4幕 竹中半兵衛の進言
本日2度目の更新です。
「ほお。このカラクリを使って他世界との往来をしておられると?」
「これは【コインシャワー】と言います」
竹中半兵衛が見ているのは、簡易トイレのような縦長BOXを積んだ軽トラ。
彼は木下陽葉の計らいで、生まれて初めて昭和時代に来ている。
「これは荷車ですな」
「そうです。この荷車に……あー……軽トラって乗り物なんですが、その荷台にコインシャワーを載っけてます。コインシャワーの湯を浴びると、あなたが元居た世界――永禄年間の戦国時代に戻ります」
「ふむふむ」
竹中半兵衛は、木下藤吉郎陽葉の説明にいちいちうなづき感心をした。
そして質問を続ける。
「だが少し解せません。先刻はこのカラクリ装置を使わずに、こっちの世界に跳んだ。それは何故?」
「戦国時代――永禄の世からこっち、――昭和の世に跳ぶときは装置ではなく、時間が関わるのです」
陽葉の説明はこうだった。
戦国に行くときはコインシャワーの仕掛けが必要だが、昭和に戻る時は、あらかじめ設定した時間が経過すると、自動的に現代に引き戻される。
なお往来のとき、手にしていた【もの】を土産に持ち帰ることが出来る――というものだった。
「故に拙者は、陽葉どのに袖口を掴まれていたという事ですな。ナットク」
半兵衛の眼が活き活きと輝いた。
「この不可思議な【しょーわノ国】を見せることで、このカラクリを拙者に信じてもらおうと? 大いにナットクです」
「昭和国でなく、ここは昭和時代の日ノ本です。それとこの装置は、コインシャワー。……です」
「こいんしゃわあ」
「発音が違います。コインシャワー」
「コインシャワー」
傍らに侍る前田又左衛門犬千代は、この竹中半兵衛という男の柔軟な思考と理解力に舌を巻いた。
自分でさえ、理屈を理解するのに数か月を要したというのに、と。
「頼みがあり申す」
大垣の街に連れて行けという。
「大垣の城下に武田兄弟が隠遁している。拙者はその者らに会いに行っておりました」
武田兄弟と聞いて、木下藤吉郎陽葉の愛嬌のあった眼が猜疑色に変わった。緊張の色も混ぜている。
鋭く竹中半兵衛を見詰め、ワケを問い詰めた。
「彼らは再び日の当たる場所を欲している。木下藤吉郎陽葉どのにその気があるならば、武田兄弟を引き合わせたいと思うたのです」
彼女は武田兄弟を探していた。
ただそれはまったく別の理由である。
【武田兄弟】とは、武田大膳大夫晴信と武田左馬助信繁の事。
この兄弟が束ねた武田主家は、躑躅ヶ崎館の戦いによって当時織田に属していた木下一党に敗れ、流亡の憂き目に遭っていた。
ちなみに新たに甲斐の地の主となった木下家が武田の旧臣係累を召募したが、応じた郎党は半数にも満たなかった。
だが彼女は、竹中半兵衛の言う召し抱えのために武田兄弟を探していたのではない。
「竹中半兵衛どの。わたしは武田兄弟を殺したいほど憎んでいます。その事を知ってて欲しいです」
「……何故憎んでいるのですか?」
「……それは。――大事な仲間を殺されたからです」
陽葉の説明を聞き、寸時の瞑目の後、半兵衛は、彼女の眼を覗き込んで説いた。
「ところで。あなたのしたい事は何ですか? それを実現させるのに、その恨みの気持ちは必要不可欠なのですか?」
言わずもがな、これからの大事を成すのに過ぎた小事が必要なのかと道理を厳しく衝いているのである。
「彼らは行動力があり知恵も働きます。もし彼らが木下どのの申される異界びとであるならば、有したその力を働かせない手はありません」
わななく陽葉の唇。ややあって震える声を絞った。
「武田兄弟にぜひ会わせてください。あの者たちの力が必要なのは理解出来ました」
彼女の眼が赤くなっていた。
イラストも添えたいのですが……スミマセン。




