25幕 炎上艦橋で明智節
数日前に評価点頂戴しました。大感謝です!
歴史ファンタジーラブコメ、今回も始まりい。
九鬼嘉隆と坂本龍馬が必死で黒船乗組員を退避させている頃。
その原因である戦艦長門の艦上では、別の騒動が起こっていた。
◆◆
――木下藤吉郎陽葉が命じ、武田兄弟が起動させた戦艦長門は、どうにか那古野近海に到達したものの、往時の威容をまったく失っていた。
四一式主砲を始め、副砲は軽量化のため全て取り外され、壮大だった艦橋の上半分は解体。満足に再生されたのは、ボイラーエンジンなど推進に必要な動力部とかじ取り機能だけであった。
自力航行が最優先課題だったからである。
目立つ甲板でさえ8割方喪失していた。特に金属部分はほぼ剥がされた。強いて人が通る部分だけ、薄いトタン板を代用し補修されていたのみだった。
そしてそのやわなトタン板には大量の油が撒かれ、または塗り込められ、もしくは沁み込まされ、内部の階層にもぎっちりと可燃物が詰められていた。
言ってみれば戦艦の名を借りた、ただのはりぼて爆弾だった。
そんな艦上で木下陽葉は、織田美濃に刀を突き付けられていた。
艦橋の最上階にいるのだが、足下では火と煙が暴れ狂い、ふたりに迫る勢いを見せている。
「織田美濃ちゃん。よくここに辿り着いたね?」
「あまりナメないで欲しいです、陽葉センパイ」
「黒船はもうお終いだよ? この船もそう。黒船と運命を共にする。那古野湾で仲良く沈没しよう」
歯噛みした美濃、刀を上にズラし、陽葉の首筋に当てる。黙れという事か。
「なんでそんなにまでして、わたしのジャマをするんですか! わたしが困るのを生き甲斐にでもしてるんですか!」
「落ち着いて。乙音ちゃん」
「乙音ちゃん、乙音ちゃんってウルサイです! わたしは織田美濃。維蝶乙音って名前はとっくに捨てたんです! わたしは戦国武将、織田美濃、ですッ!」
吼える彼女の近くで北条家五色備筆頭、北条綱成が被せるように吼えた。
「小娘どもーッ! 長門の乗組員50名は全員逃れたぞーッ! そろそろじゃれ合いを終えんかーッ! もう待てんぞーッ!」
更に武田旧臣で、今回の航行で長門艦長を務めた春日弾正忠虎綱(ここでは一般的に有名な高坂弾正とする)が、
「織田公! 黒船旗艦、焼け落ちまする! ご覧あれ! 御味方が錯乱しておりますぞ」
と気の逸れを誘った。
案にたがわず織田美濃が横を向いた瞬間、北条綱成が突進し彼女の腕をとった。
「――ムッ?!」
「貴殿。単独行動では無かろう。護衛は何処」
「ここですよ」
不意に現れた明智十兵衛光秀が、自前の拳銃で躊躇なく綱成を撃った。反射的に避けたが弾は左肩を貫通。その反動で転落防止の柵にぶつかる。
「意表衝き、御見事」
四十男の高坂弾正が綱成と入れ替わりに、年齢を思わせない動きで明智の懐に飛び込んだ。だが予期していたように明智が彼の顔面に膝蹴りを加えつつ、後方に飛び退いた。
高坂弾正、鼻血を垂らしながらジワリ……刀を抜いた。
「フフ久方ぶりの高揚でござる。信玄公に良い土産話が出来そうじゃ、のう、地黄どの?」
「余裕じゃのう、弾正どの。こっちは撃たれた肩が微動だにせんわい」
そう言い笑っている。
明智に相対する武田、北条二将。片方を撃つ間にもう片方が殺ろう。役割を承知した暗黙の体勢であった。そこに、死に当たる迷いなど一切無い。
「明智さん! あなた、戦国武将ゲームのプレイヤーだよね?! どうしてこの場所にわたしがいるって分かったの?! なんで乙音ちゃんを連れて来たの?! 乙音ちゃんにいったい何をさせたいの?!」
勇将ふたりに挟まれてさすがの明智光秀もたじろいでいたが、木下陽葉の問い掛けには余裕の笑みをつくって答えた。
「どうして分かったか? ですか? そりゃあなたの言う通り、私も戦国武将ゲームのプレイヤーだからですよ。それに」
「……?」
「それに私だって、過去と未来の往復くらいは出来るんですよ? 瞬間移動のトリックがこなせるのは、あなただけじゃないって事です、木下藤吉郎陽葉さん」
「――ッ!」
再び織田美濃が、陽葉に刀を差し向けた。そうよ、と言いたげだ。
「……あっそ。――で、もういっこの質問の答えは?」
「簡単です。私は永遠にこの戦国武将ゲームを続けたいんです。だって元いた時代ってぬるいでしょう? どうあがいたってなれるのは精々国家元首どまりです。私は世の中のぜんぶを自分色に塗りつぶしたい。私が全責任を持って統制し、全世界共通の統一法を施行し犯罪、環境破壊、貧困、暴力の無い理想郷を創る。私はそれを目指す過程をずっと続けたいんですよ。織田美濃どのにはそのために色々働いて頂かなくてはなりません」
それを聞いて怒気を漲らしたのは織田美濃。対立中の3人に割って入ろうとして陽葉に止められながら、
「ちょ明智、アンタ、言うてる事がゼンゼンちゃうやんッ! アンタ、アニサマを天下人にするために協力するって言うてたやんな?!」
「ええ。しかしながら、その天下とやらの中味までは話し合っていませんでしたね? 別に美濃さんの夢など、ましてや、腑抜けな織田信長の夢など、実は私には知ったこっちゃないんです」
美濃の次は陽葉が怒鳴る番だった。
「明智さんッ、ってコトはよーするに、このゲームをずーっと続けられれば、あなたはそれでいいと? それ、正気なの?!」
「以前に私、優勝した事がありましてね。その時の喪失感ったら無かった。するとまた直ぐに次のゲームが始まって……。あれはとても嬉しかったですね」
木下陽葉はこのとき僅かにカオを引き攣らせた。
ある事に思い当たったのである。
第1回大会の優勝者は武田晴信。つまり武田兄。そして第2回で明智。しかもこの間に武田と明智は少なくとも知り合いになっている。
今回、武田兄弟は陽葉に最大限の協力を果たしてくれているが、その本心はいかなものか――。
もし今、武田が裏切れば――。
もし武田が、実は最初から明智と通じていたならば――。
「――わッ?!」
心を掻き乱した陽葉の前に、香宗我部イチゾーと武田弟が現れた。バイクにまたがっている。
「……ちゃんと……約束の作戦通り……来てくれたんだ……」
「おお? ナニ、べそってんだ、小娘?」
武田弟は、陽葉のカオを不思議そうに覗き込んだ。
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(でもどうか剥がさんでくらさい)であれば、木下藤吉郎陽葉と香坂くら、感謝・感激いたします。




