20幕 ぶつかり合い
空想歴史ファンタジー、始まりはじまりぃ。
那古野ノ戦い、木下藤吉郎陽葉と織田美濃が言い合いをする回です。
「――はぁ。……で又左。なんでついてくんの?」
鎖帷子から防弾ベスト、武者兜からテッパチに装備し直した木下藤吉郎陽葉は敵陣、織田陣中に向かって大声を張り上げた。肩で息つきながら彼女の背後に控えている又左に問いかけた。
「チョイ待ち。オレもいるぜ?」
「イチゾー。なんでアンタまで」
そこへ種子島(火縄銃)が着弾する。もはや慣れっこなのか、威嚇射撃にわざわざ驚く者などいない。
「藤吉郎。これをやる」
又左が手渡したのは活字入りの紙切れ。覚えたてのワープロで打った文章だ。
「檄文? なんなの?」
「かの小牧長久手の戦いの折、徳川の四天王、榊原康政どのが藤吉郎に対して、侮蔑の言葉を放ったものだ。大層効果があったと聞く」
前回大会で実際に起こった出来事だ。誰から仕入れた情報なのか、又左がハナタカで話した。
「フーン。小牧長久手、ねぇ。どれどれ。『――このエテ公、信長公の恩義も忘れて敵対するとはとことん最低な悪者だ……』 ……このエテ公がわたしってワケ?」
「そうだ。主語を織田美濃さまに変換すればいいと思う」
「フーム」
モゴモゴと口を動かして瞑目。しばらく沈思した陽葉は、
「……ねぇ。ホントに効果あるの?」
「ある。きっと」
「そっか。じゃ試そ」
言うや、いきなり馬防柵によじ登って大きく両手を広げ、織田軍に大喝する。
「織田美濃! この意地っ張りのド短気女! 昭和生まれの小娘が戦国時代で好き勝手に暴れてんじゃないわよッ! 織田信長のコトが気になるんだったら、歴史通りさっさと全権彼に預けて昭和に帰っちゃいなさいッ!」
そばにいる又左、イチゾーが思わず耳をふさぐほどのキンキン声。空気が割れんばかりの大音響だった。
そのまま10秒ほど、織田方のざわめきが止んだ。
「……何か違うな。もう少し悪態ついてもいいかもな」
「アホか! それよりとっとと陽葉を柵から降ろせ!」
織田陣営から人影があらわれた。
陽葉と同様に自衛隊員のような出で立ちをしている。ただ、ありふれた迷彩塗装ではなく、赤を基調に鮮やかな配色をした軍装だった。
「……出たか。乙音」
香宗我部イチゾーが息を呑む。
美濃が岐阜に帰らず、未だ在陣していたから緊張したのではなく、彼は乙音の元カレだった。彼女の姿を見て感情を揺らめかせたのである。
「木下藤吉郎陽葉! 陽葉センパイ! あなた、前に『織田美濃のために尽くす』って言ってくれましたよね?! あれはウソだったんですか?! 木下藤吉郎陽葉は約束を守らないダメ人間なんですか?!」
「ち、ちがう! わたしは今でも乙音ちゃんのコトを大事に思ってる! わたしは、あなたを昭和時代に帰したいんだ! いつまでも戦国時代にいちゃいけないんだ! この世界は、この世界の人たちの物だから! ゲーム感覚で掻き乱しちゃダメなんだよ!」
これに乙音が応酬する。カッとしたのか内容は支離滅裂だった。
「いまさらナニをエエカッコゆってんですかッ! そんなのとっくに、プレイヤーの誰もが自覚してるコトでしょう?! たけどもわたしらは自分に合った生き方をせいいっぱい、しなくちゃなんないんです! ただただその日を過ごしてるだけじゃあ、それこそ命の無駄遣い、毎日懸命に生きてる色んな命ある者にも申し訳が立たない、それってただの恥さらしでしょう! それにわたしは昭和がキライなんです! 戦国時代が合ってるんです! 別にそれでいいでしょう?! ムリヤリセンパイの理屈を押し付けないでくださいッ!」
「だったら乙音ちゃんは、この時代で何がしたいの?! それが果たせたらそれでマンゾクなのッ?!」
「わたしは――!」
織田陣中から多数の鉄砲弾が放たれた。標的は陽葉。
だが一発も当たらない。
彼女は馬防柵上で堂々突っ立ったままだ。
「乙音ちゃん。わたしは織田信長あらため坂本龍馬の考え方について行けない。乙音ちゃんが龍馬について行くってんなら、わたしはそれを全力で阻止するよ! だって。乙音ちゃんはわたしの大切な友達なんだもの!」
許可無く発砲した味方の陣をにらみつけていた乙音は、陽葉の言葉にゆっくりと振り返った。そして静かに首を垂れた。
「なんでここで……アニサマのコトを言うかなぁ……」
その、怒りのこもったボソボソ声は、当然陽葉には届かない。
そんな乙音の横に並んだ男がいた。
明智十兵衛光秀だった。岐阜から密かに駆けつけていたのである。
「いつまで経っても話は平行線ですよ。次は当てさせますので。いいですね? 織田美濃さま」
言いながら光秀自身が銃を構える。
彼は射撃の名人である。
「待って。……分かったわ。この地でケリをつける」
「それでこそ戦国武将ゲームのプレイヤー。一気に木下、徳川など粉砕し、後顧の憂いを失くしましょう」
光秀がサッと右手を挙げた。同時に織田陣営から法螺貝が鳴り始めた。
そのとき、雷が飛来したと錯覚するような轟音と地響きが徳川軍の陣中で起こった。徳川8千の将兵が悲鳴に似た叫びを上げて動揺した。そこへ2撃、3撃と追い討ちの炸裂弾が降り注いだ。
九鬼艦隊からの艦砲射撃だった。
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更新ペースが鈍り、済みません。
第2部、佳境に入っていきます。(予定)どうかよろしくお願いします。




