二十一話 全てを捨てて
お待たせしました!
twitterの方で先に更新していた話です。
誤字の修正をした上、当ツイートの方を消してこちらに載せ直しました。
こうもたて続けに事件が発生しているというのに、町は淋しさを忘れ鬱蒼とした雰囲気を漂わせていた。
レンガ畳の這う高級街を抜け、暖簾下ろされた商店の出店を抜け、艶かしい空気の広場を抜けていく。
ーー私は私にできることを準備しなきゃ。
「おい、早く来い。こっちだ」
「分かってる!!あいつに絶対に吐かせるぞ」
唐突に耳に入った声はこうまでも静かでなければ、獣人である私にすら耳に入りにくいほどの小声だった。
「どこに行きやがった!」
「いや、近くにいるはずだ……」
声の主を視線にとらえた。それは先程潜入したはずの小悪党の一味と思われる者達だった。
ーー何かを追っているの?
「残党がいたなんて……」
「おい待て、連絡が入った。奴は街の外にいるようだ。絶対に逃がすなよ」
「当然だ!行くぞ!」
ーー追わない手はないわね。
貴族に直結しているかは分からないけど、この異変に先程倒した仲間がまだ生きていたという事は無関係とは思えなかった。
私たちは暫く捜索をしていた。しかし貴族の悪巧みを止めることどころか、その証拠にすら辿り着くことができなかった。
それにも関わらず奴らは、こちらに刺客を2回も向けてきた。
そして、この悪党の情報とそこに現れた2回目の刺客、ティノカ。
無関係なはずがないじゃない。
悪党を追って街の外に出る。
街の中はいつもと変わらないのに、外縁部や門には誰もたっていなかった。
なんで、ギルドも出店も閉まってるの。
ーーツイてない!
門衛が立っていてくれたら、悪党も捕まえることができたかもしれないのに、と腹を立てる。
「ここか?どこだ?」
何やら悪党が話し始め、辺りを見回す。
もう1人の悪党もそれに釣られるように同様に周辺を伺った。
その視線から外れるように位置取る。
目的の場所に付いたの?
続くように場所に悪党が現れる。
1人、5人、3人……に、20人!!
いつの間にか盗賊の住処のようになっていた。
木の上に隠れていた私の下には沢山の悪党がウヨウヨといて辺りを見回していた。
ーーうぅ、怖い。けどこの距離なら
「おい!いたぞ!「疾風」だ!」
1人の声で近くにいた総ての者がパッと上を見た。その視線は私の遥か上、上空に翼を広げて飛ぶ鳥のように、華麗に舞っていた。
辺りが騒然とし、殺す気で「疾風」を見る。
しかし、結果は明白だった。
自由落下の勢いで、まず1人を踏みつけにし襲ってきた1人の首を持っていたナイフで切る。
すかさず襲ってきた千差万別の戦い方を、その弱点があらかじめ分かっていたかのようにナイフを突き立てる。
たったそれだけ。
たったそれだけで、容易く悪党は全滅した。
華麗で、それと並びに俊敏だった。
「疾風」はただ空を駆ける鳥ではなく、空の狩猟者、鷹のように再び空に羽ばたき最後の一人をの首を掻っ切る。
これが私と同じシーフのする手際かと疑うほどに。
「ば、バケモノめ。」
「……」
血が吹き出す。声を上げる時間すら与えない。
「……あと1人いますね。」
あと1人?……辺りを見渡すが残党は残っていない。
「あなたですよ」
「・・・!!」
「疾風」の目の先には近くの木がある。その木は私が昇っている木だった。
ーー気づかれてる。
戦える?いや、無理。次元が違いすぎる。2秒も持たない。叫ぶ暇もない。
逃げる?それこそ無理、脚でシーフに勝負を挑むなんて馬鹿げてる。
「ば、バレてるなら出るしかないわね」
木を降り、「疾風」の前に姿を見せる。下した決断はとりあえず対峙することだった。
イアルも言っていたけど、「疾風」……セリアさんは飛び抜けて強い。
イアルよりも、そこら辺の大人よりも強い。
下手したらエンリさん達より強い。
けど同じシーフとして分かることがある。
それは…
「力が弱いのよ!あんたは!」
木に隠れて見ていて分かった。スピードも技術も及ばないが、ナイフは刺すだけ。急所に置くだけで動いていた。
当然。獣人が体術で負けるなんて早々ない。
可能な限り近くにより力によってゴリ押す!
「そうですね。でも……」
「あなたよりは強いです」
「え…」
高い金属音が閑散とした森に響き渡る。ナイフは刺さるどころか、ナイフ同士がぶつかった衝撃で手から乖離した。
気づけば「疾風」が持っていたナイフは私の胸を貫いていた。
……呼吸が浅い。喉から上手く息ができない。
声にならない悲鳴が喉の奥でか細く消え、辺りに響くことなく、自分の中だけで共鳴して消えていった。
「終わりです。」
「……」
その一言に何も返せないまま、瞳だけを見つめる。最後にこの人が何を考えていたのか、何がこの人の人生を変えてしまったのかだけでも知りたかった。
そのナイフが目の前を通過し、胸に向かって曲線を描いていく。
「「疾風」」
突如。風が巻き起こり、目の前の「疾風」が強く吹き飛ばされる。血の出た患部に響く、冷たい風だった。
「それは、空を舞う風のように自然に溶け込み。風のように去っていくことから名付けられた。」
足音が聞こえない。声だけが森に響く。
「「暗影」それは闇夜に紛れ、音もなく現れることから現れ、影のように付き纏う異様さから名付けられた」
近くに来てようやく足音が響いた。刺さった胸の奥まで響いた。
「僕は……お前を止めなきゃいけないんだよ。」
長い杖、あの時。後ろで見ていた景色と同じだ。
唯一違うのは今は前で見ていること。
私も……役に立てたかな?イアル。
「お前の名前はセリア……それだけで十分だろ」
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「キュアル。ポーションかけるぞ」
小さく頷いたことを確認して、手元のポーションを浴びせる。
ボロボロだった。励ましてくれたキュアルはその面影すらないほどに疲れ果てている顔で僕を見上げた。
「ごめん。もう大丈夫だから。」
「城壁から降ってきた方ですね」
風魔法によって倒れていたセリアが体を起こす。その目には既に殺気がこもっていた。
「その後も会ったんだけどな。気付いてないのか。」
「申し訳ありませんが、記憶にございません」
「……なんだよ。その喋り方」
真っ直ぐな殺意を向け返す。淀みのない。曲げる意思のない真っ直ぐな殺意を。
「勘違いしているようですが、私はセリアなどではありません」
「あぁ、お前はセリアじゃねぇよ」
セリアなわけが無い。セリアは眩しすぎるくらいに明るくて、有無を言わせないほどに強い。
こんなに、闇が似合い、闇に生き、影に潜むようなやつじゃない。
そんなことしなくても十分につよいから、シーフとは思えない程のシーフなんだ。だから、お前は強くて、カッコよくて。俺の憧れでもあって……。
「やっぱりお前はセリアじゃないよ」
「なら、構うことなく死んでください」
「ーー俺は知っている。お前らが探している疾風を」
「!!」
「この言葉に聞き覚えくらいあるんじゃないか?」
疾風が表情を崩した。驚いた顔だ。本当にセリアそっくりの。
「なんだ。そういう顔もできるんだな」
「あなたでしたか。」
「そうだよ。僕だ」
「なら」
「死んでください」
「嫌だよ」
突き立てられたナイフは僕のローブの先端を切り裂く。避けた勢いのまま左手で杖を返し、「疾風」の顔を弾き飛ばす。
「鍛え忘れないって言ったじゃんか」
弾き飛ばされているセリア。その合間、杖に魔力を注ぐ。
「表情筋も鍛えとけよ!!」
ーー最上級魔法爆流・リヴァイアサン
唸り、轟き、水龍が奔る。
3体の水龍は「疾風」を追尾する。
「断末魔」
その1体を切る。魔法を断ち切る。
さらに逆から攻めた、もう1体をも意にも介さずに切る。
しかし。あと1体が斬られることは無かった。
視界に追いきれずに、「疾風」が僕を睨む。
その強い視線を嘲笑うように指を天に掲げ指示した。
「上だよ」
上を向くが遅い。リヴァイアサンは破竹の勢いで「疾風」の肩を噛み、食いちぎる。
「影」
ユラユラと陽炎のように「疾風」の姿は消えていく。
それは残影だった。
咄嗟に後ろを振り向く。目の前に立つナイフを寸前のところで受け流し、そのまま真後ろに向かって、後退した。
「残像かよ……それはアサシンの技じゃないだろ」
「私はアサシンではないですよ。私は影舞」
「そうかよ……」
シーフでもトップレベルに戦闘に向いている影舞。しかしそれは身を隠すことを得意とし、モンスターを倒すことを目的とする冒険者には必要皆無なものだった。
セリア……お前はアサシンだったはずだろ。
英雄の1人に劣らないくらいの……アサシンになるはずだった。
「そうだったな」
まだ甘さがあった。
目の前の人はセリアじゃない。そう言い聞かせたはずなのに……
僕は拳に力を込め、自分の頬を思い切りに殴る。
「ッ!!!」
「何を……」
全てを捨てろ。そうしなきゃ勝てない。
目の前の敵に向かって。こう言い放った。
「ここからが本気だよ。かかってこい「疾風」」
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