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キングス・エッジ D5D  作者: 土方コウジ
6/21

最初のブリヌイは塊になる ⑥

「え、ええっと……」


 カーチャは右手でそれを取り出そうとして――邪魔だった鈍色の物体を先に取り出し、左手に渡す。


「!」


 左手に握られたその物体、カーチャ愛用のリボルバー式(シングルアクション)拳銃(アーミー)を見て、アリシアは戦士たる己が運命を呪った。内心では憎からずおもっていたこの少女と、自分は決して解り合えないのだ。

 ――が、ここで大人しくやられるわけにもいかない。


「おい、いっつもそれ持ち歩いてんのかよ」

「ええ。ちょっとした合間に――」


 誰より迅く、アリシアは動いた。

 シングルアクションアーミーを超高速、かつ寸分の狂いもない手刀ではじき飛ばし、すっかり気を抜いていたカーチャを一瞬で拘束すると、その喉元にケーキナイフをぴたりとあてがう。


「……あ」


 あまりのことに、カーチャは声も出なかった。


「おとなしくしろ。お前は命の恩人でもある。できれば殺したくない」


 アリシアは耳元でささやくと、そのままカーチャの後ろに回り、引きずるようにして彼女を立ち上がらせる。そのままテーブルから離れると、椅子が倒れて大きな音を立てた。


「隊長っ……!」

「動くな中尉っ!」

「っ……」


 立ち上がったマリアを張り詰めた声で制し、アリシアは皮肉な笑みを浮かべて続けた。


「あなたの技量はいちど見ている。あの時は助けられたな」

「少佐、誤解です!」


 マリアは必死の形相で訴えるが、アリシアは構えを解かず、


「噂で聞いたことがある。スラヴァ軍の重要な部隊では、政治的な役目を負った士官が配されるそうだな。中尉、貴女がそうじゃないのか」


 下手な嘘はつかないほうがいい。マリアはそう判断し、


「……確かに、私にはそういう役目もあります。しかしそれは――」

「カーチャはここ最近ひどく苦悩していた。恐らく上層部の人事刷新の結果、我が国に対する方針に大きな変化が生じたのだろう。過激な方向にな。そして貴女は、カーチャがそれに従うよう迫っていた。違うか?」

「違います!」

「ではいったい――」


 ぴんぽーん。

 と、インターホンの音がアリシアの言葉を遮る。


「……ったく」


 京介がだるそうに立ち上がり、悠々歩いてドア横の受話器を取った。


「……おう。ちょっと待ってくれ」


 それだけ言って、受話器を戻す。


「彩希が来たの!?」


 囚われのカーチャが悲鳴に近い声で訊ねた。


「ああ」

「だめっ! 追い返して!」

「なんで? 最初っから来る予定だったろ」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょっ……」

「あー、大丈夫だって」


 まるで緊張感のない京介に、アリシアも苛立ちをあらわにする。

 

「京介、勝手なことをするなっ……」

「こっちの台詞だっつーの。ったく、ちょっと見直したところでコレだよ」


 冷たく言い捨て、彼は玄関のほうに行ってしまった。

 ほんの少しして、廊下から足音が近づいてくる。


『――いやー、まいっちゃったよぉ。ぜんぜん終わんなくてさ~』


 緊張感のない彩希の声が聞こえ、カーチャは叫んだ。


「彩希、来ちゃダメ!」

『ん? なにカーチャ~、なんか言ったぁ?』

『まあまあまあ、気にすんなって。早く早く――』


 京介は彩希を後ろから押すようにして急かす。彼女は促されるままリビングのドアを開け――とたんに素っ頓狂な声を上げた。


「えええええっ!? えちょ!? えなにっ、えっ? 京介!?」

「わりぃ。彩希ならなんとかしてくれるかなって」

「無理だよっっ!!! っていうかカーチャ! なんかしたの!?」

「してないわよっ。このバカが勘違いしてるだけで――うっ」

「しゃべるな」


 アリシアが絶対零度の声で言い、ケーキナイフをぴたぴたと首にあてる。


「あ、アリシアさん、なにかの誤解ですっ、カーチャを放してください!」

「彩希、悪いことは言わないから帰ったほうがいい、見たら一生のトラウマになるぞ」

「そっ……やめてくださいっ、どうしてみんな仲良くできないんですか!」

「ふっ。しょせんその程度の人間たちということだ。我々のような人種が死に絶えたら、きみは好きなだけ博愛を説くがいい。それが通用する世界になることは、わたし自身願ってやまない」

「いやそういう難しい話じゃなくてっ!?」

「んもー、いったいなんの騒ぎ――」


 二階から降りてきたマーヤが、電光石火でマリアに捕らわれる。

 カーチャ同様首にナイフを当てがわれ、彼は一瞬で抵抗をあきらめた。


「……俺ってこんな役回りばっか」


 力なくつぶやくマーヤの肩越しに、マリアはアリシアを睨みつける。


「やはり隠し持っていたか」

「……常に携帯しているだけです。こんなこと、したくはありませんでした」

「さて、どうだかな」

「少佐、お願いですから聞いてください。隊長は――」

「もういいわよマリアっ!」


 部下の説得を遮って、カーチャが叫ぶように言った。


「観念したか」

「……ホントにそう思ってるなら好きにしたら」

「なに?」


 そこで、ケーキナイフを握ったアリシアの手に、温かい雫が落ちてきた。


「っ……?」

「……ばっかみたい。わたしたちって、結局こうしてるのが一番お似合いなのにね」

「カーチャ?」

「ふずっ、そうやって呼ぶから、勘違いするのよ。前みたいに、ヌルガリエヴァって呼べばいいのに……ぐすっ」

「…………」

「カーチャ……ぐすっ」


 彩希がもらい泣きし、


「あーあ、泣―かせた。いっけないんだー」


 京介が小学生のように言う。

 マリアはマーヤを人質に取ったまま、


「京介くん。すみませんが、隊長の鞄を見てください」

「はいはい」

「マリアっ、もういいのよっ」

「だめです隊長。意地を張っている場合じゃないでしょう」

「ぐすっ、うう……」


 自由に動ける京介は、すぐにカーチャのスクールバッグを漁り始める。


「えーっと……ああこれ」


 それを見つけるのは簡単だった。ピンク色をしたチェック柄の紙袋。可愛らしいリボン付きのシールで封をされている。


「開けるぞ」


 答えは聞かずにリボンシールを剝がし、袋の口を開ける。


「……ん? 人形焼き?」


 クッキーか何かかと思ったが、中には人形焼きに似た、一口サイズの茶色い物体がごろごろ入っていた。甘い匂いだから菓子には違いないだろう。


「プリャーニクです」

「ほほぉ。これが」


 たしか、ロシアでも伝統的な焼き菓子だ。ひとつ取り出してみる。

 ちょっと歪だが、マトリョーシカを模した型で成形したようだ。表面には粉砂糖がまぶされている。


「食べてもいい?」

「危険だっ」

「お前はマジで黙ってろ」


 アリシアにぴしゃりと言ってから、京介はカーチャを見る。


「……好きにすれば。毒入りかもしれないけど」


 すねたような返事を受け取って、京介はプリャーニクをぱくりと頬張った。

 もぐもぐと咀嚼し――


「……うっ!!」


 急に喉を押さえ、目を見開く。


「京介っ!」

「うそ……」

「っ……」

「あわわわわ」


 場の緊張がピークに達したところで、


「――うまい! なんつって」

「ばっ……この状況で笑えるかっ!」

「あんたマジでイカレてんじゃないのっ!?」


 アリシアとカーチャが仲良くキレた。


「ちょっとした冗談だろ。でもホントにうまいぞ。甘酸っぱいジャムが入ってて」

「コケモモのヴァレニエです。あんこが入ったやつもあります。……さあ、これでお分かりいただけましたか。隊長はきのう、わたしのアパートでそれを頑張って作ったのです。確かにそこまでいい出来ではありませんが、心を込めて」

「……しかし、銃が」

「これか?」


 京介がもう一挺のSAAをカバンから取り出す。グリップとバレルを持つと、いきなり銃身をぐにゃりと曲げた。


「なっ……」

「樹脂製だ。モデルガンっていうより、ガンスピンの練習用だな」


 その言葉どおり、京介はトリガーガードに人差し指を入れ、器用に銃を回転させた。

 前回し――後ろ回し――水平回し――後ろ回し――ストップ。

 銃口があっちゃこっちゃ向くので、スポーツシューターの京介はあまりやることはない。しかしこれも尊重すべき銃文化のひとつである。


「本物を持ち歩くわけないでしょ……。不用意に出したのは悪かったけど。ぐすっ」

「おら、もう放してやれよアリシア」

「少佐」

「アリシアさんっ」

「……う」


 一同から口々に言われ、さすがのアリシアもどうやら自分が悪いと察する。

 しかしここまでやってしまったのだ。大人しくカーチャを解放する前に、確かめておかなければ。


「……まだだ。さっきも言ったとおり、スラヴァ軍上層部に大きな変化があったことは知っている。わたしはそれによって、この世界での方針が変わったのではないかと心配しているのだ」


 これにはマリアが答えた。


「軍の内情について詳しく話すことは出来ませんが、この世界に関しては実質的に国王陛下と一部の側近の直轄です。なので議会も軍の人事も、現時点では私たちになんの影響も及ぼしていません。そちらもゲオルク陛下が深く関わっておいでですから、似たようなものではありませんか?」

「……なるほど。確かにな」


 アリシアは視線を手元の人質に移した。


「ではカーチャ、おまえは最近なにを悩んでいたのだ。ただ事ではないだろう」

「そ、それは……その、なんていうか……」


 もごもごと口ごもるカーチャ。


「中尉、あなたは知っているんだろう」

「いえ、知りません。本当です。わたしも隊長に訊ねてはいるんですが、頑なに教えてくれなくて。気丈に振る舞っていますが、なんだか表情も乏しいので、もう心配で心配で」

「やはり我々の暗殺命令を受けたか」

「……違うわよ」

「ではなんだ」

「言わないっ」

「貴様――」

「もうやめてっ! わたしが言いますっ!!」


 とうとう我慢できずに、彩希が叫んだ。カーチャが血相を変えてジタバタしはじめる。

  

「彩希っ!? だめっ、やめて!」

「ううん。言うよ! もとはと言えばわたしが悪いんだから」

「彩希!!」


 カーチャはほとんど悲鳴のような声で、親友の告白を止めようとする。

 だが彩希は、すでに覚悟を決めていた。大きく息を吸い――


「カーチャはっ……カーチャは乳歯が残ってることを気にしてるんです!!」

『!!! ……?』


 その迫力に押され、いったんエクスクラメーションマークを灯してみたものの、すぐに全員の頭上がクエスチョンマークへと切り替わる。


「ああ……」


 墓場まで持っていくと決めた秘密を暴露され、カーチャは脱力してアリシアにもたれかかった。

 サスペンスドラマの終盤、悲しい事件の真相を語るように、彩希は続ける。


「真島家では半年に一回、歯石取りと虫歯チェックのため、歯医者さんに行きます。数日前、カーチャは初めてその行事に参加しました」

「行事て」


 つっこむ京介を無視し、彩希はさらに語る。


「はじめての歯医者ということで、わたしは診察室までカーチャに付き添っていました。先生はひとしきりカーチャの口のなかを検めると、歯科衛生士のお姉さんとあれこれ小声で会話し――唐突に宣告したんです。『乳歯、残ってるよ』――と。それも二本もです」

「うぅ……彩希。黙っててくれるって言ったのに……」

「はぁ。それで」


 親友の裏切りに打ちひしがれるカーチャと、すっかり間抜け顔のアリシアが、実に対照的だった。


「先生の話では、奥に永久歯が準備されてなかったので、生え変わらなかったそうです。もう一生この乳歯を大事にするしかないと」

「彩希、お願いよ。もうやめて……」

「それを聞いて、わたしは不謹慎にも大爆笑してしまいました。よく憶えていませんが、『赤ちゃんの歯が生えてるんだね』とか『いろんなところがお子ちゃまだね』とか言ったと思います。カーチャはいたく恥じ入り、以来、大きく口を開けないよう気を付けて生活しているんです」

「…………。本当なのか?」

「嘘よ……大嘘よ」


 アリシアに問いただされ、カーチャはうわごとのように否定する。


「カーチャ、もう楽になろう。『胸はこれからだけど、歯はもう遅いのね』なんて無理して笑ってたけど、本当はすっごく傷ついてたんでしょ! わたし謝るから、ゴメン!」


 彩希が頭を下げる。


「……なにやら傷口を広げたような」

「胸ももうどうかなー」


 マリアと京介が口々にコメントした。


「うう……いっそ殺してちょうだい。これ以上生き恥をさらしたくないわ」

「カーチャ……」


 アリシアは不憫な少女の拘束を解くのかと思いきや、


「どの歯だ?」

「……へ?」

「どの歯だと聞いている。イマイチ信用できん。乳歯が残っているだと? 聞いたこともない。幼児体形だと思っていたが、それでは本当に乳幼児ではないか」

「」(絶句)

「……ひでぇ」


 あまりのドSぶりに、さすがの京介もドン引きする。

 

「……上の歯です」


 彩希が本人に代わって告げた。


「どれ」


 アリシアはようやくケーキナイフを手放し、カーチャを後ろに引き倒すようにして寝かせた。


「ちょ……やめっ……」


 カーチャは必死に抵抗するが、あっという間に手を両足で抑え込まれ、顔も太ももで挟んで固定されてしまう。

 その顔をアリシアは逆さまに覗き込み、


「口を開けろ」

「ん~~!」


 カーチャは口を閉じたまま、太ももの間で必死に首を振る。


「では仕方ない」


 アリシアはぴったり閉じた唇に指をやり、強引にこじ開け始めた。


「やめっ……ふんむぅ~! むーっ」

「大人しくしろっ! 我が国のっ、安全保障のためっ、乳歯を確認させてもらうっ」

「どんな安全保障だよ」

「暴れないでカーチャっ。アリシアさんに信用してもらわなきゃっ」

「ふぃやよっ! んむうぅうっ!」


 カーチャは必死になって手足をばたつかせるものの、体格の違うアリシアに本気で抑え込まれると、まるで抜け出せない。


「……俺はなにを見させられてるんだろう?」


 目の前のシュールな光景に、マーヤがぼそりとつぶやく。

 その喉元から、ナイフが離れた。


「手伝ってきます」


 そう言ってマリアはあっさりマーヤを手放し、奇妙な戦いの現場へと歩み寄っていく。


「……どっちを?」


 答えはすぐにわかった。


「隊長、口を開けてください」

「!? わひあっ? ふらぎっふぁほ!? (マリア!? 裏切ったの!?)」

「歯を見せれば済むことです。さあ」

「ふぃやよ! うぇっふぁいふぃや! (いやよ! 絶対いや!)」

「隊長っ、子供じゃないんですから」

「……まあ子供だったんだけど」


 そんな京介のつぶやきは誰も聞いていなかった。


「ぶっちゃけ、個人的に見たいというのもあります。少佐」

「……うむ。なんかこう、心をくすぐられるものがあるな。正直」

「っ!? 人でなし! 幼児性愛者!」

「自分から幼児と認めているではないか。ほれ、観念しろ」


 アリシアが抑える腕に続き、じたばたを続ける脚もマリアが乗って抑えてしまった。

 ふたりの手がカーチャの頭に容赦なく殺到し、とうとう口がこじ開けられる。


「……ふぁめへよぉ…… (やめてよぉ……)」

「彩希、来てくれ。どの歯だ」

「えっと――」


 呼ばれて、彩希も現場に駆け寄る。


「上の犬歯の、いっこ外側です。左右とも同じやつが」

「ふむこれか。……ぷっ。くくくっ。言われてみると、たしかに小さい。なるほどな」

「隊長は顔自体が小さいので気が付きませんでしたが、改めて見るとたしかに。犬歯が鋭いと思っていましたが、となりの歯が小っちゃかったんですね」

「そうなんです。意識して見ると、けっこう違うんですよね」

「うううぅ……」


 すすり泣くカーチャをよそに、一同が『うーむ』と納得する。


「どれどれ」


 とうとう京介もやってきて、カーチャの歯を観察した。


「あー、はいはい、これ。この可愛い歯ね。間違いないわ。食欲がないつったり、妙に食べ方が上品になったと思ったら、これのせいかよ。いまさら気にしてもしょうがねぇって。むしろ体型とセットで武器にしていけ、カーチャ」

「冗談じゃないわよ! この体型と乳歯が好きなんて男、ロクなのじゃないでしょうが!」

「……っ」


 アリシアが吹き出すのを我慢して、顔をそむける。


「っていうか勘違いだってわかったでしょう!? なにが暗殺よバカバカしい! アンタなんか言うことないわけっ?」


 カーチャが涙目でアリシアを睨みつける。その一言で、『じっ』と彼女に視線が集まった。


「……いやその」

「もちろん隊長にも非はありますが……。これはさすがに少佐の謝罪を受け取らないことには。こちらも一応、体面というものがありますので」


 と、マリア。


「アリシアさん……」


 と、彩希。


「アリシア、謝ろう。これはもう土下座しかないって」


 と、京介。


「ハードルを上げるなっ」


 ……とは言うものの。

 結局、アリシアはカーチャの腕を押さえていた脚を折りたたみ、手をついて深々頭を下げた。


「たいへん、申し訳ない」



 ――夕方。玄関。

 カーチャとマリアに続き、彩希が靴を履き終える。

 振り向き、


「なんかいろいろあったけど、これで範囲は完璧だね。京介」

「おう」

「またいらっしゃい」


 京介と、帰宅していた千代美がそれぞれ声をかけた。二人のうしろで気まずそうに立っていたアリシアも、


「……その。カーチャ、今日は本当に――」


 また謝罪を口にしようとした彼女を、カーチャが首を振ってとめた。


「“ピエルヴィ ブリン コーマム”これまで色々あったもの。いきなり打ち解けるほうが変な話よ。もう気にしてないわ。それに私を殺そうとしたわけじゃなくて、暗殺任務を暴いて解放しようとしてくれたんでしょ? そんなもの無かったけど」

「……まあ、な」

「じゃあいいわよ。すっごく恥ずかしかったけど、おかげで吹っ切れたわ。これでまた口を開けて笑えるし、ご飯をいっぱい頬張れるわ」

「……そうか。もう嫌かもしれないが……できれば懲りずに、また来てくれ」

「ええ。――じゃ」

「失礼します」

「ばいばーい」


 道路を渡り、公園の中を通っていく三人を見送ってから、京介は振り返る。


「……最初、なんて言ってたんだ?」

「ピエルヴィ ブリン コーマム。『最初のブリヌイは塊になる』という意味だ。“何事も最初から上手くはいかない”ということわざだな」

「へー。いいとこあるな。あいつも」

「……そうだな。しかしまあ、油断はしないことだ」


 まったく説得力のない、温かくほころんだろんだ顔で、アリシアは言った。

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