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優先順位

 ハッキリと言った。

 確かに能力は破格だ。

 だけど、それと戦いに向いているかどうかは別問題。

 それこそ自衛隊や海外の特殊訓練を受けた軍人を呼んだ方が百倍いい。

 予想通り、エリーザは明らかに失意を露にしているが、こればかりは譲れない。


「俺にも俺の生活があるんですよ。それも結婚式の真っ最中に召喚されたんだ。なので一刻も早く帰りたい。直ぐに帰してください」


 今頃式場はどうなっているだろう?

 いきなり新郎が消えたんだ。

 大騒ぎになっているだろうことは想像に難しくない。

 何よりも絢羽はどうしているだろうか?

 彼女が俺の為に心配している姿を思い浮かべただけで胸が引き裂かれる様な痛みを感じる。

 それ所か、新郎に逃げられた花嫁なんて陰口を叩かれたりしていないだろうか?

 冗談じゃない。絶対にそんなのは認めない!

 俺は何が何でも帰りたいんだ。

 だけど、エリーザは俺の期待には応えてくれなかった。


「・・・他の勇者候補の方達は駄目です」

「どうして!」


 俺は少しカリカリし始めていた。

 この会話自体が時間のロスなんだ。

 そう言えば、すっかり自分を“俺”と言ってしまっているが、今さら構うもんか。


「わたくしは召喚するにあたって、非常に断片とした情報ですが、貴方様の世界でどのような素行をしていたか知ることが出来ます。他の勇者候補の方々は自分の利益を優先する者。弱者に手を差し伸べるどころか、それを食い物にする者。果ては犯罪者までいました。決して勇者として我々の運命を預ける者達ではありません」

「勇者の資質と性格は関係ないのか!?」

「残念ながら」


 俺のイメージする勇者とは随分違う。

 これでは“選ばれし者”というよりはただの資質。ぶっちゃけで言ってしまうと適合率の高い特異体質と言えるんじゃないか。


「・・・解った。確かに性格的に、その人達は勇者に向かないんだろう。だけど、俺だってそんな御大層な人間じゃないんだ。もっとよく探してくれないか? 荒事が得意で、それでいて善良な心を持つ人物を」


 なんとなく、異世界に転移する人って日本人だけと思いがちだけど、地球は広いんだ。

 特殊訓練を受けていなくとも、俺なんかよりも役立てる人がいるはずだ。

 だというのに、これにもエリーザは首を振る。

 

「時間がありません。それに伝説の勇者様は貴方様だと、わたくしには確信があります」

「・・・なんでそこまで?」


 やっぱりさっき見せた怪力か?

 剣が壊れた理由も怪力だけじゃ説明が付かないし。

 乗せられるまま力を使ってしまったけど、あれが決定打になったのだろうか?

 今更ながら上手く乗せられて自分の逃げ道を塞いでしまった。

 だけど、勇者として呼ばれれば、誰でもその能力を得られたかもしれない。

 やっぱり俺である必要はない。


「横断歩道で困っていた子供の手を引いて上げたことがあります。迷子になった子供の手を引いて両親を探すのを手伝ってあげたことも」

「え?」

「電車で身体の弱いご老人に席を譲ってあげたことがあります。“カツアゲ”と呼ばれる悪質な強盗から見ず知らずの他人の為に、一緒に手を引いて交番に駆け込んだことがあります!」

「分かるのか、そんなことまで!?」


 どうやら俺の世界での素行を見えるのは本当らしい。このファンタジー世界で横断歩道とか電車といった単語が出ると妙に違和感を感じるな。

 エリーザは涙ぐみ、俺の両手を握って懇願した。


「白夜様、お願いです。貴方しかいないのです。この世界を救って下さい!」


 飛んでもない重圧を掛けられた。


 “世界を救う”


 まさか、そんな言葉を実際に言われる日がこようとは。

 力になりたいと正直思う。

 彼女は善人だ。

 そもそも全くの赤の他人を巻きこむことさえ酷く抵抗があるだろう。

 それを押してでも、俺に頼るしかなかった。

 俺は、拳を強く握り、奥歯を噛んだ。


「悪いけど、力になれない。余裕がある時は困っている人の力になりたいとも思うさ。だけど、その程度の人助けと今回の件では全く次元が違う。それに俺には待っていてくれる人がいる。その人を悲しませることだけはしたくない。どんな強力な力があっても死ぬ可能性はゼロじゃないだろう? なんで俺が命を懸けなくちゃいけないんだ?」


 エリーザは押し黙る。

 奥にいる王様は目を瞑り、アーダルベルトを始めとする兵士達は失意の視線を俺に向ける。中には不満と敵意すら向ける奴もいた。

 くそ、くそ、畜生!!

 怒りがある。同時に罪悪感もある。

 或いは今、結婚式の最中でなければ、絢羽という大事な人がいなければ、協力したかもしれない。

 だけど、駄目だ。俺は自分を優先する。

 こんな良い娘に涙さえ浮かべられて、頼られても。

 例え、例えこの世界の人達全てに恨まれようともだ。


「さあ、帰してくれ」


 エリーザの顔を見るのも辛いが、真っすぐに言うのがせめてもの誠意だろう。

 そして、それに対しエリーザはキュっと口を結ぶ。


「エリーザ様」


 その時、王様の近くにいる一人の男がエリーザを呼んだ。

 見てみると中々煌びやかな服を着ている。

 偉い貴族か、大臣とかだろうか?

 もうファンタジー世界の偉い人っていったらそれくらいしか俺の貧相な頭では浮かんでこない。

 その男は視線だけをエリーゼに向け、目配りをした。

 その視線の言葉にエリーザはほんの少し視線を返しただけで、再び俺へと振る帰る。


「・・・ありません」

「え?」

「帰る方法はありません。召喚はあくまでもそちらからこちらへの一方通行となっています」

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