ラベル村
どもども、はがね屋です。
異世界の村とは、どんな村なのか。
~ラベル村~
海に囲まれた第1王国 シュピーゲルにある小さな村。
人口約200人。温泉が少し有名で、非常に長閑な場所。
*****
ラベル村の門兵であるレイジは驚いていた。それは隣にいるイルミも同じのようだ。いくつかのモンスターが生息する森から、生身の人間が2人もやってきたのだ。
大きな岩山に挟まれた魔物の森。奥には地鏡の岡と呼ばれる、村のおとぎ話に出てくる岡があるのみ。しかも周りは海に囲まれている。
「な、なぁイルミ。あれ、人間だよな?」
「そうとしか見えないのだが…」
1人の少年は黒髪で歳は10代といったところだろうか。片手にはボロボロの直剣が握られている。もう1人の少年は焦げ茶色の髪色をしており、黒髪の少年と同じくボロボロの直剣を携えていて、2人とも見たこともない黒い服を着ている。すぐそこまで歩いてきた黒髪の少年が話しかけてくる。
「どうも、こんばんは」
「お、お前たちは、一体何者だ。新手の魔物なのか?」
レイジは槍を少年の方に向ける。
「やめろレイジ!すまない。私はイルミ、彼はレイジだ。我々はラベル村の門兵である」
「ぼ、僕はえっと…」
「サクマです。こっちはミチル」
俺は少しでも怪しまれないよう、あえて門兵2人に合わせた名乗りをした。
「そうか、サクマとミチル。改めて、君たちは一体どこから現れたのだ?」
「その、俺たち気づいたらあの岡に立っててさ…」
「「 っ?!」」
レイジは黒髪の少年が発した言葉に、思わず驚く。隣のイルミも同じような反応をする。
「それは本当のことか?!嘘をついてねぇだろうな!」
信じられない事実に動揺し、思わず疑ってしまう。悪い癖だ。
「俺たちが嘘を言ってるって言うのか!」
少年も負けじとこちらに維持を張る。
「レイジ!」「サクマ…!」
レイジとサクマが喧嘩腰になり、イルミとミチルがそれを止める。どうやらイルミは、この状況に納得したようだ。
「事情は何となく理解した。とりあえず、村に入ってはくれないだろうか?ここで騒ぐのは少し危険だ」
「はぁ?!ホントにいいのかこんなやつらを入れても」
「構わない。もしあの話と彼らの話が……」
イルミは昔村長が話していた予言、それと合わせたおとぎ話の内容が合致していることを確認する。一通り話終わったあと、魔の森からやってきた2人を村へ入れるべく、ラベル村の木の門をゆっくりと開く。
*****
門兵のイルミに案内されたのは村の中心にある役場のようなところだった。入り口に差し掛かったところで
「門兵のイルミである!村長クームに客人を連れて参った」
と、威勢の言い紹介をしてくれた。すると奥のドアが開き、白髪の老婆が杖を突きながら出てきた。
「ほぉう、黒髪に異国の衣服。言い伝えは本当のことだったようじゃな」
老婆が出てきたところで門兵は一礼し、席をはずした。
「まぁ、夜も遅い。今夜はゆっくりと宿屋にでも泊まってくだされ。あの森を越えてくるのは大変だったじゃろう」
何か重要な話でも聞かされるのかと思っていたが、予想もしなかった言葉が投げ掛けられる。
「はぁ、ありがとうございます」
俺たちはペコリとお辞儀をし、役場を後にした。入り口を出てすぐ正面に宿屋があり今夜はそこで過ごすことになった。2階建て民家を3つほど繋げたような木造建築。まるで温泉旅館のようだ。
「いらっしゃいませこんばんは!ラベル村の宿屋へようこそ。私はここの看板娘のアムです」
「こんばんは。僕はミチル、こっちはサクマです」
「ミチルにサクマ、お2人様ね。って2人とも変わった格好をしてるのね、そんな服は今まで見たこともないわ」
「俺たちのブレザー、そんな珍しかったっけか?」
アムと名乗る中学生くらいの少女は、俺たち2人をまじまじと眺めた後、2人部屋へと案内してくれた。
村長から話を通してくれたみたいで、無償で食事まで用意してもらった。アムの母親が出してくれる料理は主に刺身で、どれも見たこともない魚ばかりだった。食後は宿の敷地内にある、どうやら少し有名らしい温泉に入浴することにした。
カポーン
「いやぁ、ここは日本でもなければ地球でもなさそうだな」
「だよね、見たことない服、見たこともない魚の料理ばかりで、もう驚くのに疲れたよ」
そういって温泉に浸かりながら満点の星空を見上げる。漆黒の夜空には色とりどりの星がキラキラと輝いているのが見える。俺が住んでいたとこは特別都会ではないが、ここまで星空がくっきりと見えたことは多分1度もなかったと思う。
世界は違えど、温泉と星空があるのはどことなく落ち着く。
「とりあえず、これからどうするか決めないとだな。なんせ右も左も分からない未知の場所なんだ」
「うん。とりあえずは、この世界から元の世界に戻れる方法。これを優先して探すべきなのかな?」
「そうだな。まずそれを目的としていこうか」
「それはそうと、サクマ。あのスケルトンと戦っていたときのあの技はなんなんだい?あんなに速くて力強いサクマは見たことないよ」
ミチルは先の戦闘で、サクマの剣が青い光に包まれ、見事な剣技を炸裂したのを鮮明に覚えてる。
「あぁ。実はあれ、なんでできたのかよく覚えてないんだ」
「え?あんなすごい技を覚えてないのかい?」
「あぁ。でも2回目以降からは使い方がなんとなく分かってきたんだ。自分が何をしないといけないのか、何をするのかって心の中で意識して剣に集中すると、自然と体が動くようになったんだ」
その時に自分がコントロールする技は、どれも通常の剣撃よりもかけ離れた威力を発揮する。
「スキル、剣技!だったっけ?」
「あぁ。その言葉も勝手に頭の中に浮かんできたんだ」
多分、正確には剣技そのものがスキルなんだろう。
「火事場の馬鹿力、みたいなものなのかな?」
「ははっ。案外そんなもんかもしれないな」
そう言ってその日の疲れと不安を談笑と温泉で流れ落とし、異世界での1日目を終えた。
レイジは22歳、イルミは31歳。
レイジは喧嘩っ早くて、イルミはお兄さんみたいだと村民に言われています。