dress code
嗚呼。うざったい。
こんなトラップ虫けらだ。何十、何万用意したところで結果は変わらない。
当たらない。私の前では無意味だ。必死に抵抗したところで同情なんかしない。それが世界の癌だというのなら、私は母親だろうが殺して見せる。
機体後部の独立自立式レーザーユニットから吐き出された光線が防衛システムに当たるたびに起こる大きな火花。私の瞳はそれに揺らされこそはすれども、心は冷えたままだ。
このまま痛みも感じる間もなく殺す。それが私の慈悲だ。
嗚呼、こうしてまた私の前でレーザーは弾けた。
「逃げ場は無いの。
だから安心して死になさい。」
CODE:hermonicsのレーザーユニットは5基。それぞれがパイロットに直列された量子電算機によって索敵、攻撃を自動で行う。
この機体がこの地点に降下してきてからすでに13分52秒。防衛システムなどもうほとんど残っていなかった。
たった一つ。巨大で強力なものを除いては。
「そうやって蟻踏みつぶすガキみたいにアホ面こいてろ。」
直線距離にして2700m。アラムの指がトリガーを引くの同時に巨大な閃光が放たれる。
轟音と共に空を裂き、真っ先に敵機へと。
そして当たることなく弾けた。
「まだ一匹いたんだ…」
「ああ。
そうだ。振り向け。こっちを見ろ。そして"認識"しやがれ。」
彼女のモノアイは首をひねりながらこちらを向く。
そこに敵意も憎しみもなく、あるのはただ哀れみのみ。だからこそー。
「フッ…!!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!やっとまともお出迎えね!いいよ!君もすぐあっちに送ってあげる!!」
5基のレーザーユニットすべてが瞬時に標的に狙いを定める。あとはその光が貫くだけだ。
「王手だ。糞ビショップ。」
『深すぎた群青起動。』
トリガーに指をかけ王手をかけたはずのサラはここで違和感に気付く。
「どうしたポンコツ!!早くやってよ!!」
『LOST。』
「ふざけんな!!あいつはあそこに…」
いや。なぜだ。どうしてだ。さっきまでそこに。移動したのならその間に撃つ墜としてるはず。そうじゃなくてもロックした時点で私は"認識"し、逃げ場は無いはず。
何をした。何が起きた。どうなっている。
なんであいつがそこにいない!!
「わけわかんねえって顔してる…してるよな!
どうかそのままわけわかんねえまま死んでくれ。」
アラムは淡々と指を引く。放たれた3発のプロトンレーザーはCODE:hermonicsの目の前で花火のように弾けた。
「お前のその調和は確かに厄介だ。通常の方法で攻略する手立ては何年考えても思いつかん。まったくもって恐ろしいよ。
…だがそれは無限という前提があった場合だけだ。」
次々と弾ける花火は段々とその規模が、音が、光が激しくなっていく。
「何分だ?何発だ?何ジュールだ?
どんなものにも限界はある。おまえが襲撃から今までで遠距離支援火器だけを徹底して破壊していたのがその証拠だ。
だがこれはチェックであってチェックメイトじゃない。それだけじゃない。それだけしか能がないわけじゃないだろ。もしそうなら15年前、俺たちは勝ってたからな。」
モニターに咲いては枯れる光の華を横目にサラは何を思う?焦りか?恐怖か?
否。否否否否否!断じて否!!
答えは…
喜びだった。
「…これだ!これこそが戦争だ!闘争だ!抗争だ!
この屈辱、この挫折、この焦燥こそが私の生きてる証だ!!
良い。実に実に実に実に実に実に実にぃぃぃぃぃぃ…!」
やがてフラッシュを繰り返していた光の塊は世界の理不尽を押し切り、右腕とレーザーユニット2基を破壊するに至った。
いや、この言い方は誤解を招く。訂正しよう。
「…マジかよ。イカれてやがるな。」
「痛ったぁ!やっぱり感覚再生は最高だね!!作った奴にはキスしてあげたいくらいだ!画面の外から眺めてるだけの戦争屋とは違うところが最っ高!
さて…今度はこっちのターンだ!」
至ってなどいない。
「ステラ!リミッター全部はずせ!それと"core"との連結を切れ!
あいつ自分から右腕を切り落としやがった!!受け入れやがったんだ!!」
『今やってる!
セカンドプランはすでにあるんだ!君も早く撤退しろ!!このままじゃ勝ち目がないぞ!』
「悪いがあいつに勝ちたくなった。それに俺にもあるんだよ。セカンドプランってやつがな。
なに。心配するな。死ぬときゃ一緒だ。先に根源で待っててやる。」
『…わかった。死ぬ気でやれ。ただし死ぬな。必ず勝て。いいね?』
「了解」
…さてどうしたものか。奴さんもそろそろ仕掛けてくるころだ。このまま待つか。どうせジリ貧だ。下手に仕掛けるのは得策じゃない。
…いや。
「やはり先手必勝だ。」
たとえ得策じゃないとしても、たとえ不利だとしてもここで退いてはいけない。戦争において負けたやつってのは死んだ奴の事じゃない!逃げたやつのことだ!
奴の狙いはおそらくドレスコードの回復。ならそれまでに仕掛ければ勝ち筋はある。
ライフルを構え、狙いを定め、引き金に手をかける。
出力は最大。狙うは脳天。当たれば即死。
「まだ見えねえだろ」
指を引いた。銃口から放たれた光はまっすぐ敵機へと向かう。調和されようが構わない。そのプロセスこそに意味があるのだから。
だが、見えたのは違う結末だった。
逸れた?いや、
「避けただと!?」
「タネはばれてんだよ?見えるに決まってんじゃん!!」
畜生。野郎近づいてきやがる。こっちが遠距離仕様だから楽勝…ってか?
「舐めてんじゃねえ!!」
お前がこっちに来るなら俺もそっちへ行ってやる。逃走こそが敗北だからだ。
お互いの素粒子の刃がぶつかり合う。アラムと短剣|《タガ―》とサラの長剣《サーベル》では優勢がどちらか火を見るよりも明らかだった。
「こんにちは!なりそこない!残念だけど幕引きよ!!」
「幕引き?馬鹿言っちゃいけねえな。」
アラムがそう言うと、サラの背後、どこからともなく飛んできたレーザーはCODE:hermonicsのレーザーユニット2基を吹き飛ばした。
「ここからが本番だろうが。」