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【完結御礼】戦国武将ゲーム! 豊穣楽土 ~木下藤吉郎でプレイするからには、難波の夢を抱いて六十余州に惣無事令を発してやります~  作者: 香坂くら
第2部 独立編 上洛ルート争奪戦 ~織田家から独立して戦国大名になったので、信長に先んじて瀬田に瓢箪旗を立ててやります~

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18幕 徳川流野戦

空想歴史ファンタジー、始まりはじまりぃ。


 徳川家康(いえやす)(戦国武将ゲームのプレイヤー。平成生まれの女子中学生)は野戦を得意とする。

 そんな世間のウワサが、木下陣営でも取り沙汰されていた。


 ところが、である。


 いざ、織田との決戦を表明した家康は那古野(なごや)の城から距離を取り、付近の丘陵地帯に拠って陣地を築き始めた。現在の地名に照らすと名古屋市の昭和区東部あたりになる。


 同盟軍の木下隊はその動きを唖然と見守っていたが、一隊を率いる蜂須賀(はちすか)小六が積極的に助勢しだしたので、全軍こぞって徳川の防塁づくりに加わった。


 もっとも織田軍もその動きを黙って眺めていたのではない。徳川軍が撤退し始めたと思い、追い討ちしてやろうと勢い込んだ。


 まず先陣を切ったのは那古野城の守備兵ら。


 この城は林佐渡守(さどのかみ)秀貞という織田家譜第(ふだい)の重臣が城主だったが、彼は武将と言うより行政官タイプだった。ちょうどこの時は京に出張り、足利一門に縁続きの公家衆との繋ぎに奔走していてあいにく城を空けていた。

 城代は娘婿の林新三郎通政という勇猛の士で、彼が一軍300をしょって城門を飛び出した。


 だが徳川軍後尾は当然それを予測していて、しんがりの本多平八郎忠勝が先んじて馬首を巡らし、50の兵を持って激突。林佐渡守の義理の息子と言え、齢40に達している古兵(ふるつわもの)の林新三郎と一騎打ちを演じた。(ちなみに本多忠勝の方は、先年元服したばかりの若武者だったが、既にいっぱしの将となり活躍している)


 ――その間にも徳川主力は悠々と後退して行く。


 やや遅れて追いすがったのは織田軍、佐久間右衛門尉信盛。

 彼も林と同様古参の人間だが、文武を兼ね備えた勇将だった。


 そして、これに対抗したのは水野家跡取りを担う新進、水野雪霜(ゆきしも)(戦国武将ゲームのプレイヤー。現世では女子小学生)と、木下藤吉郎陽葉(ひよ)配下の新参、前田又左衛門犬千代、通称又左(またざ)。さらに、本多忠勝と並び立つ徳川気鋭の若武者、榊原(さかきばら)康政。

 この計3将が受け持った新鋭部隊180であった。


 偶然にも、こちらも新旧武将対決になった。


「【退き佐久間】って言えば史実だったら水野の身代を盗ったんだって聞いてるよー! わたし俄然、奮い立つんだからッ!」

「雪霜! 突出すんな! 足並み揃えろッ!」

「ご両名の戦ぶり、あっぱれ。助太刀いたす!」


 両軍が揉み合う中、徳川軍は突貫工事を進めて日没となり休戦。

 夜襲の愚を覚った織田美濃(みのう)軍はいったん那古野城に入ってそこを本陣とし、主力をもって重層の鶴翼を展開、睨み合いの陣を敷いた。




◆◆



「3日経ったわ。徳川はなんで撤退せんの?」

「は、美濃(みのう)さま。恐れながらこれも敵の作戦と思われます」

「じゃあ……仕掛けて来ないのは?」

「無論、それも敵の作戦かと存じます」


 板敷の、広げた地図に唸る織田美濃。


「丹羽さん。明智から連絡が来てるのよ。『覚慶(かくけい)(僧侶だが現将軍足利義輝の弟。後の将軍、足利義昭)確保。岐阜城に連行します』だって。こんなトコであまりグズグズしてられへんのよ」

「まったくです。近江表の戦況も気になるところですし」


 時は夏。

 夜でもじんわりとした湿気が首筋や背中にまとわりついていた。

 団扇を一あおぎした美濃は、


「いったん岐阜に帰る」


 と宣言した。

 一同は異論無くうなづいた。だが一人、悔しそうに肩を震わせる男がいた。佐久間右衛門尉だった。


「しかしあまりにも無念じゃ」


 彼の呟きは静かに伝播する。その気持ちも理解できるのだ。


「林さんのコトやね? 命に別状はないらしいから心配せんでいいですよ」

「否。拙者の申したいのは武士としての面目。あのような若輩者に……」


 佐久間が悔やんでいるのは林新三郎のコトだった。新三郎は本多忠勝との一騎打ちで負傷し、戦線離脱してしまっている。かたき討ちをし汚名をそそぎたいと訴えているのである。


「丹羽さん」

「承知しております。美濃さまは先に単独で岐阜にお戻りください。我々で徳川どもを追い散らしまする」

「有難う。後は任せます」


 佐久間が「それならば」と言上する。


「某、津島湊より知多へ中入りして岡崎を陥れまする。どうかご裁可を」

「海を渡るって?」

「はい。以前に織田美濃さまがなされた作戦です」


「そんな賭けみたいなの、アカンよ」

「そこをなんとか」


 白髪が出始めている彼の頭を眺め続けた美濃は、結局折れた。

 もし上手く行かなくても徳川軍を動揺させ、尾張から引かせるコトは出来るかも知れないと思ったのである。


「いいわ。でも、少しでも異変を感じたら上陸せずに帰還して。そのこと約束出来ますか?」

「ハハッ」



 ――だが結果的に、織田美濃は後悔することになる。


 知多半島に上陸した佐久間軍機動部隊800は、水野家の主城緒川城近郊で徳川・木下連合軍の奇襲に遭い、壊滅。中入り軍の大半を失った佐久間右衛門尉は命からがら尾張に逃げ帰る羽目になった。


 完全に動きを察知されていたのである。

 まさに後年の、小牧長久手を連想させる戦が、尾張三河の地で展開されたのだった。


PV3万超え、感謝!

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今回もありがとうございました。

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