないでしょ?
自然、木下藤吉郎陽葉ちゃんにみんなの視線が行った。
彼女が何を言い出すのかと期待した。
全体を見渡した彼女、ゆっくりと話し出す。
「この作戦は黒田官兵衛くんが立案しました。もちろん彼らはやすやすとゲームオーバーになる気はありません。彼らはこう言ってました」
それは実にバカバカしいコトだった。呆れて笑ってしまった。
「あの3人、中国大返しばりの金ヶ崎退き口に挑戦したいそうです」
ではまた次回。




