007 雑賀孫一(1) 武装強化
空想歴史ファンタジーでラブコメ?
北側一帯が焼失した本願寺境内に踏み入った雑賀孫一とその一党は、木下藤吉郎陽葉らと合流、すでに淀川下流に去り、見えなくなった織田信長の背をにらんだ。
「死んだ人の数は分かるだけで300人だ」
「……前野さん。信長さんの意図は何だろう」
「さぁの。皆目見当がつかん」
被災者の救護やくすぶり続ける火元の消火活動などを手伝い、木下勢と雑賀衆はそろって近江坂本に向かった。ここは現在上杉領となっていて、上杉景勝を名乗る戦国武将ゲームプレイヤーの高校生が内政を差配していた。
プレイヤー仲間の上杉謙信とは兄弟だという。兄の謙信は線が細い体つきをしている印象だが、弟の彼はいわゆるバリバリの運動部に属するような浅黒く頑強な体格の持ち主だった。
ただ、やたら大人しい。
「国友衆を湖西に移住させたんですか?」
「は、まぁ……」
国友衆は鉄砲鍛冶の集団である。本来は琵琶湖湖東、長浜の地に彼らの本拠があるが、そこは浅井の支配地域であったため両国間で話し合いをし、分家という形で対岸部に新村を開拓したらしい。
上杉と浅井がいかに強固な関係を結んでいるのかが、この一件を見てもよく分かる。
「わたし、雑賀孫一です。国友鍛冶の技術を学ばせて頂きたくて、紀州から参りましたぁ。どうか許可をお願いします」
ペコリとお辞儀する孫一ちゃん(小学生)に、高校生男子である景勝は恐れ入って平伏した。つられて陽葉やイチゾウも深々とお辞儀した。
「――と言うか、この子、小学生ですよね……?」
「わたし、平成15年生まれの小学生です。でも一生懸命勉強してひなわじゅうを使いこなせるようになりました。でもとくいなのわ、拳銃です。ワルサーとか、愛用してます。どうかよろしくです」
「……拳銃……ワルサー……」
景勝、絶句。
普通小学女児の口から拳銃やワルサーなどの語句は出て来ない。
苦笑いの陽葉が補足する。
「彼女、実家がいわゆる任侠ってか、その……反社的なご家庭で。物心ついたころから護身用に拳銃を持たされてたみたい」
「はぁ……。でなぜ、プレイヤーに?」
「いんたーねっと? 彼女の時代にあったコンピュータ機械でいろいろ調べて、戦国武将ゲームに興味を持ったんだって」
「はい。都市伝説だと思ってたんですが、雪霜ちゃんが」
「雪霜ちゃんってのは徳川家康ちゃんの妹でね。彼女がこのゲームの話をしてて聞き知ったんだって」
ニコニコとうなづく孫一ちゃん。邪気が無い分、傍からすれば余計に恐ろしく感じられる。イチゾウなどは人知れずブルッと総身を震わせている。
「待てよ、陽葉。おまえ、サラッと不気味な事実を伝えたな? 初耳なんだが、つまり家康と孫一は知り合いで、孫一はヤクザの娘。という事は、徳川はヤクザの娘と通じてるってか?」
「言ってなかったっけ?」
イチゾウは了解しましたとばかりに自嘲気味に笑ったが、前野将右衛門と又左にはヤクザが理解できないので同情が得られなかった。
「雑賀孫一さんたちの受け入れは可能ですが……。それよりも、本願寺の一件はいかがなされるおつもりですか?」
景勝に指摘され、陽葉のカオが曇った。
なんせ逃げるように近江に来たのである。
状況からして織田信長の悪行は、木下や雑賀もグルだと思われても仕方がない。
「わたしが訪問した日に襲撃されたこと、雑賀一党の威嚇射撃はわたしの指示だったこと、織田信長の北面上陸もあらかじめ打合せしてたこと。責任がわたしにあるのは間違いないし。本願寺顕如が敵対の姿勢を示しても仕方ないってか、当たり前だと思う」
「大坂占拠は諦めると?」
「そんなコトは言ってない……けど」
陽葉は近日中に本願寺顕如を訪ねる覚悟を決めていた。彼自身でなくても本願寺の誰かが自分を捕まえて死刑にするとしても、それは当然だと彼女は言い、
「ただ、わたしは精魂込めて大坂を貰い受けたい旨、彼に伝えたい。一刻も早く大坂の地を得て、西の勢力に対抗しなきゃ、今回のような悲劇がまた起きると思うから」
もしかすると信長の意図もそのあたりにあったのかも知れない。
つまり西側諸国に上洛の機運を持たせ、東神連合と争わせる。武器兵器の需要が高まれば、信長は莫大な利益を得るだろう。
以前彼は海外進出の夢を語っていた。恐らくこの推察は遠く外れてはいないはずだ。
「そうはさせない。日ノ本の騒乱は早急に鎮めるから」




