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敵は魔王

 そんな、古き良き年代から続くゲームの伝統あるラスボスの名前を聞くことになるとは思っていなかった。

 思わず眩暈がした。

 どうもそれをエリーザは恐怖で貧血を起こしたと勘違いしたらしい。

 心配そうに俺の傍にやって来た。


「大丈夫ですか? 無理もありません。魔王の名を口にするだけで、屈長な歴戦の戦士でも怯えてしまいますよね」


 いや、俺は別に名前を聞いただけで恐れてはいないんだけど。


「現在このロンレキアは魔王と、彼の者が支配する強力なモンスターによって、実に半分以上が支配下に置かれてしまっています。そして、我が国にも三日前に最終勧告が言い渡されました。抵抗を止めない場合は総攻撃を行う、と」


 三日前。

 最終勧告をした割には猶予があるように思える。

 そもそも魔王が最終勧告を行う、即ち、抵抗しなければ無益な殺生をしないというスタイルも俺のイメージと合わない。

 魔王ってもっと暴虐で、全てを死と恐怖で世界を満たす存在って感じなんだけど。


「それでわたくし達は最終手段として、伝説のエメラルドの書に従い、貴方様を召喚した訳です」

「・・・あの」


 さっきから気になっているキーワードを聞いてみることにする。


「その“エメラルドの書”って何ですか?」


 俺を召喚したのはその本に書かれていたからだっていうのなら、それは預言書なのだろうか?

 “世界が闇に覆われる時、異世界の勇者が世界を救う”的な。

 それだけ聞くとちょっとカッコいい。自分がその勇者じゃなければだけど。


「エメラルドの書は、過去に起こって出来事から、それに類似する事柄が発生した時の対処法が書かれています。この書にはまだ解読できていない個所があり、しかも劣化から千切れてしまっている為、解読不可能な部分が多々ありますが、それでも“世界に破滅の危機が迫った時、異界から救世主を召喚した”という言葉が残されています。その当時の救世主が一体どの様な方で、どうやって救ってくれたのかは解っていないのです。ですからこの土壇場まで、召喚が憚れることとなりました」


 なるほどね。

 もうどうにもならない、藁にもすがるつもりで俺を呼んだ訳か。

 どうもその“エメラルドの書”とは一種のハウツー本なのか?

 予言書とは違うのだろうか?

 ともかく事態は切迫している様だ。

 本来であれば、見ず知らずのどこの誰とも知れない馬の骨を最後の希望とするなんて賭けはしたくなかったのだろう。

 だから、ギリギリまで粘った。

 それで呼ばれたのが全く戦闘の経験が無い一般人の俺なんだからさぞ期待外れだろうね。

 だけど、これには俺にも言い分がある。勝手に呼んだのはそっちだ。

 そっちの都合で一方的に呼んでおいて、『期待外れでした。なんだこいつは?』なんて思われるのは甚だ迷惑だ。


「一つ、聞きたいんですが、その、自分で言うと恥ずかしいんですが勇者になれる人間は俺一人なんですか? つまりは唯一の選ばれた者、という?」

「いいえ」


 以外にもこれにはエリーザは即座に首を横に振った。

 なんだと。自分で言った台詞が滅茶苦茶ハズい。

 さっきまでちょっと興奮していた俺はなんだったんだ。

 同時に怒りが込み上げてきた。

 じゃあ何故俺なんだと不満に思ったのだ。

 だけど希望が見えた。

 ハッキリ言って、俺はとても荒事には向かない。

 戦闘能力はバトル漫画の主人公並みにあるんだろうが、戦いになればモンスターを沢山殺さなくてはならないのだろう。

 小動物も殺したことにない(そもそも殺す必要もないし考えたこともないが)俺にモンスターを殺すのは非常に抵抗がある。

 モンスターだって知能があるだろう。

 武器や道具の使い方を知っている者もいるかもしれない。

 それどころか会話が成り立つ手もいるはずだ。

 魔王は最終勧告を出せる程、語学や政治に精通している。

 部下にも必ず指揮をする将がいるだろう。

 危害を加えるから殺してもいいという発想自体が俺は嫌いだ。

 この場でそんなことを言えば批判されるだろうけどさ。

 こんな俺が勇者として先頭に立って戦ってはそもそも士気に関わるはずだ。

 まあ、飛んでもない能力で戦力になれるって思われたからこの人達も希望があると思ってるのだろうけど。

 期待を裏切って悪いが、ここは断固拒否するべきだ。


「なら、違う人を勇者として召喚したらいいじゃないか。悪いけど期待には応えられません」

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