24幕 炎赤の軍艦
間があいてばかり、すみません。
歴史ファンタジーラブコメ(のつもり)、今回も始まりはじまりぃ。
「バケモノだな、あの女」
「バケモノ? 木下藤吉郎の事か?」
呟きに問い返された九鬼嘉隆は、「ああ」と坂本龍馬に短く応え、体当たりしてきた巨影を見上げた。その眼は烈火を睨むように険しかった。
容赦なくそびえ立つ鉄の壁。
九鬼は、それこそ身命を賭して黒船を造り上げた。故に絶対的な自負があったろう。彼の総毛が逆立っている。握った拳は小刻みに震えていた。
「――なぁ坂本さんよ。コイツも船、なんだよな? アンタのいた世界にゃあったのかい?」
「あるワケ無かろうが。こりゃ、もっと後世に造られたもんじゃな。科学技術の進歩とゆーんは、まっこと留まる事をしらんにゃあ」
殊更ノンビリした口調でおどけた龍馬は、横目で九鬼を眺め、
「コイツは反則じゃが」
と吐き捨てた。
――ボウ……とふたりの眼前にけぶる戦艦長門は、衝突の後ただ沈黙を続けている。それが逆に不気味であった。
「藤吉郎からもらった教科書に載ってたんじゃ。こりゃ多分『連合艦隊』とかいう日本の水軍、うんにゃ、帝国海軍に所属する一隻じゃ」
「連合……艦隊? 帝国海軍……?」
「そうじゃ、帝国海軍連合艦隊じゃ。後で教科書見せてやる。スッゴイぞ?!」
九鬼は興奮を隠さない龍馬をいなし、部下に命令した。
「ヤロウども。ちょっくらアレに乗り込むぞ。ついて来るヤツぁ志願しろ」
「止めておけ。下手すりゃ爆弾を積んどるかも知れんきに。そしたら飛びついた瞬間に『ドカン』じゃぞ」
「面白いじゃねぇか。オレらの黒船なぞ、コレに比べりゃ一分の虫にもなりゃしねえ。まるでゴミだぜ。――だからよ、オレはこの連合艦隊さんとやらのハラワタを拝ましてもらいたいんだ。絶好の機会じゃねぇか」
「こりゃ連合艦隊やなく戦艦じゃが……」
歯を見せる九鬼に龍馬は一瞬眉を寄せたが、突然目を広げて船室に走っていき、戻ってきたときにはインスタントカメラを手にしていた。以前、陽葉からプレゼントされ、大事にしていた彼の秘蔵アイテムである。
「そうか、そうじゃ、よく言った! その手があったわい! 敵情視察ならぬ、技術見学じゃ! 真っ先にワシが行く、ワシに続けい!」
「そりゃ別にいいが……なんじゃそれは?」
「キャメラじゃよ、キャメラ! 非常に貴重なモンなんじゃが、今使わんでいつ使う?! てなもんじゃ」
ふたりが掛け合いしていると船首の方で何やら騒がしい動きがあった。
「何事だ」
「殿。胡乱者を捕まえやした」
捕縛者は少年だった。手足を乱暴に縛られて担がれている。
大将の前に荷物扱いしたままの少年を放り投げた猛者どもは、流れ作業のように再び自分の配置に戻っていった。
「お主。又左ではないか」
痛そうにカオをしかめる又左に声を掛けたのは龍馬だった。
「あ! 信長さまッ。このような姿、面目もございません」
「ハン? てめえ織田の者か?」
「いや。コヤツは木下の手の者じゃ」
「木下……。大勢警戒してるってのに、どうやって忍び込んで来た?」
九鬼に胸ぐらを掴まれ持ち上げられた又左は、カオに朱を注ぎながらも落ち着き答えた。
「幾らたくさんの人数がいても、ボンクラばかりじゃ何の役にも立てんぜ? もっと鍛錬させた方がいいんじゃないか?」
「……小僧、なかなか肝が据わっているな。だが結局オマエ、捕まってんだぞ? 情けねぇな」
「良く見ろ、大将さんよ。オレは丸腰だ。ここへは戦いに来たんじゃない」
怪訝に又左を眺める九鬼。彼の言う通り一切の武具も持たないのを見て取ると、
「じゃあ小僧。ここへ何しに来やがった?」
薄笑いを浮かべた又左はこう答える。
「木下藤吉郎陽葉の作戦をバラしてやろうと思ってな。彼女は今、乗組員に変装して大筒に細工をしてるぞ?」
「な、なにィ?!」
「黒船の砲撃を止めさすつもりだ。徳川退却の支障になるからな」
九鬼は龍馬を見た。
「又左。何故わざわざバラす?」
「簡単な話です、お館さま。そちらが木下藤吉郎をどこまで恐れているか、警戒しているか知りたいためです」
「何じゃと?」
今度は龍馬が九鬼を見た。
鼻で笑う九鬼。
「ハハン。で、敢えて捕まったと? つまり又左何某、てめえはその木下藤吉郎に信奉してるから、こんな大それた説法たれに来たってのかい。そりゃご苦労だったな」
太刀を抜き大上段に構える九鬼。眼の焔が本気さを語っている。
「待て、九鬼。ワシらの目的は何ぞ」
「目的?」
「今から軍艦偵察に行くんじゃろうが。又左は人質になる。連れて行くんじゃ」
又左と龍馬を交互に睨んだ九鬼、脱力して矛を収めた。
「船には行くな。もうじき爆発する」
「な?」
戦艦長門の甲板で火の手が上がった。――あっという間に艦上全体に炎が広がった。多量の火がボトボトと黒船に降り注ぐ。全長200メートルを超す巨艦が起こした火炎の瀑布であった。
「抜錨ォォ退避ぃぃ、たいひぃーーッ!!」
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木下藤吉郎陽葉と香坂くら、感謝・感激いたします。




