29幕 織田美濃(2)
【第2部終幕まで今回入れて残り2話】
完全空想歴史ファンタジーラブコメ。
「お姉ちゃん? ああ、あの人はビョーキだよ。どうにかギリギリ出席日数はクリアしてるみたいだけど、授業終わったら直ぐにいなくなっちゃうらしいし、土日とか休みは出掛けたままゼンゼン家に帰って来ないし」
物があまり無く地味な佇まいの部屋。
唯一目立つ、カベに貼られたひまわりの写真をボンヤリと眺め、木下恋に維蝶乙音が質問攻めしている。
「それとさ。木下……さんも時々戦国時代に来てたやんな? 陽葉センパイの手伝いで?」
「そう……ね。例のカード作ってお姉ちゃんの居所確認して。身の回りの事とかまーったく無頓着だから。……そしたらいつの間にか人事管理? とか経理とか手伝わされ始めて。私を雑用係としか見てないんじゃないの? ってハラ立つよ」
そう答えた木下恋――陽葉の妹のカオは明るい。
観察していた目を逸らせた乙音は、机の上の教科書を見つけめくった。
「――歴史の教科書って。いま、どーなってんの?」
「えー? 歴史って日本史? わたし歴史不得意だしあんまし興味ないなぁ」
「そういう意味やなくて、わたしらの歴史改変がその後の歴史にどう影響してんのかなぁって」
「……別に。何も変わって無いんじゃないの?」
恋は日本史の教科書を乙音に手渡した。ペラ見する彼女。
「おかしい……。織豊政権からフツーに江戸時代になってる」
「そりゃそーだよ。あの世界は【戦国武将ゲーム】ってゲームの世界なんでしょ? 仮想とゲンジツをごっちゃ交ぜにしたらダメだよ」
「……仮想と……現実……」
教科書を滑り落とした乙音。立ちくらみしたようだ。恋は驚き、彼女をベットに座らせた。
「ウチのお姉ちゃんがさ。どうしてこうもゲームに熱を入れてるか分かる? たぶん維蝶さんの事が心配だからだよ? だって日に何回もあなたの名前を口にしてるよ?」
「陽葉……センパイが?」
「そーだよ。でなきゃ、いちいち軽トラ・コインシャワーまで作って行き来なんてするわけないじゃん。最初は異世界だ、なんだって、お姉ちゃんはしゃいでたけど、近頃は『乙音ちゃんが、乙音ちゃんが』ってそればっか。やっと維蝶さん帰ってきたから、内心大喜びしてると思うよ? きっと」
◆◆
「わたし、どんなに説得をされても、もう昭和には戻って来ませんから。明日朝、オープンプレイヤーになってでも戦国時代に行くつもりですから」
維蝶乙音は元々スイッチプレイヤーだった。時間が経過すれば元居た世界に戻れた。だがある時、跳躍元のコインシャワーが何らかの理由で無くなり、帰れなくなった。彼女はそのまま戦国時代に居残ってしまったのである。
せっかく帰れたんだから、もうこのままこっちの世界で様子見したら?
妹に相談していた陽葉は、乙音にそう説得してみると宣言していた。だが翻意はならなかった。
妹の部屋にムリやりフトンを持ち込んだ陽葉は結局、乙音、恋と3人川の字で寝る事になった。そんな状況でも乙音の気持ちは揺るがなかった。
「維蝶さん。あなた、勉強も運動も出来てたのになんで学校ギライになったの?」
「はぁ? 木下さんにとって学校は楽しいところやったん? 何かさ、バカみたいなカンジせんかったん? みんなと同じ方を向いて、同じコト聞かされて……。寄ってたかって、同年齢の連中が同じ動き。アリとかと変わらん。そうは思わんかった?」
「いや……別に。それが学校だし。それに、会社も似たようなモンでしょ?」
ひっかぶっていたフトンを跳ね除け、天井に腕を突き上げた乙音。
「ああ、ツマラナイ。本当にツマラナイ。生きるってナニ? 青春ってナニ? 社会に役立つ立派な人になるって何なん? わたしはそのあたり、大人に教えてもらうんやなくって、自分で答えを探さなアカンって強く思ってんねん。……やからね、木下さん。……陽葉センパイも。わたしは自分勝手に自分のしたいコトを存分にやろうと思います。――って、それでいいですか?」
「維蝶さんがそこまで言うんだったら、もう止めたりはしないけど」
諦めた口調で言うと、恋は、ずっと黙っている姉の陽葉に「お姉ちゃんはどうなの」と少し咎めるように振った。
だが。
「…………ぐぅ」
「……センパイ、寝ちゃってるよ?」
「こんの役立たず姉。維蝶さん悩んでるってのに、もうちょっと親身になれっての」
妹の怒りと、のほほんとした姉とのギャップがツボにはまったらしく、乙音は両手で口を押えて笑い転げた。
「わたし……、陽葉センパイに憎まれたって思ってた。前将さん、わたしのせいで死んじゃったんだから」
「あの人、アンカーカードのおかげで助かったんだってね。ホント良かったね。……でもそれを気にしてたんだ、維蝶さん」
「そりゃ……ね」
陽葉の、立てていた寝息がピタリと止んだ。
「乙音ちゃん。立ち止まっちゃダメ。走りながら考えよう」
明らかに寝言ではない寝言を発した陽葉は、寝返りを打ち、再び寝息を立て始めた。
年下ふたりは言葉を失くし、背を向けた陽葉をしばし驚きのカオで眺めていた。
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木下藤吉郎陽葉と香坂くら、感謝・感激いたします。
次回で第2部、最終回となります。