turning SIDE:A
時は少し、遡る。
黒に包まれた箱の中で鼻歌のみがこだまする。
暗闇を画面の光のみが照らし、彼女は笑みを浮かべながらそれを指でなぞっている。
『粒子生成率基準値を突破。
酸素濃度正常。モニターを任意の補正をかけることができます。』
「お。
じゃあ彩度にプラスの補正かけて。そんなに強くなくていいから。」
『はい。
これでいかがでしょう。』
目の前には青と白の球の一部が映し出されていたが、それは一層の輝きを増した。
彼女はにやっと笑い、答える。
「…悪くない。」
ここは上空10万m。空と彼方の境界線。
あるのは彼女と兵器だけだ。
『作戦開始まで残り5分を切りました。
パージシークエンスを開始します。』
「曇りか…
まあそれも悪くない。」
彼女の視線先にあるのは半透明のドームと、その先。
まっすぐに捉えたその眼にはどこか燃え上がるものがあった。
『G-NEXT自立飛行モードに移行。
第三区画をそれぞれドッキング開始。
位置修正。ザイレウス固定具5番8番切り離し。
情報更新速度を向上。メンタルヘルス、生命維持異常無し。
続いて3番4番切り離し。
4機のG-NEXTのドッキングを確認。コリオリ偏差修正開始。
出撃タイミングをパイロットに譲渡します。』
「よしっ」
彼女は息を大きく吸い込み宣言する。
「行こう!」
その刹那、金属音が鳴り、鉄くずは空間を漂い、人型の兵器は自由落下を開始する。
無を切り、空を切り、徐々に地表に向かい加速されていく機体、特殊粒子により緩和されながらも全身で感じる慣性力が彼女をここに駆り立てる。
鼻歌交じりの落下はやがて大きな積乱雲へと突入していく。
『NOVA 照射開始』
上空より差し込んだ光の柱は彼女の目の前の雲を吹き飛ばし、やがてドームへと差し込む。
所詮は量子の塊。そんなものでドームを破れるのならば今頃新人類などいないだろう。
だからこそ彼女が"いる"のだ。
「…レプリカ。」
光の障壁に触れ、彼女はそう呟く。
全身から噴き出すアークフォトンの輝きが、彼女の腕へ、掌へと集まっていく。
その言葉は魔法であり、異能であり、異質であり、そして力だ。
瞬き一回もすれば、光の障壁は弾くことを、そして拒むことをやめた。
無くなったのではない。ただ"止めた"のだ。
降り注ぐ巨大な光の柱と、人型の鉄くず、それは瞬く間に街を火の海へと変えた。
逃げ惑う群衆、崩壊する建造物、そして噴煙…。
「行くよ…
CODE harmonics。私は私の因果をここで断ち切る……!!」
降り注ぐ防衛システムのレーザーが目の前で閃光となり掻き消えていく中、彼女は虐殺を始める。