暗殺団
どうも、はがね屋です。
道中、大変なことに…
もうどれくらい走ったか分からないくらい、僕は森の中を一心不乱に走っていた。
すると、前方に開けた場所に人が数人いるのが確認できた。茂みに身を潜め、敵を確認する。
「妙だ、リーダーの予定時間はとうに過ぎている」
「確かに、少々遅すぎる」
そんな会話をしているのはぱっと身は忍のような格好をしている男たちが5名。しかしそれは仮の姿らしく、予定時刻なるものを過ぎるとその衣装を脱ぎ始める。そしてやつらの本物の姿が露になる。腰に短剣や針のようなものを装備し、黒のフードを深く被ったまさにアサシンそのもののような格好だ。
1人の男が横に動いた瞬間、奥にアムちゃんが縛られているのが見えた。どうやら気を失っているらしい。
「おい、見張り置いて俺たちも見に行こうぜ」
「そうだな。ドラル、カムリオン、ここはお前に任せる」
「「 はっ 」」
そして3人は僕が通ってきた道を、目にも止まらぬ速さで駆け抜けて行く。
残って2人は、眠っているアムから少し離れたところに腰を下ろす。もしかしたら、奇襲をかけるなら今かもしれない。そう思い腰の剣の柄を握り抜刀する。しかし、そんな些細な音を感じたようで近くにいた1人が立ち上がる。
「誰だ」
「お、おいカリン。どうしたって」
「その呼び方は止めろ。そこの茂みから妙な音が聞こえた」
この距離で聞こえてるのか?あの忍、とんでもない聴力をしている。こうなれば、一気に終わらせるしかない。
瞬時に立ち上がり、ナチュラルスキルを発動させる。
「インフェルノ・ストーム!!」
茂みを跳躍で飛び越え、アムを巻き込まない位置で2人の忍者を狙う。
「おわっ、なんだこいつ!」
「落ち着けドラル、それよりもあの炎の渦を止めるぞ」
すると、カムリオンと呼ばれていた忍が大きな三角型の手裏剣を取り出す。そして、
「水蒸爆」
ボシュン!
手裏剣から放たれたいくつもの水の球体は、剣撃の回転で発現させた炎の嵐を一瞬で蒸発させた。
「今のは、術技なのか」
「違う。これは我々ディクタートにしか扱えないスキル。忍技だ。」
再び前の忍者は手裏剣を構える。ディクタート?いったい何なんだよコイツら。
「見た目だけじゃなくて、技まで忍者なのか。」
「はっ!忍者が何か知らねぇが、ここでお前を倒させてもらうぜ。」
「名を聞いておこう。私は暗殺団第6位カムリオン、そしてこいつはドラル。」
アムちゃんを助けるためにも、ここで負ける訳にはいかない!
気合いをいれるが如く、インティを前に構える。そして、剣は僕の心に応えるかのようにゴォッと炎を発生させる。頼むぞインティ。
「三等剣士ミチル!ここでお前たちを倒す!」
「ふん、笑わせてくれる」
ニヤリと口を歪め、強風のようにこちらに走ってくる。
カムリオンは大手裏剣を上段から振り下ろし、ドラルは2本のクナイの様なものを構え迫ってくる。
「安心しろ、すぐに終わらせてやる」
ガキィン!
上から降ってくる手裏剣を払い、右から迫るクナイを出せる最高の速度で叩き落とす。
「言ったはずだよ、お前たちを倒すって!」
「やっぱ面白いぜぇ、コイツ」
ドラルはクナイを拾いはせずに、背中の刀を抜刀する。
「雷撃両断!」
刀は青く光、激しい雷撃を纏う。
雷撃が顔の目の前まで迫ったところで、剣で防御の構えをする。
「くっ、防御を…」
「無駄だ小僧」
剣を伝い体中を巡るように激しい痺れ、もはや痛みでしかない、が身を焦がす。力が抜けた手から剣が落ちる。
「ひゃっひゃっひゃ。馬鹿だなお前。そろそろ終わっちゃうぜぇ?」
「く…、あぐ…」
膝をつき崩れ落ちる。口を動かそうと、体を動かそうともするが動かない。
ザシュ
膝立ちになった状態で、正面から大手裏剣が飛んでき、右の胸に勢いよく刺さる。だめだ、僕は守れなかった。助けられなかった。こんなところで負ける。いや、死ぬ。
「ドラルの雷撃をくらって生きていることはなかなかすごいとは思うが、どうした。先ほどの威勢はどこに消えた」
「そうだぞ立てって!俺をもっと楽しませてくれよ!」
体に刺さった手裏剣が引き抜かれ、ドラルは僕の首の後ろに剣を構える。
「ほら、ほらぁ。死ぬぞぉ!しかしまぁ安心しろ。あのガールフレンドもすぐに送ってやるからさぁ!」
ごめんよアムちゃん、ごめんなさいベラス様………。助けて、サクマ!!!
「さらばだ、小僧」
後ろの忍者が笑みを浮かべ刀を振り下ろす。
キィィン!
「何ぃ?!」
「これは、リーダーの小太刀」
どこからともなく謎の小太刀が飛んでくるなり、その小太刀はドラルの刀を勢いよく弾き飛ばした。
「ミチルっ!大丈夫か」
茂みから現れたのは純白のロングコートの左肩を赤く染めたサクマだった。
「サ…クマ…」
「この臭い。お前リーダーを斬ったなっ!」
「落ち着けドラル。仮にそれが事実であれば、やつは相当」
「知るか!あいつから先に殺す!」
そう叫ぶと、目標を僕からサクマへと変更したドラルは一直線に走り出す。
「死ねぇぇぇぇ!」
「ラディウス…クーペ」
叫ぶドラルとは真逆に、サクマは呟くようにスキルを発動させる。
ジュッ
「ぬぁっ!」
サクマのナチュラルスキルは、ドラルを躊躇なく真っ二つに切り捨てたのだ。
「貴様もナチュラルスキル使いか」
冷静なカムリオンが怒りの表情を露にする。
「あぁそうだ。こっちに来たお前の仲間もリーダーのカタスロも倒した、残りはお前1人だけだ」
スキルを解除した剣をカムリオンに向け睨み付ける。
「私は絶対に貴様を許さない!奥義・暗黒手裏大剣!」
カムリオンもサクマを睨み返し、奥義を発動させ青黒く怪しく光る大手裏剣を構える。
ビョォウ!
放たれた大きな刃の手裏剣は風を斬り、音を斬りサクマをも斬ろうと一直線に飛んで行く。
「サク…マ!」
ようやく痺れになれてきた体を懸命に動かし、立ち上がろうとする。しかし、サクマは僕の肩に手を置きそれを制する。
「後は任せとけ」
いつもの笑顔をこちらに向け、ものすごい勢いで飛んでくる手裏剣の方を見る。
「奥義、アテルニス・シュトラーン」
サクマのスペランツは柄からも刃からも輝きを放ち、同じ輝きがサクマの全身をも包んで行く。左手の籠手、両肩両脇に着けられた極わずかなプレートが光のオーラを纏う。サクマに光の鎧、光り輝くの直剣が装備され向かってくる大手裏剣を難なく弾き返す。僕の奥義と少し似た能力のようだ。
「暗殺団。お前たちみたいな、人の命を何とも思わないやつらを俺は許さない!」
「貴様こそ、我々の同胞を何名も殺めているではないか!」
返ってきた手裏剣をキャッチし、サクマに向かい攻めてくる。
「人を殺めるということは、私と何ら変わりは無いさ!」
ジュウッ
光の直剣は超高温の熱で手裏剣を一瞬で蒸発させる。ここで近距離に入り込んだカムリオンは、マフラーの中から隠し針を取り出し、深々とサクマの腹へと撃ち込む。
「毒針だ、貴様はこれで終わりだ」
「さぁそれはどうかな」
後退し笑みを浮かべるカムリオンだったが、その表情は再び歪み出す。
「俺のこの剣は、ただ光熱で溶かし斬ることだけが特性じゃない。追加で光属性の魔力も込められているから、毒や呪いの類いの攻撃は無効化し、更に傷は癒えてゆくんだ」
今気づいたのだが、左肩の赤い染みは消え、先ほどまで深々と刺さっていた針も消えている。
「このぉぉぉぉお!」
やけになったカムリオンは、武器も持たずに突進する。
「すまない、これで終わりだ」
右から斜めに剣が軌道を描く。
シュピィィン!
*****
「おいアム!しっかりしろ。アム!」
「お願いだ起きてくれ、アムちゃん!」
戦闘を終え、俺とミチルはなんとか保護できたアムの無事を確認している。頼む、目覚めてくれ。
「ん…んん、サクマ?ミチル?」
「アムちゃぁぁん!!」
何がなんやらという顔をするアムに、安堵の息を吐き出すミチル。助かったのだ、俺たちは。
「多分、これがカルラの言っていた悪いこと…なんだろうな」
「アムちゃんは拐われ、僕は戦闘能力の甘さを知った。サクマは、何があったの?」
「俺は……」
さきほどカタスロを斬ったときの感覚が、再び手にまとわり付くような気がした。
「人を殺めることの、辛さと責任を知ったよ」
2人は同時に驚き、同時にうつむいた。
「本当にごめんなさい、サクマ。ミチルも、私のせいで」
「いいや、君が無事でよかったよアム」
うつむく2人は再び顔を上げ泣き出す。剣の効果で元の綺麗な手に戻ったのだが、この手にはもう消えることの無い汚れがあることを自覚する。さっきまで暗かったはずの辺りは、木々の隙間から射す光に満ちていた。ここを抜ければ、エスベッポはすぐそこだ。
次回はいよいよ新たな王国へ