13歩 「付け火」
「逃げる、逃げる、逃げるうっ」
「慌てるな」
「かっ、火事ッ! 火事なんだよ、ちょっと?!」
「気にすんな。今、あわてて外に出る方がアブナイ。出てきたところをバッサリ殺られる。だまってオレのそばにいろ。そうしていれば、おまえは死なない。……絶対に」
うはッ、この男子カッコイイ!
……じゃないッ。
このままじゃ、焼け死ぬって!
まわりが焦げ臭くなってきたしッ。
「陽葉センパイ」
背後から肩をつついて来たのはなんと維蝶乙音ちゃんではないですか!
「ああ? ええッ?! お、乙音ちゃん?!」
「あの。さっきは不愛想でごめんなさいでした」
と、丁寧に頭を下げた。
「ホントにあの、乙音ちゃんなの?!」
「はいっ。乙音です。……言い訳ですけど、部下たちの手前……ううん……ごめんなさい。元気にしてはりましたか? すごいぶりかな? 木下……恋さんも変わりなく?」
彼女は関西弁だ。
小学校時代まで大阪に住んでたって、家に来た時だっけ、わたしの妹の恋がそういやそういう風に紹介してくれてたのを思い出した。
同郷だし、ときたま関西弁が出ちゃうわたしとしては、親近感がわく要素の一つに挙げられるのかな。
「ウ、ウン元気だよ……って、それどころじゃないって! この建物、火事だよ!」
「ええ。承知です。不安や思いますけど、今、外は敵兵だらけでもっと危ないことになってます。まぁまぁ、だいじょうぶです。みんな、直ぐになで斬りにしますから、ちょっと間ガマンです。……それより、久方ぶりなんですから、ちょっと語らっときましょう」
くう、図太い。肝が据わりまくってる。
オロオロと又左を見る。
片膝立ちで乙音ちゃんに敬意を示しながら、周囲に目を配ってる。まったく忠義な勇士デスネ。
壁の向こうで解読不能な叫び声や金属同士がぶつかり合う音、物が破壊される音がリアルに聞こえてくる。ヒイ。
「陽葉センパイに聞こう聞こうと思てたんですが、駅前のコインシャワー、閉店とかしちゃってます?」
「は? え? ええ、あの店、酔っぱらいのトラックが突っ込んだんだよ? 三ヶ月ほど前……かな、それからずっとそのまんま……」
「やからです。わたし、現代に帰れんくなったんですよ。出口って言うか、帰りの道を失くしてもうて。センパイも注意が必要です!」
ゲ、失くした? 帰り道を?!




