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【完結御礼】戦国武将ゲーム! 豊穣楽土 ~木下藤吉郎でプレイするからには、難波の夢を抱いて六十余州に惣無事令を発してやります~  作者: 香坂くら
第2部 独立編 上洛ルート争奪戦 ~織田家から独立して戦国大名になったので、信長に先んじて瀬田に瓢箪旗を立ててやります~

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13幕 小田原会談(1)

空想歴史ファンタジー、始まりはじまりー。



「いきなりだが。日本のために。世界のために。もう一度織田に協力して欲しい」


 席につくや否や織田信長が切り出した。

 政じい(平手政秀)との再会で気を許していた木下陽葉(ひよ)は途端に真顔に戻った。


「大きく出ましたね……」


 信長は、わずかに笑みを浮かべて陽葉の前に座った。


「そうだ。小事に捉われている場合じゃない」


「えっと……。わたしにも、わたしなりの覚悟があります。簡単にハイハイ言えません」

「そりゃ……おまんの言い分も分かっちょる! 世の中は想いと利で動くもんじゃからのう」


 一同は、いきなり方言が飛び出した信長に目を丸くした。織田信長から坂本龍馬にジョブチェンジ(キャラ変換)したかのような変貌ぶり。だが本人は気付いていない様子、それだけ真剣に、一心不乱に、陽葉を説いているという事か。

 竹中半兵衛はあくまでひっそりとだが、そんな彼を注意深く観察しはじめた。


「想いと利……か、まぁそうですね。信長さまがわざわざここまで来たのも、そして、わたしがわざわざここまで来たのも同じ理由ってコトなんですよね?」

「まっこと相変わらずの利口ぶりじゃのう、藤吉郎」

「……は」


 信長は畳の上に、持参した日本地図を広げた。以前、陽葉に披露したことがある雑な地球儀とは違い、かなり精巧に描かれた物だった。


「某はな、一刻も早く日本での諍いを失くしたい。それには圧倒的な軍隊(まとまり)が必要なんじゃ。手っ取り早いのが織田じゃ。まずは織田に中原()を押さえさせ、天皇の名のもとに惣無事令(そうぶじれい)を発令させる。大名たちに、それまで戦に費やしていたムダ金を出資させる。それを元手に世界に進出するんじゃ」


 京都のあたりに指で大きなマルをなぞった信長は「ククク」と楽しそうに肩を揺すった。


「藤吉郎ほどの行動力と胆力があれば、いかほどの事が成し遂げられようか。いまは永禄、戦国時代じゃろ、世界に目を転じればワシのいた幕末の頃よりも日ノ本はずっと有利じゃ! 欧米列強のように時代の先頭に立てる。明治より先、日清・日露、2度の世界大戦で国民が不幸になる未来も回避できるやも知れんじゃろが?! ええ、そうは思わんかの、藤吉郎よ?! 未来を知る貴殿なら、某の言い分が理解できるはずじゃあ」


 陽葉、カオをヒクヒクさせている。又左も、それにイチゾーも同じ反応だ。北条綱成(つなしげ)に至っては理解の限界を超え、無表情で虚空を眺めている。


「ええ、ま、そりゃ。信長さまのお考えはよーく分かります。……で、肝心の乙音ちゃんはどうなんですか? 彼女は信長さまのお考えに賛同してるんですか?」

「当然じゃきに」


 信長は政じいを手招きし、肩を並べて陽葉に対した。今度は政じいが弁じる。


「織田美濃(みのう)さまは近々上洛軍を編成なされる。信長さまとワシは西国の島津、毛利に働きかけをおこない薩長同盟を結んでもらう。そして両軍揃って織田美濃さまとともに京に参上頂くつもりなのだ」

「京で連合同盟を結んで衆議制の国家体制を構築するのだ。――これが証拠。薩長の同意書じゃ」


 ――確かに。

 織田の仲介で軍事同盟を締結する旨がしたためられている。島津義久(よしひさ)と小早川隆景(たかかげ)花押(署名)入りだった。


「……これ、どうやって?」

「藤吉郎と同じやり方をしたまで。武器や兵糧などを交易させ、互いの不足を補わせあう。頃合いを見て共通敵を想定させ『共闘しよう』とその気にさせる。後は我欲の刺激じゃな。歴史に名を残す家にしましょうと大望を抱かせる」

「……ワシが織田美濃さまから援助してもらって京、堺で物資を集め、両家に融通しておったのじゃ。後は公卿連中じゃな。これは丹羽五郎左どのが掛かりきりで務められていた。今や朝廷の3割がたは織田の言いなりじゃ」


 半兵衛が低頭し発言を乞うた。当然信長は気さくに応じる。


「竹中半兵衛どのだな。貴公の有能ぶりは全国に轟いておるぞ」

「――もったいない御言葉。ではお褒めの勢いついでに拙者の疑問を忌憚なく申しましょう。ふたつございまする」


「申せ、申せ。遠慮は無用じゃき」

「――ではひとつ。毛利の署名は何故小早川隆景どのなのですか。本来ならば当主の毛利元就どのがすべきでは無いのですか? ふたつ目。仮想敵とはいったいどの勢力を指しておられるのですか?」


 あっけな表情の後、苦笑いした信長は一転、鋭い目つきになった。


「あっぱれ。流石半兵衛どの。洞察が冴えちょるのう」

「察しまするに毛利は決して一枚岩ではないと」

「いやはや、お見事」

「ハハハ。褒めちぎりは時には嫌味に聞こえまするよ。どうかそのあたりでご勘弁を」


 半兵衛にしては珍しい、笑い声をたてての謙遜に、信長の目は決して笑っていなかった。


「まずひとつ目じゃが、当主、毛利元就(もとなり)どのの指針は専守防衛。これ以上、国を大きくせず今の身代を守りぬけと。宗子の毛利隆元(たかもと)どのはその教えを守ろうとされた」

「どうして過去形なんですか?」


 陽葉が(くちばし)を挟んだ。

 半兵衛が解説する。


「次期当主となるはずだった隆元どのは先年、謎の死を遂げています。隆元どのの嫡子、現当主の元就どのからすれば孫にあたる輝元どのはまだ10歳。充分に政務が執れる年齢ではありません。故に老境に差し掛かった元就どのが未だに陣頭指揮を執られているのです」

「隆景さんとの関係は?」

「元就どのと隆景どのは血の繋がった親子同士です。もう一人、隆元どのと隆景どのの間に次兄、吉川元春なる御仁がいますが……」


 その人は知ってると陽葉。随分前の話だが織田美濃と時候の挨拶か何かのメールを交わしていたという。――そう、吉川元春は戦国武将ゲームのプレイヤーだったのである。


「家族写真添付されてたんだけど、彼の奥さん、スゴイ美人だった。歴史じゃ不美人だって伝わってたから、乙音ちゃん(美濃)が『コイツ、ウソつきだ』って笑ってたの。それを思い出した」


次回も木下陽葉と織田信長(坂本龍馬)の「小田原会談」が続きます。


ブクマ、評価、感想、いいねで応援頂けると木下陽葉がさらに張り切ります。


ではまた次回に!

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