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番外編 長い長い問題集

初めて好きになった人は男の子だった。一つ年上の近所に住んでいるお兄ちゃん、優しくて怪我したりすると心配してくれる。私は自然にお兄ちゃんの事を目で追うようになっていった。そして遂には気付いたらそのお兄ちゃんについて行くようにまでなっていた。そんなある日のこと、街角の公園で見つけたそのお兄ちゃんに声をかけようとした時だ。

「いつもお前についてくるやついるよな、あいつはどうなの?」

私のことだ、だけど一体なんの会話をしているんだろう。なぜあそこで引き返さなかったのか、いまとなっては後の祭りだが私はあの時そうしなかったことを酷く後悔している。その時、お兄ちゃんが放った一言で私の人生は狂ってしまったのかもしれない。

「あぁ、あいつ?ちょっと優しくしただけですんげぇついてくるようになってさ、正直ウザイよ。」

私は耳を疑った。ほんとに私のこと?もしかしたら私以外の誰かかもしれない。きっと、きっとそうだ。だけど、だけど私以外にそんな人は居ない。アレは私のことだろう。次第に私は男の子を怖がるようになっていった。


次に好きになった人は女の子だった。同じクラスの可愛いと評判の女の子、初めはこの感情が好きだってことには気づかなかった。だけどその感情に気づくのに時間はかからなかった。友達の話を聞いている間にこれが好きって感情だということがわかった。好きを募らせて遂に私は彼女に告白することにした。今でも忘れない、告白の返事はこうだった。

「それ本気で言ってる?気持ち悪いね。」

私は普通じゃなかった。好きだった人からのその言葉は私の気持ちを道端のガムのように踏み躙った。その上その話は瞬く間に学校中に知れ渡った。毎日のように受ける言葉の暴力、見て見ぬふりするヤツ、あんなに仲の良かった友達は私から離れていった。上靴は何度無くなっただろう、机は何度綺麗になるまで拭いただろう。人を嫌いになるにはそれで充分だった。それから私は人と壁を作るために敬語を使うようになった


高校に入っても同じだ、どうせまた虐められる。私は異端者なのだから。友達も、もう作りたくなんてない。誰とも話さなければ、話しかけなければ一人で静かに暮らせる。だから誰も私に話しかけないでくれ。だがそんな気持ちを知ったことなどないと言うように彼女は話しかけてきた。

「田中さんだっけ?それ、何読んでるの?」

それがあんまりにもキラキラした目で興味津々に聞いてくるものだから私はそのまま答えてしまった。

「スピカという小説です。私の好きな作家さんのものです。超有名、というわけではございませんが。」

どうせ期待してたような返事じゃないだろう。それにきっと変な興味を持って話しかけてきたのだ、しばらくすれば別の友達と遊んでいるだろう。そんな思いと裏腹に彼女は次の日もその次の日も私の元にやってきた。

「あの、すみません。」

「ん?どうしたの?」

この際、なぜ私に近づいてきたのか。なにかの算段なのかそれを私は知りたかった。そして私は聞いた。なぜ私に構うのかと、なぜ私なのかと。

「なんでって…仲良くなりたかったから。それだけだよ、夕美。」

そう言って彼女は笑った、一点の曇りもない無垢な笑顔で。その時私は思った、彼女ならありのままの私を受け入れてくれるのではないかと、私を拒否なんてしないのではないかと。実際彼女は私が告白しても好きな人がいるから付き合えない、そう答えた。女だから断るのではないと、そう言った。


私はこの恋を諦める。私を再び恋が出来るようにしてくれた彼女を諦めよう。今はただこの気持ちを持ったまま、私を認めてくれた三人と共に生きていこう。

「あ、夕美。胡桃と聖、先に行っちゃったぞ。」

楓奏が呼ぶ声がする。私は目の前の課題の最後の問題を解き終えて答え合わせをする。一つ二つの間違いは仕方ない、なにせ急いで解いたのだから。

「うん。こっちももう終わったから行こっか。ほら、なに椅子に座ろうとしてるの。早くしないと置いてっちゃうよ、楓奏。」

彼は笑ってあぁ、とだけ答えた。もうここにあの日の私はいない。答え合わせをしたあの問題集のように、間違ったものを消すんじゃなくて認めて次に進めるように。ここから、一歩一歩。

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