16幕 近江ノ陣
空想歴史ファンタジー!
浅井軍500の機動部隊が、本拠小谷城から出撃。
上杉側についた堅田水軍と以前から対立していた湖族衆・菅浦水軍に働きかけを行ない、仲間に引き入れてからの行動だった。
その後彼らは闇夜に紛れて琵琶湖西岸に上陸。上杉軍堅田陣地の背後を急襲した。坂本で孤軍奮闘していた柴田勢が奮起し突撃を敢行。他方琵琶湖上では、湖族同士の生き残りを賭けた激闘が始まった。
「ここは生きる場所に非ず! 敵を生かす場所に非ず!」
これは浅井長政自身が出馬しての奇襲戦であった。
その一方で朝倉家に翻意をうながす使者を送る。使者は御市である。
「朝倉義景さん。良い季節になりましたね」
「御市どの。時候の挨拶に来たわけではあるまい。用向きはなんじゃ」
楚々としたとした出で立ちの御市は平伏していたカオを上げる。彼女の可愛さに一時の間、場がざわつく。主に若衆らである。
「えーとね。大事な物を預かりに来たんだ、わたし」
「大事な物?」
「あ、物じゃなくて人だった」
「ん? そなた何を言っておるのだ?」
使者に女性を立てるのはこの時代、前代未聞。浅井長政の意図を朝倉義景は計りかねている。
御市が黙り込んでしまったので、義景は身体を乗り出した。
「あのね。…………」
「な、何じゃ?」
ジリ、ジリ……と彼女に近付く。他意は無く無意識の所作だろう。とうとう、
「義景さん。カオ、近いッ」
「お、おお?! こ、これは済まぬッ」
及び腰になった義景にグイと近づく御市。彼の耳元に手を当てる。
「あのね……」
「――な、なんじゃとッ、覚慶どのを預かりたい?!」
覚慶とは、大和国にある興福寺一乗院の僧侶。しかしてその実体は、室町幕府第13代将軍、足利従三位義輝の実弟だった。
彼は朝倉家の食客になっていた。
御市はその覚慶を引き取りたいと申し出たのだ。
「な、なぜ朝倉が覚慶どのをかくまっていると知っている?」
「そりゃ……。織田家の情報収集能力を侮ったらメッチャ危険だよ? ――ね?」
周囲にニコッと笑いかけた御市は、再び義景にヒソヒソ話した。
「近頃の三好家の専横ぶり、腹立たしいよね? ……で、現将軍の足利義輝さんは、再三義景さんに『早く上洛して三好を討伐せい』って呼び掛けてる」
「……ま。そうじゃな」
「でもここで問題。将軍さん、簡単におっしゃいますけどね、上洛するったって大変だし、第一肝心の義輝さんが頼りないでしょ。全くだいぶと分が悪い。結構かなり相当不利だ。わざわざ上洛しても無駄に終わるかも知んない」
「…………」
「義輝さんにもしもの事があったら……。――そんなときに助けを求めて転がり込んで来たのが、くだんの覚慶さん。……義景さん、ますます困ったよね?」
美少女にささやかれて腕組みしだした朝倉義景。返事しないながら、そのカオは図星だと語っている。
「面倒臭い案件は織田と浅井にお任せあれ。うっとーしい上杉謙信クンの正義ぶった正論も適当にこちらで処理しとくよ? 上杉の軍事力怖いし安易に逆らえないもんね?」
「なっ、何じゃと! この小娘ッ!」
侮辱されたと受け取った義景、声を荒げた。
それに御市が大喝する。
「やっぱり! それでこそ朝倉です! わたし、心配してたんだ、朝倉家は上杉ごときの言いなりになってるわけじゃない! 敵を欺くために、忍耐のいる作戦を実行中なんだって。はじめからそう思ってた! 朝倉家は浅井と、そのダチの織田をゼッタイに裏切りません! 断じて」
「なあっ?! そ、それは――」
「朝倉義景さん。わたしのカレシ、浅井ナガマサのために織田に協力してくれて、本当に有難うございます」
◆◆
一乗谷本拠の朝倉義景の命を受け、大嶽の砦から朝倉軍が撤退を始めた。
それを見た上杉軍に動揺が走り、一帯の道は上杉の退き軍で混雑をきわめた。
「浅井軍、打って出るぞ!」
遠藤喜右衛門(直経)、赤尾清綱が真っ先に飛び出し、上杉軍の後尾に喰い付いた。乱戦、停滞しているところに磯野員昌隊が迂回して横槍を入れ、どうにか隊列を保っていた上杉軍が崩れたつ。
「殿を引き受けようぞ」
歴史ドラマのような白手巾を被った謙信は、毘沙門天の図入りの大旗をマント代わりに背にひるがえした。そのカオは悲壮感で無く意気軒昂そのものだった。
よく講談などで言われる月毛(栗毛)では無く、黒鹿毛の愛馬を駆った謙信は、飛び交う矢弾の雨を押し抜け、浅井軍に斬り込みをかけた。
生き軍神の姿にたじろいだ浅井勢、それでも勇み出た磯野員昌が謙信の一刀で深手を負うと、瞬く間に追おうとする動きを止めた。
そこへ上杉からの猛射が起こり、バタバタと浅井方の死人が増産される。
「イカン。このままでは返り討ちに遭う」
遠藤喜右衛門が指揮を執り、全軍の撤収を命じた。
浅井軍が見守る中、上杉軍は悠然と北國街道を北上して行った。
その頃、堅田の陣では一進一退の攻防が続き、叡山のジャマ立てもあって、結局、堅田は織田の下に帰したものの、高島以北、近江北西部の一部は上杉の追い払いに失敗。事実上、上杉家占拠を認めるカタチとなった。
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