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雨降って地固まる

その日も空は青かった。長かった夏休みも終わり少しずつ気温は涼しさを増し街角には秋牡丹が花を開いている。

「最近何も面白いことないなー」

そう胡桃が暇そうに呟く。最近聖と楓奏はバイトを始め、平日のうち三日はそれに費やしている。夕美は文芸部の雑誌作りに奔走して結果、放課後胡桃は一人取り残される形になっていたからだ。当然この日も胡桃は一人教室で暇な時間を潰しながら明日提出の課題を進めていた。

「あとは丸つけして…よし。完了」

一人で黙々と進めていた為、案外課題はすぐに片付いてしまった。いつももっとかかるのに、と胡桃は寂しさと共にそう感じた。時計の針はまだ五時を指した頃だ、特にすることも無く胡桃は最近のことを振り返りつついつものようにシャーペンをクルクルと回しだした。あの変な三人と出会ってよく遊ぶようになり、目まぐるしく変わる環境、少しずつ増していった楽しさとそれを軽々と越していく別れた後の寂しさ。しかしそれとは裏腹に胡桃は少しみんなとの間にちょっとばかりの壁を感じていた。一々ここで言うことでもないので割愛するが胡桃はそれなりに色々悩んでいたのだ。

「あれ、胡桃帰ってなかったのか?」

そんな所に楓奏がスマホを片手に教室に帰ってきた。どうした、と胡桃が聞くとバイト先でちょっとしたトラブルがあり急に休みになったのだと言う。

「流石の胡桃も今日ばっかりは暇そうだな」

その楓奏の言葉に胡桃はまるで俺がいつも暇じゃないみたいな言い方だなと笑った。そして二人して少し笑いあった後、話題は夕美との事になった。今どんな感じだとニュアンスを変えて何度も胡桃が聞くが楓奏はそこそこじゃないかとしか答えることは無かった。

「いいなぁ楓奏、なんか三人と壁できた感じするよ。」

その言葉に楓奏は少しの違和感と不快感を覚えた。なんだよそれと苦笑いしながら楓奏が返すと不貞腐れたような顔でだってさ、と胡桃は続けた。

「だってなんか俺だけみんなに置いてかれてる気がしてさ、さっきだって俺だけ一人だったし。」

そう言って胡桃がシャーペンをクルクルと回し出す、するとさっきの言い草に対して少し怒ったように楓奏は反論を掲げた。

「壁なんてないよ、勝手にそう思ってるだけだろうさ。」

そしてそれに対して胡桃が不機嫌になる。なんだよ。事実だろ、とそう言って胡桃はシャーペンをバンと机に置いた。イラつきがイラつきを呼び、気がつけば二人とも胸ぐらをつかみながらの取っ組み合いになっていた。偶然教材を取りに戻っていた夕美が見つけて一緒にいた先輩が止めたからこそ良かったが先生に見つかっていたら二人とも停学沙汰であった。二人とも不機嫌なままその日は終わった。


「へぇ、それほんとに心から思ってたの?」

次の日、あらかた夕美から事情を聞いた聖は胡桃をなだめにやってきた。胡桃は黙り込んだまま視線を落としている。何も答えないまましばらくその静かな時間は流れ続けていた。そうやってコチコチと腕時計の音が何回か鳴ったあとようやく胡桃はその重たい口を開いた。

「俺さ、あんなに楓奏が怒ると思わなくて…それになんであんなこと言ったのか。あの後家帰ってずっと考えてたんだ。俺、どうしたらいいかな。」

その一言を聞いて聖は大きくため息をついてから謝ればいいよ、とそう呟くように答えた。

「楓奏、まだ昨日の事で怒ってるの?」

一方、楓奏は未だ憤りを覚えたまま教室で自分の席に座っていた。小さな声であぁと答えた楓奏は机に倒れるように寝転がってはぁとため息をついた。壁か、と呟いて楓奏は頭を掻きむしった。

「俺、あの時胡桃にもっと上手く言えた気がするんだよ。それが出来なかった俺に虫唾が走るんだ。」

そう言って楓奏はもう一度ふて寝を始めた。夕美は楓奏の前に回り込むとしゃがみこんで頭を撫でた。

「謝ってきたら?胡桃に。」

その問いに楓奏はまたあぁとだけ答えた。それで朝の二つの会議は幕を閉じた。


そうして放課後、四人は胡桃達の教室に集まっていた。二人は気まずいといった表情でたまにちらりと目を合わせてはふいと目線を外して黙り込んでいた。楓奏、と夕美が釘を刺すように声をかけると楓奏はビクリと肩を弾ませて少し唇を噛んだ。

「その…すまんかった。もっと言い方あったよな。ごめん。」

胡桃はその言葉を聞いて一層の気まずさを感じた。キュッと口を真一文字に固めて視線を落としていると横にいた聖が胡桃の頬をつねって叱るように胡桃、と声をかけた。

「いぁ痛い!言うから!言うから!ったぁ……その、俺もごめん、心にもない事言って。」

そう言って謝るとなんだか二人は突然底から笑いが込み上げてきて大声で笑いだしてしまった。

「なんで喧嘩してたんだろうな、俺たち。」

そう言って笑い合う二人を見て夕美も抑えきれず笑ってしまった。それを聖はほんと男子っていつもこんなんよね、と笑って見ていた。そんな日々がとても楽しかった、夢のように輝いていたのだ。

今回で本編最終回となります!ご愛読ありがとうございました。また、エピローグとして卒業後の話を一話分執筆致しますので宜しくお願いします。

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