動き出す種火
どうもはがね屋です。
新たな何かが始まります。
魔境シュピーゲルを討伐し、王国の脅威は一旦無くなった。俺たちは国中の人々に感謝され、国王には騎士団に入らないかとスカウトを受けたほどだ。しかし、俺たちはこれから先、まだまだ進まなくてはならない。残りの魔境は6体。どうやら復活まで時間はまだあるらしい。
回復しきった俺たち4人は、シュピーゲル国での休暇を楽しんでいた。魔境討伐戦から3日後、国王に提供してもらった宿での暮らしは快適だった。しかし、俺たちには目的があることを忘れてはいけない。まだ魔境を1体倒しただけなのだ。
「カルラ、次はどこに行けば良いんだ」
地図を広げるカルラは指を指して教えてくる。
「とりあえず、海を渡って向こうの本大陸に上陸するべきだね。そこに1番近い魔境が封印されている王国がある」
「それは空を飛んで行けたりするのか?」
どうしても海を航るというのは少し抵抗が…。
「さすがにそれは無理だよサクマ君」
「そういえばサクマは昔から、すぐに酔うから船が苦手だったね」
「そうなの?だらしないわねぇサクマ」
アムにまで馬鹿にされる始末だ。しかし苦手なものは苦手なのだから仕方ない。アムは溜め息をつき、両の手を肩の上でぶらぶらさせる。
「はぁ、酔いを軽減させる魔法くらいかけてあげるわよ」
「ホントか?!助かるよアム!」
「それじゃあ、出発は2日後にしよう」
カルラはうーんと伸びをする。
「分かりました。それじゃあサクマ、今日も稽古つけてくれよ」
「いいぜミチル。なら今から広場に行こうぜ!」
部屋の扉を勢いよく開け廊下を走り出す。
*****
あれで私よりも年上だなんて。はぁ、私がしっかりしないとだわ…。机の上で道具を整理するカルラにある疑問をぶつける。
「そういえばカルラさんは、なぜ冒険をしているの?」
少し不思議そうな顔をするが、それはすぐに笑みへと変わる。
「僕はね、この世界を救うために旅をしているんだ」
「せ、世界を救うため?!」
返答のスケールが大きすぎて、私は思わず驚きの声を上げる。
「そうさ、僕はずっと…ずっと準備をしてきんだた。そして遂にあの2人が現れてくれた。この世界を救う、小さくて、とても強いきっかけが」
小さな…きっかけ。お姉ちゃんが亡くなってからずっと考えてた。私には何の強さも、行動する力も無かったから。そんな中、異国の服を着た2人の剣士がふらりとラベル村に現れた。その出会いから全ての歯車が動き出した。たった数日で私はけじめをつけることができた。お姉ちゃんから受け継いだ強さを使い。
「私にとっては、大きなきっかけでした。ずっと果たしたかった願いを、けじめに、終わりをくれました。いつもキツいことを言ってしまうのだけど、私は本当に感謝しています」
「そうだね、君もすごく頑張ってきたんだもんね」
「だから私、これからも2人に協力したい。一緒にこの世界をあの魔王から救いたいの!」
思わず机に手をついて身を乗り出す。そんな私に対しカルラは、またにっこりと笑う。
「ありがとう。是非とも力を貸して欲しい、アムちゃん。よし!新しい旅に出る前に、シュピーゲルで装備や道具を整えよう」
カルラは机の上にあった地図やら瓶やらをしまう。
「そうね、なら私も買い物に行ってくるわ!」
「うん、行ってらっしゃい」
ガチャンと扉が閉まり、部屋にはカルラ1人になる。
*****
「時間はある。けれども、その時間は大きく狂いだすかもしれない…」
正直、すべての国の魔境が封印されている間に完全討伐ができるかは分からない。封印が解かれると、奴らは魔王から力を貰うべく、再び暴れだす。そうすると、魔王との戦いで人員不足の各国は崩壊しかねない。2つの国の例外を除いて…。このシュピーゲルともう一つの国。でも、彼らならできると信じてる。僕とアイツが信じた、あの2人なら。
ポケットから四角いスマホのような鏡を取り出す。魔力を込めると鏡が輝き出し、彼の顔が映し出される。
「やぁ、久しぶりだね×××」
「おい貴様、報告が些か早くはないのか?」
「君が見込んだ彼らがやってくれたからね」
2人の戦いっぷりをまた思い出す。鏡を通して聞こえる彼の声は嬉しそうだ。
「ほぉ、俺が見た未来よりも早いとは。なかなか面白いやつらだな。やはり勇者というのはこうでなくては」
「全く君は…。そういえば、あの未来は変わってないのかい?」
「あぁ、やはりあの剣は折れる」
「うーーん、せっかくあの女神と頑張ったのになぁ。でもメイドスに準備は始めてもらっている」
今話している内容、つまりメイドスに用があったから僕はラベル村に足を運んで来ていたのだ。
「仕上げは俺がやろう。ある程度仕上がれば、俺のところに持ってくるように言っておけ」
「美味しいとこだけ持っていくんだから…。まぁ君にしかできないことだから仕方ないけど」
この古い友人はいつも勝手だ。しかし、あの魔王を倒すには、彼の力は必要不可欠なのだ。
「必要なことは伝えた、そろそろ切るぞ」
「了解、また何かあれば君に…」
「俺が見た限り何もない、ではな」
片手の端末は輝きを失い、彼の映っていた画面はただの鏡へと戻る。
「さて、僕も出発の準備をするか」
部屋の鍵をかけ、マントを装着し町へと歩を進める。
スマホのように、通信機能を果たす鏡映板はカルラが開発したもの。世界に2枚しか存在しません。