乙女心と喫茶店の珈琲
少し前に遡ったこの日、聖と夕美は二人でショッピングモールに出かけていた。海に遊びに行くので水着を持っていない夕美の水着選びをしに来たのだ。
「これなんかどう?可愛いよこれ」
聖は思いのほか大胆な水着ばかり持ってくるので夕美はその全てにそれは、と遠慮をしていた。
「えー……でもこれ可愛いよ?」
「いやだよ、恥ずかしいし。こういうのは聖の方が似合うでしょ!」
そんなことないよ、と聖は言う。そんな声を無視して夕美は無難なワンピースタイプの水着を取ってきた。
「でもさ……あ、そうだ!ほらビキニタイプの方が楓奏も喜ぶよ!」
その一言に夕美はピクっと反応する。それからすこし睨んではぁとため息をついた。私の事全部知っててそういうこと言うんだから、と夕美は呟いた。結局その後、聖のゴリ押しに負けて夕美は白のビキニを買ってしまった。少しの後悔と期待を感じつつ手さげ袋をじっと見ていた。夕美はそうしながら可愛いって言ってくれるかな、なんて乙女らしいことを考えていた。その後二人は暫く店を歩き回り腹が減ったと喫茶店に入る事にした。
「いらっしゃいませ…ってもしかして聖ちゃん?」
そう言った男の店員は見た目は爽やかそうで歳はおそらく5つか6つほど上だろうかと言ったものだった。聖はお兄ちゃん、と驚きながらも喜んだような顔をして軽く頬を赤らめた。そのお兄さんに席を案内してもらい、二人は席に着いた。
「ごめんね夕美、さっきの人の事言うの忘れてたね。」
席に着いてしばらく、思い出したように夕美に話しかけた。
「さっきの人はね、別にホントのお兄ちゃんって訳じゃなくて私がちっちゃい頃にうちの近くに越してきた人なの。」
そう説明する聖の顔は夕美の目にはとても煌めいて見えた。あの人か、と思いながら夕美は楽しそうに語る聖を見ていた。長々と話しているうちに夕美は少しずつ聖の表情が曇っていくのに気付いていた。聖、と声をかけると少し黙ってこう話し出した。
「お兄ちゃんさ、今度結婚するんだって。……だからさ、もし良かったら夕美も結婚式来ない?」
心配になった夕美はその問いに対してすぐにうんと答えた。それから少し二人の間には沈黙が流れた。少し、と言っても本当に少しの間だが、その間聖は空になったカップを見つめてソーサーの縁を撫でていた。もう出よっか、とそう言った聖はいつもの顔に戻っていた。こんな時に苦い珈琲を頼むんじゃ無かったと夕美は酷く後悔した。




