11歩 「稲葉地」
天文21年春――。
又左を自称する男子に連れられ、とある村落にやって来たわたしは、メイン通りに面した一軒の古くて大きいお寺の門をくぐり、そこで数年ぶりに維蝶乙音ちゃんに再会した。
……ん? 又左? 彼がどうしたって?
ええ? ウン、【自称】って言ったよ、わたし、確かに。……だってそんなにカンタンに信じないって、フツー。そこまで底抜けじゃないし。前回はノリで調子合わせただけだし。
わたしの思い描く【槍の又左】に近いって言えばそーなんだけど、どこか子供っぽいってか、すごく若い。それにここまでの道中、携えてたのは大小の刀だけで、ゲーム中の彼のトレードマークであるはずの槍は、彼が番をしてた小屋に置いてきちゃってるし。
【槍の又左】にあるまじき行いよね?
「ここはどこなの?」
【自称】又左くんに訊く。
「稲葉地の陣屋だ。もうすぐひと騒ぎが起きる。だからジッとしてろ」
――どおりで。
ほんのさっきわたし、維蝶乙音ちゃんに再会したって言ったよね。でもちっとも相手にされなかったんだ。
基地? ……陣屋? だっけ……に入って来たわたしと鉢合わせなった彼女は、……そうだな、だいたい5秒ほど時間が止まった様にわたしを見詰めて。そのまま「プイ」と周囲の兵らにまぎれてどっかに行っちゃったわけ。
って、ヒトゴトに語ってるわたしの方も何の言葉も出なかったわけですが……。
「ホントに乙音……維蝶さん、こんなところに居たんだ……」
「先刻そう話したが」
「でも本人なのかなあ。なんかムシされたし」
「言ったろう、もうじき戦が始まると。忙しいのだ」
彼もまるでヒトゴトの口調で、なぜか笑みを含んで弁解した。
喧噪をかき分けて指示をして回っている維蝶乙音さん――っぽい女の子に向かって目礼し、わたしの手を取る。
「藤吉郎。おまえ、そもそも織田の殿は知っているのか?」




