秋の特別編?
「なんだよ、これ」
城壁の上から眺めた景色は見るものすべてに悍ましさを感じさせる。そんな景色だった。
「イアル、これは不味いよ。」
「そうだな…ってレオン!?…背伸びたな…。」
「イアルこそ!」
はにかむように笑ったレオンは相変わらず、真面目で穏やかで、それでいてかっこよかった。クソ!
「……ってそんなふうに浸ってる場合じゃない。世界では魔王の再来とも言われているらしいからね。」
「魔王……」
その日、世界は溢れんばかりのモンスターに包まれた。それも普通のモンスターではない。刺突鹿とか、ゴブリンとか、イワザルみたいな……前例のある敵ならまだ僕も対策を講じれたと思う。
「本当に、カボチャを被った化け物ってなんだよ」
「トリィいいいいっっクゥぅぅぅぅぅァアア!!!!」
その上聞いたこともないような鳴き声で鳴いていた。対策を講じるどころか失笑を抑えるので精一杯だ。
「ったく、折角小煩い弟子が出てったっていうのに、世界が騒がしくなるなんてな。」
ふてぶてしい顔をしたすらっとした大人の女性が来る。ショートの髪がふわふわと被っていた黒いローブから覗かせる。
「誰よ!あんたイアルの何?」
続けて、城壁を上がってきたのは紛れもない赤い髪を持った。血縁だった。
「お前こそ誰だ。少し魔力は高そうだが、実験の価値にもならなそうだ。」
「何よ!!あんたこそ私を誰だと思ってるのよ。燃やすわよ」
「ちょっと待って!喧嘩しないでよ!師匠!姉ちゃん!」
どうして、喧嘩してるんだよ!?そもそも師匠も姉ちゃんも魔法は強いけどお互い、何か欠けてるんだ。その何かは分からないけれど、同族嫌悪ってやつか、お互い一歩も引かずににらみを効かせて戦闘態勢に入ろうとしていた。
この二人が戦ったら止められる人なんて本当にいないぞ!
「まぁまぁ。隊長、その辺にするっすよ。隊長ともあろうお方がそれじゃあ、軍の皆にも示しがつかないっスから!」
「お、お前。ヒューズか……」
「お…お前……い、生きて……」
「オォォォオオオォォォ-アアアアアアアアアア」
ワナワナと震える師匠の感情の行き場を失くすかのように、モンスターたちの大気を震わす声が領内に響き渡った。
その声に城壁から下を覗き込むと、遠くに見えていたモンスターは既に目下にまで迫っていた。
「やばいっす!やばいっす!これじゃあ軍全員出たって間に合わないっスよ!……ってことで!俺が先陣きるっす!」
「何でだよ!!」
本当に謎すぎる。この中で一番弱いのは僕かこの人だ!本当に何を言っているんだ。あぁ。調子狂う。
「まぁ、イアル。ヒューズ。少し任せておけ」
そういって、師匠は、
幾メートルもあるその城壁からローブ一枚で飛び降りた。
「「し、師匠!!?」」 「「た、隊長!!」」
「そんなに、叫ぶな。私がこの程度で死ぬわけないだろ」
そんな心配する二人の中、師匠はローブを広げ、杖を取り出して見せた。
「風魔法フライ。から!……」
そしてもう一本の杖を取り出して詠唱を始める。
「これが私が新しく開発した技!複合魔法!ブレイズサイクロン」
「クウウウウウオオオオオオオオオオォオオォォアアアアアアアアアアア」
「すげぇえ。効いてる!」
右からは炎を出し、左からは風を出す。まさに炎の渦巻きだった。モンスターもその凄まじい魔法の前には焦土と化していた。
何よりもおかしいのはその複雑な術式なのだが、そこは流石師匠といった所だった。
「なんなのよ……あのおばさん」
「姉ちゃん、あの人僕の師匠なんだけど……」
口では悪態を吐いてはいるものの、ファインですらその異様さには開いた口がふさがらなかったようだった。本当に僕はあの人を師匠に選んでよかった。
うん、いやだけどね…あれよく考えたら……。
「完全にイグニッションのパクリなんだよな……」
「おい!!聞こえてるぞ!イアル!」
「あぁ…ははは」
本当に耳がいい。
「じゃあ、次は私の版ね!」
「ごめん、ファインさん。僕も負けて居られないから。」
「ってちょっと!!私も行くわよ!」
そういって、横入りしながらニコリと笑ったレオンと、悔しそうに唇をかみしめたファインが飛ぶ。
「「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」
レオンが敵を切り刻み、セリアが敵を焼いていく。しかもレオンは斬撃を飛ばすし、おまけにセリアは無詠唱だった。
「さすがすぎるな。二人とも…」
「みんな強いっすね」
フューズ。確かそう呼ばれていた僕より少し大人な人は未だにヘラヘラとしていた。
「俺も負けてられない!いくっすよ」
「じゃあ、僕も」
そういって、僕は勢いよく壁から飛び降りた。当然、前の3人がそうしたなら僕もそうしなきゃいけないだろう。
「あ!降りれない仲間だと思ってたっスのに!」
「ごめん!恰好つかないし」
当然、予め魔法は組んである。そうじゃなきゃ飛べない。一度事故ってるしな……。
僕の目の前に魔法陣が浮かび上がる。
「風魔法上級ストーム」
「トオオオオリイイイイイィィィィィトオオオ」
本当に謎の悲鳴を上げて僕の魔法で敵が散っていった。
「よし!!この調子でいくぞ!」
「あんたが仕切らないでよ!!」
「行こうイアル。背中は任せるよ」
「いや、さすがにまだレオンの足には追いつけないぞ」
「俺を置いてかないでくれっスー」
そんなこんなで全員で敵を殲滅した。何匹倒したか数えきれないほどに倒した。全員へとへとに疲れてモンスターがいなくなったころには寝ていた。途中、ファインと師匠が討伐数を競っていたが、結局終わってしまえば二人とも隣り合って寝ている。
僕だけが、魔法消費をせずにそこまでつかれていなかった。暗くなった森をゆっくりと歩き、モンスターの死体を隈なく燃やしていく。
モンスターがいなくなった夜は本当に静かだった。
「それにしても、結局何だったんだろう」
魔王の再来というにはいささか弱すぎたし、それにしてもこれほどのモンスターを率いれるほどのやつなんてやっぱり上位種としか考えられない。それも魔王クラスの。
「考えれば考えるだけ謎だな…」
「そうかい?イアル君」
「誰?」
僕が振り返り、後ろに立っていたのはネイビーの髪を揺らしながら立つあの人の姿だった。幾年も会いたいと思っていた。
「魔法講師!」
「なんか不躾名前だなあ」
そういって魔法講師は複雑な顔で頭を搔いた。不思議な能面を張り付けたようなその顔はあの時のままだった。
「何でここに?」
「ちょっと、この近くで研究をしててね。それで寄ったんだよ。それよりイアル君。謎のモンスターの答えは見つかったかな?」
「いや、分からない……」
「ははは!そっか、いや、仕方ないよ」
魔法講師はにこりと笑った。笑って、その後少しだけ間を置いて、袋を取り出した。
「え、これは……」
「ハッピーハロウィン。遠い昔に伝わる風習らしいよ。何より死者が尋ねてくると言われてくる日らしい。」
「へえ、ってそれ、このお菓子と何が関係あるんだ」
「お菓子を渡して、元の世界に帰ってもらうようにお願いしてたんだって」
「………お菓子で帰るわけなくない?」
「ハハハ、間違いないね」
笑える話だ。だけど文化なんて元をたどればそういう思い込み要素が多くなっているんだろう。理論づいた今の世ではすぐに魔法学で否定されてしまうような、バカげた風習が多くある。
けれどそれを人が文化と呼んで捨てないのには、昔でしか生み出せないものを尊んでいるからなのだろう。歴史の建造物に価値があると同じように。今でしか生み出せない魔法もあれば、昔でしか生み出せなかった、娯楽もあったはずなのだから。
「ん?アレ?ちょっと待って……ってことはもしかして、このモンスターの襲来を巻き起こした本人って、その目的ってまさか!!」
「しー。イアル君それ以上は野暮ってものだろう。」
ニコッと笑って魔法講師は唇に手を当てた。
「I hope you enjoy a spooky night.」
今回はハロウィンということで特別編に挑戦してみました。
毎回シリアスだったりバトルだったりを書いている僕ですが、今回はヒューズというキャラを入れ込むことによって少しだけコメディにしてみました。いやあ難しい。でもやっぱり最後は…w
初の試み!挑戦の秋です。
それでは皆さん楽しい一日をHappy Halloween!!