19幕 堺の宗及
空想歴史ファンタジー、始まりはじまりぃ。
那古野滞陣中、半兵衛が津田宗達を訪ねるの回です。
この頃、竹中半兵衛は密かに木下の陣を抜け、隠密行動をとっていた。
行き先は畿内、大坂の堺である。
徳川の雇い忍、伊賀出身であった初代半蔵の長子で、近頃2代目を襲名した服部半蔵正成と、武田左馬助信繁の二名を伴い、堺会合衆のひとり、津田宗達老翁を訪ねていた。
摂河泉(摂津、河内、和泉国の略)、現在の大阪市南端に位置する堺城市は商港都市としてかつてない繁栄を遂げており、当時のイエズス会の宣教師はこの地こそ【東洋のベネツィア】だと母国ポルトガルに書簡を送っている。
その堺で、前述の津田宗達は堺会合衆筆頭のひとりとして多大な発言力を有していた。徳川・木下連合はそこに目をつけたのである。
目的は資金集め。
東海道高速道路(棒道)開通プロジェクトのメンバーに加わって欲しいというものだった。
「では武器ですな。そちら右の御方はサマノスケどのと申しましたか。歯に衣着せぬ物言いをしますが、あなたさまはとてつもない人殺しの道具を数多くお持ちだと承知しております。それらを当方に流して頂く。そういう条件でいかがですかな?」
「進駐軍の武器が欲しいってか? それはムリな相談だな。木下藤吉郎の了解を取ってもらわんと一存でオーケー出来ねぇよ。契約なんでな」
津田は目を細めた。
ふむふむ……と独り納得したような頷きを見せる。
「では仕方ありますまい。手前も老境の身。寄る年波には勝てませぬ。先物買いをするにも、残り少ない余命の関係で蒔いた種に実が成るのを待てぬのです。という事で我が息子をご紹介しましょう。津田宗及と申します」
待ちかねたように襖が開き、正座でお辞儀する少年があらわれた。
「つまりは……我々のお願いを聞いては頂けぬ、と?」
竹中半兵衛の、やや険のこもった問いに、宗達は半笑いで即答した。
「話の続きは宗及に、どうぞ」
「ま、待ってくだされ、宗達どの!」
「カッカッカ。息子が前向きに相談に乗りましょうぞ。――ではわたしめはこれで」
◆◆
「――分かった。報告有難う、半兵衛さん」
木下藤吉郎陽葉が通話を終えると、香宗我部イチゾーが待ちかねたように声を掛けた。
「やっぱり相手にしてもらえなかったか?」
「ううん、津田家は全面的に援助してくれるって」
「ほ、ホントか?!」
津田宗達の息子、宗及によると、「父にはしがらみがあるから」との事。あらかじめ父祖の資財を思いのままにせよと言い含められていたらしい。
「才谷屋の梅太郎という方をご存じですか?」
宗及がそう尋ね、続けて「その御方が織田家にご所縁があるそうで。このたび我が同胞の今井宗久どのと組んで、なんでも黒船建造を推し進めているとか。あくまでウワサ、ですが」と敵情を吐露した。
津田宗達からすれば、競合他社に大きなビジネスチャンスを持っていかれ出遅れた……と考えているわけだろう。そこへ対抗馬である反織田陣営が訪ねて来たので、話を聞くべしの姿勢になったというのである。
「堺の商人も時流に乗らなきゃ生きていけんからな」
「フン。知ったかぶりすんな」
「なんだと」
「やるか? 素手なら負けねぇぞ」
又左とイチゾーの掛け合いは陣中でも変わらない。
横目で眺めている陽葉に、徳川家康が、
「陽葉どの。この戦は長期戦になりまするか?」
那古野の陣はシトシトと雨が降り続けている。地表にこもった熱で立ち昇る湿気ったモヤが、厭戦気分をわずかずつ上げているようにも思えた。
織田方が籠る那古野城は、原野に浮かぶ楼閣のようで直ぐにでも落とせそうに思えるが、家康は慎重だった。自分の指揮で招いた滞陣だと言うのに、陽葉にその成り行きを予想させているのである。
「長期戦……だと織田軍の方が損だね。四方に敵を抱えてるし、上洛準備に追われてるだろうから。それに織田美濃はわたし以上に短気だし、この状況は耐えられないんじゃないかな」
「えーと。つまりは早晩、織田方は決戦を仕掛けてくると? これ以上長引かせると、数の上では劣勢な我々が危なくなると?」
肩をすくめて肯定した陽葉は鎖帷子を着用しだした。
「何をする気でするか?」
「乙音ちゃんがいるか確認してくる」
行きかけた陽葉の手を取った者がいる。幼武将、水野雪霜だった。
「お姉ちゃん」
「? どうしたの、雪霜ちゃん」
「どうして織田美濃さんがいるか知りたいの?」
「……え? なんでって……」
ギュッと陽葉の身体に腕を回す。頬に当たる鎖帷子の凹凸でカオをしかめつつ、
「陽葉お姉ちゃんは織田美濃がスゴク心配。まともな戦いをしたくないんでしょ?」
「……ウン、そうだね。わたし、織田美濃とホントは戦いたくない。というか、彼女を助けたいんだよ。このゲームをどうにかして終わらせたいんだよ。だからさ、それには織田美濃……乙音ちゃんを降参させなきゃダメでしょ?」
「何度も念押ししまするが、陽葉どの所有のアンカーカードを譲る気は無いと宣言されるワケでするな?」
徳川家康が口ばしをはさんだ。コクリと陽葉。その頷きは力がこもっていた。
「ゲーム中に不運にも死んだプレイヤーがゲームクリア後にどうなるのか、わたしにもよく分かりませぬ。ただ前回大会までに死んだ者は再ゲームの度に再登場しておりまする。つまり生き返っていまする。……でもそれではダメなのでする。繰り返しの世界を生きるだけでするから。陽葉どのは死なさず終わらせたいと、そう申されているのでする」
陽葉は、答える代わりに「ニコッ」と手を振り陣幕を出た。
後ろから「雪霜も陽葉お姉ちゃんを助けたいですー!」と、精一杯張り上げた声が聞こえた。
PV3万超え、感謝!
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日中の仕事で創作活動(これもわたしにとって大事なワーク)が停滞気味。済みません。
今回もありがとうございました。




