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禁忌のメイガス  作者: Ι
No.5 front line
17/18

turning SIDE:B

私は、知っていた。

島が奇襲を受けることも、あの子が戦場に駆り出されることも、彼らが休息など与えないことも、

そして彼女が死ぬことも。

いや、正確に言えば聞いていた。

そこに確証も論理性もなかったが、私はそれを真実とした。

彼女曰く、"わかるからわかる"。ただそれだけのロジックらしい。

ふざけている?破綻している?ならば問おう。

真理とは?正しいとは?

…それは君が自分の中で基準を作ってしまっているからだろう?

万物が法則通りに動いたして、法則が絶対的な真理と結論付けるには人間の脳はあまりにも小さすぎる。

結局我々は自分の中で真実を作り出すしかない。

だから私は彼女の破綻したロジックを信じた。

結果はどうだ。すべてが彼女の語った通りに動いたじゃないか。

だが、私は…


「…なんで…こんな時に……」


部屋に鳴り響くアラート共に感情がこみ上げてくる。

知っていたはずだ。覚悟していたはずだ。

…なのにどうしてこんなに…悲しいんだ……。


「…主任!……主任!!」


滲んだ視界で反響する部下の声でこの心的状態を何とか抑える。

状況が状況だ。自分の感情にうつつを抜かしている状態ではない。

そんなことは私が一番わかっている。ただ、この震えた喉仏を言葉を通過するには時間があまりにも短すぎた。


今現在、この島に司令部は存在しない。

いや、数分前までは存在していた。だがそこはもう炎と灰にまみれた瓦礫の下だ。

必然的に機体の管理ができるここが指示を飛ばすしかない。


「敵機降下位置から半径15kmにイージス設置完了しました。

 ただ予想より進行が早く、住民の避難にイージスが追いつきません。

 エクリプスの発進許可を。」


…ここまであっけないとは。ここまで無力だとは。

正直な話、私の感情が切り替わる間くらいは少なくとも止められるものだと思っていた。

仮にもこうなることを想定して設置したシステムであり、耐久や瞬間的な火力に関してはかなりのものだったはずだ。なんせこの島で使える技術はすべて使ったのだから。

このままの速度で損傷が増え続ければ、"core"がまずい…

いずれ到達されるにしても、もうすこし時間ってものが…


『なに現を抜かしている?

 あんたが許可を出さないから、俺があいつを壊せないだろ。

 出し惜しみなどしている場合か?』


わかっているさ。

予想よりかなり早いがあの機体はこのままでは絶対に止まらない。ここで渋ったところで被害が拡大するだけだ。

だからこそ…。


「…発進を許可する。

 ただし、やばくなったら素直に撤退してほしい。

 アラム君の肉体的、精神的な損害は認められない。」


『俺が撤退した後、当てはあるのか?』


私にはこの問いに関しては一つしか解を持ち合わせていない。

この解は希望的な願いに近いが、それでも事実に違いはなかった。


「…ある。

 たった一つの冴えた方法さ。」


『抜かりないな。

 だがあんたは天才、ステラ=ノースマンだ。あんたが作ったこのシステムと俺がいる。

 自信を持て。あんな鉄くず、すぐにスクラップに変えてやる。

 わかったらさっさとハッチを開けろ。』


カタパルトの赤いアラートランプをモニターしながら願う。

ハッチを開ければそこが最終防衛ラインだ。


「頼んだよ…!」


『任せておけ』


至極色の金属でできた巨人は地上に解き放たれる。

大きさは敵機と同じくらいだろう。だが、この戦いに大きさは関係ない。

そう設計したのは私だからね。


メイガスには3種類の量産機が存在する。これは我々の計画が第三段階に移行したときのためだが今は割愛する。

長距離支援型のルナ、中距離万能型のテラ、そして近距離格闘型のソル。それぞれ設計者は違うものの各々がアークフォトンジェネレーターの長所を生かした仕様になっている。

たとえばソルは専用の兵器を持たないことにより、機体の推進力と腕部及び脚部の出力増加に成功している。ルナやテラに関しても同様だが、この三種類にはある欠陥があった。

それはこれらは"絶対にコードやタブーには勝てない"ということだ。

それもそうだろう。まずこれらの機体には第五世代のパイロットが乗ることを想定していない。故に、いくらソルに乗ったところで出力はたかが知れている。

そうして何より、これらの量産機ではタブーやレプリカといった根源を使うシステムが内蔵されていないことが致命的だった。

ここで"だった"と過去形を使ったことに複雑な理由などない。単純な話だ。


「その問題はすでに解決している。」


少年は少し笑みを浮かべそう言い放った。

後に知ることになるが、彼の名前はバレッタ=ノーツ。私が丁度山積みの問題を抱え頭痛に悩まされていた頃だった。


「制約も負荷も気にしなくていい。

 あの体で出せる限界を手段は何であれ引き出してくれさえすれば、あとはこちらで何とかしてやる。」


最初は何かの冗談なのかと思った。種の存続がかかった問題をいきなり現れた十代の少年が解決しようといってくるのだ。しかも根本の原理を崩壊させるなんて馬鹿げたことも提案してくる。

正直、心がくたびれているから笑えないのだと思った。不可能だと笑い飛ばせないのは私のせいだと思った。

だが、数秒後に悟る。笑えないのは心がくたびれているからなんかじゃない。彼がこの上なく本気だったからだ。

否定する根拠などいくらでもあったが、それを出力するための気力は彼の気迫に負けていたのだ。


「…いいのかい?

 私の設計はかなりハードだよ?」


べつに強がりのつもりで言ったんじゃない。ただ私はなんというか…

そう。心が躍っていたんだ。

おかしな話だよ。さっきまでしていた頭痛は解き放たれたように無くなっていたばかりではなく、全くでなかったはずのアイデアが無限にあふれてくるのだから。


「上等だ。

 どうせならウルトラハードで頼む。」


「フッ…

 君、もしかしてドМかい?」


その日、私は初めて笑った。振り返ってみれば奇妙で何とも言えない出会い方をしたものだが、私はこれを気に入っている。


"メイガスルナエクリプス" 

彼の注文通りウルトラハードな設計、そして乗り手が誰もいないその機体は彼の手で完成を迎える。

従来のアークフォトンジェネレーターと重金属プラズマエンジンの相互作用による動作ではなく、指向性疑似接続システムによって仮想粒子であるはずのタキオンを世界に錯覚させることで臨界タキオンエンジンをも搭載したトライシステムを可能にし、武装も一新され出力や冷却性能も格段に上がったことでより高火力、尚且つより長時間の戦闘をも可能とした。

だがこれらはあくまで副産物に過ぎない。


「まさか本当に乗り手が現れるなんてね…

 アラム=レイムス…」


深すぎた群青は今怪物と対峙する。

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