27幕 エキナカ喫茶店で
完全空想歴史ファンタジーラブコメ、今回も始まりはじまりぃ。
「死んでない……前野将右衛門……?!」
フッ……と嗤った明智十兵衛光秀。
掲げていた拳銃の筒先を下げた。脱力したように見えた。
「……木下藤吉郎陽葉さん。私はあなたを見くびっていました。たまたまアンカー(プレイヤー)カードを持たされただけにすぎない……そう思っていました。しかしあなたは、この短期間にカードの特性を相当研究されたようだ。私には慮外の範疇でした」
一瞬悔しそうにし、再度思い出したように首を振り嗤った。
「――それにあなたはルール上、貸し借りが禁止ではない事に気付き、最大限にそのルールを利用した。さしずめ香宗我部イチゾーさんか、前田又左さんにアンカーカードを貸したんでしょう。バイクを使ったのは現世で迅速に移動するためだったんですね」
一方の陽葉はキョトンとする。
「う~ん、まぁ……。さすがだね」
感心したセリフを吐き、苦笑いした。
そして、「でも」と前置きし、「自分は『助けて欲しい』」と仲間に頼んだだけだよ」陽葉はそう付け加えた。
「明智さん。コイツのスゴさはな、絶対的に人を信頼するコトなんだよ。頼まれた方は最初面食らうけど。『それじゃあどうにかして期待に応えてやろうかな』って、必死に知恵を絞って。なぜか一生懸命援けちまうんだよ」
「あーそれ。その言い方ヒドクない? それじゃまるでわたしが単なる丸投げオンナみたいじゃん」
「まぁ、概ねその通りじゃから、しゃーなしだな」
「なんなのもー。気ィワル!」
イチゾーと前将を交互に睨みつけた陽葉、直ぐに破顔する。
「まー自覚あるから別にいいんだけど」
シャッと1枚のカードを取り出した陽葉。
それに武田弟と又左がカードを足し、合計3枚になった。
「――カードを独り占めしてたらわたし、きっとこのゲームに勝てないと思う」
パッパとカードをふたりに再分配した陽葉は、織田美濃と坂本龍馬の手を取った。
「じゃあね、明智さん。運が良かったら、また後で。名古屋駅構内、広小路口の喫茶店アバンテ。良かったら見つけて。そこでゆっくり話そ? ――じゃ」
木下藤吉郎陽葉が消えてからの数秒間で、木下一党がすべて長門の艦上から消え失せた。
ポツンと取り残された明智光秀はガックリと首をうなだれていたが、やがてひっそりと消滅した。
戦艦長門が大爆発を起こし、黒船を抱いたまま海底に沈んだのは、それから1分後の事である。
◆◆
明智十兵衛光秀が木下藤吉郎陽葉の指定した喫茶店に行き着いたのは彼の体感時間で約10分後。
身内に憤りを溜め込み、激しく息をついての到着だった。
「ハアハア。それにしても、よくもまぁ、わざわざ見つけにくい店を選びましたね」
「わたし、このお店大好きなんだもん。ささ、こっちこっち!」
花が満開したような笑みで招き寄せられ、明智はそれ以上の嫌味が続けられずに素直に席についた。まるで貸し切りになっているかのような店内を眺め回してから、「クリームソーダ」と短く店員に伝えた。
竹中半兵衛以下、戦艦長門に集った連中がカオを揃えている。
陽葉が口火を切った。
「明智さん。まずは織田美濃ちゃんと仲直りしてください」
「はぁ?」
「はぁ、じゃねぇ。小娘が言ってんだ。とりま従えよ」
「フーッ」と、武田弟が彼に紫煙を吹き付ける。
「失礼だよ」
陽葉にペシリ! とデコを張られ、驚いてタバコを灰皿に押し付けた。
「こんの、ガキ……」
「礼儀。最低限の。武田でしょ、それくらいできるクセに」
「チッ。……もう武田はヤメだ。これからはシゲルって呼べや」
「シゲル?」
「あー本名。北澤滋」
「シゲル。さっきは助け船有難う」
「……チッ」
あらためて周囲を見渡した明智は、ようやく肝心の織田美濃が居ない事に気付いた。その事を指摘すると陽葉は急に暗い表情を浮かべ、
「坂本龍馬さんと香宗我部イチゾー、あのバイクの少年ですが……が連れ戻しに行ってます」
「美濃どのは直ぐに戦国時代に戻るんだと。コインシャワー付きの軽トラはどこだ? と息巻いてらして……」
竹中半兵衛も弱り顔をつくって続ける。
「……すでにご存じでしょうがその軽トラは、我ら木下軍の要となる物。明智どのもこの機会ですからご覧になられますか?」
暗に織田美濃を追い掛けろと言っていた。
明智少年はキツイ目を半兵衛に向けた。が、穏やかに微笑していた彼がした注文がフルーツパフェだと知ると、たまらず「プッ」と吹き出し真顔に戻った。
「ああ。興味が出てきましたね。直ぐにでも見たいです」
「んじゃあ、わたしもお供しよう。――半兵衛さん。シゲルと前将さんを仲直りさせといて。又左も置いて行くから、懇親会戦線での戦力の足しにしてね」
「え……それは……なかなかの難事」
又左をチラ見した半兵衛、珍しく困惑めいた唸り声を絞り出した。
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