26幕 時限爆弾長門
歴史ファンタジーラブコメ、今回も始まりはじまりぃ。
「うっさい、バカッ!」
思わず怒鳴ったものの、照れを覚えたのか、頬をヒクつかせた木下藤吉郎陽葉。
咳払いで一呼吸置き、刀を握ったままの織田美濃に説得を試みだした。
「――ね、乙音ちゃん。織田信長さんは本当に天下を目指してるのかなぁ? もう一度そのあたりのコトを確認してみようよ。わたしも納得した答えが聞けたら、また乙音ちゃんの協力をしたいと思ってるんだよ?」
「……何を今更」
「そればっかだね、乙音ちゃん。――でもね。そろそろ覚悟を決める時期だよ? アンカープレイヤーは乙音ちゃんじゃなくてわたしなんだから、このままわたしが優勝したらゲームは終わっちゃう。そうなると乙音ちゃんに選択権は無くなるんだって」
ギラッ! と刀を振りかざす美濃。癪にさわったのか、陽葉に斬りかかった。いや、斬りかかるフリをした。
間に飛び込んだのはイチゾーだった。
「乙音ッ! オレを覚えてるかッ?! 香宗我部イチゾーだ!」
「はぁ? 覚えてるかって? ……覚えてますよ、元カレだもの。でもそれが何だってんですか」
「オレも陽葉と同じだ。オマエと一緒に昭和に帰りたい! このバイク、乗ったコトあるだろ? とても気に入ってくれてたよな。またオマエを乗せて走りたい」
「バイク……バイクですか。確かにわたし、香宗我部センパイの影響でバイク好きになって、バイクの免許を取ったんですよ。でも、それだけですよ。わざわざ乗せてもらわなくても、もう自分で運転できるようになりました。香宗我部センパイのご厄介にならなくても大丈夫ですからッ」
「ご厄介? ご厄介って……!」
――艦橋がガクン! と傾いた。
一同、なし崩し的に手すりにしがみつく。香宗我部がバイクごと倒れ、柵にぶつかった。
真っ先に彼に駈け寄ったのは陽葉。
バイクの下敷きになった足を抜き出し、手を貸す。手すりにしがみついてないと下方の火中に転落してしまう。歯を食いしばって身体を立てた。
「随分とおふたり、ナカヨシですね。ねぇ香宗我部センパイ、センパイがここにいるのは陽葉センパイの助けになりたいからですか? それともわたしに会いたかったからですか?」
こう問われると男としては辛い。
が彼は淀みなく答えた。
「言ったろ。オマエを昭和に帰したいって。会わなきゃ連れ帰れないだろッ。結果的にそれが陽葉のためにもなるんだから、答えは両方『はい』だ!」
「――わたしが聞きたかったはそんな答えじゃなくって……」
武田弟が面倒そうに告げた。
「なぁオイ。そろそろこの艦、爆発するんだがよ。ここに居るもん、準備いいンかい? オリャ知ったこっちゃ無いがな」
彼の手配で艦の最下層に多数のプロパンボンベが転がしてある。すべて開栓されているので今頃船底はガスが充満しているだろう。
上層階から順番に可燃物を伝って燃え進んでいる炎は、そのうちにそこに行き着く。下層に行くほど空気が喰われていくと考えられ、そうするとガス引火時に爆発するだろうと企んでいた。ボンベの近くには動力機関もある。それらが誘爆すればさらにとんでもない事が起こる。
武田弟は「いつ爆発するかねぇ」とゾクゾクしながら警告を発した。
例えると、足元にセットした時限爆弾がいったいどんなタイミングでドン! と破裂するのだろうか……などと想像し、底無しのスリルを味わっているわけである。
「瞬間移動って芸当は木下藤吉郎さんだけでなく、我々も会得しております。その使い方如何で勝負が決まりますよね」
「我々って言わんといて! 明智、アンタはもうわたしの味方やない! 明智はどう転んでも織田に仇名すってこれでよく分かった」
「手厳しいです、美濃さま。私ほどあなたに一途に尽くしている者はいないのに」
「ウルサイッ」
刀を投げつけそうになったのを陽葉が止めた。止めて、明智に言い放った。
「明智クン。瞬間移動って未来との行き来を言ってんだよね? その能力を使って九鬼さんと坂本さんを昭和に連れて行った事があるよね。でもそれ、大きな失敗だったんだよ?」
「は? いや、明智クンって。は? てか失敗?」
「だって、わたしよか一歳年上なだけじゃん。それとも明智センパイってのがいいのかな。……明智センパイだって結局わたしと同じ子供だから、浅知恵で失敗したんだよ?」
明智光秀少年はムッとしたカオを隠さず、
「失敗、ねぇ。……ま、言っててください。どうせ私はあと2分程度で一旦消えます。再度織田の本陣にもどって美濃さまの代わりに、敗色濃厚の徳川イジメにでも専念しますよ。それでジ・エンドです」
「それだからダルいんだよ。あなたは確かに【グランドプレイヤーカード】。そのカードって家康ちゃんのマニュアルでは戦国時代から、あなたの元居た昭和50年の間にしか飛べないってなってるじゃん。――でもね」
【アンカープレイヤーは違うんだよ】
そう言った陽葉は説明を続けた。
「【アンカープレイヤーカードの持ち主は、生きた期間を自由に行き来できる】。これ、どういうコトか理解できる?」
「え? そ、それは……私も……初耳ですよ。――あ、いや、初耳だ、それは!」
「だろうね。今回までアンカープレイヤーカードの存在がほとんど知られて無かったんだもんね。わたし、身をもってテストしたんだから間違いないよ」
「何だと……!」
「だからさ、2分。――それ、時間の取りすぎだって言ってんの! 愚図いよ、それ!」
「だからそれが何だって――、――え?!」
香宗我部がバイクごと消え、瞬きの後に再び現れた。
今度はバイクの代わりに幾人もの人を連れていた。
「坂本……龍馬と服部半蔵。……そして竹中半兵衛……」
「そんでから、儂じゃ」
「あーッ! 前将さんんッ!」
陽葉、人目にはばからずその男に抱きついた。しかも、おんおんと泣きじゃくりだした。
「うっわ! お嬢、急にしがみつくなぁ。それと泣くなぁ! 嬉しくてかなわんわいッ」
前将――とは、前野将右衛門長康。
甲斐での武田との戦いで命を落としたはず――の男だった。
感動の再会……だったろうが、陽葉に抱きつかれてデレデレ緩む彼の表情に、一同はちょっと引き気味になった。
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木下藤吉郎陽葉と香坂くら、感謝・感激いたします。




