魔境 シュピーゲル
どうも、はがね屋です。
一区切りついたところで、初めてまともなことを言わせてもらいます。鏡中のセカイを読んでくださりありがとうございます。この小説は昔、自分が何気なく書いていたもので、最近見つけ出したものです。それを今、ここに投稿するに至っています。学生という身分ゆえ、いつまで書けるか分かりませんが、完結させられるよう頑張ってみます。どうぞこれからも鏡中のセカイを、サクマたちをよろしくお願いします。
暗い階段を下りていく。岩でゴツゴツした壁に覆われているため、どうやら穴を掘って階段を設置したようだ。そして、5分くらいすると目の前に大きな扉が待ち構えていた。騎士団員は総数20名。国の警備などの関係で、討伐戦に連れてこれる人員はこれで限界らしい。騎手長が騎士団を止めると、討伐戦に参加する全員に声をかける。
「さて、この扉を開けると魔境モンスターが待ち受けている。お前たち覚悟はいいか!」
「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」
騎士長の声に騎士団員たちは応え、気合いを入れるがごとく叫び出す。俺とミチル、カルラは戦闘は初めてでは無いが、アムは初めてである。それのせいかどうしても緊張しているようだ。そんな様子の彼女にミチルは気付く。
「アムちゃん、大丈夫かい?」
既に少し汗ばんでいるアムは、うつむいていた顔を上げる。
「わ、私…怖いわ。だけど、あの戦いでお姉ちゃんは魔境を封印して、討伐を次に来る人に託した。そのバトンを受けとるのは、妹の私じゃないと。私が仇を取らないと…」
未だにアムの足は震えている。
「アム、お前一人が頑張りすぎて何かあったら、お母さんとお父さんが心配するぞ」
「で、でも…!」
落ち着かせないとと思い、俺はパンッと手を前に合わせて叩く。
「だから!その仇討ち俺たちにも手伝わせてくれよ」
「サクマ…」
ミチルも頷き、アムは再び目に涙を溜める。しかしそれをすぐに拭い、いつもの眩しいばかりの笑顔を顔に戻す。
「うん。お願いサクマ、ミチル。一緒に魔境を倒して!」
俺とミチルは頷き合い再び前を向く。再び騎士長が声を張り上げる。
「これより魔境の元へと進行する!」
「カルラさん、アムちゃんをよろしくお願いします」
「任せておくれ、ミチル君」
ギィィイと扉が開きられ、前の騎士団が部屋へ入っていく。俺とミチルは剣を、カルラは木刀の様な長い杖を、そしてアムは姉が使っていたワンドを取り出す。
「行こう!」
俺たちも続いて走り出す。すぐにその空間は現れた。大きなドーム型の洞窟だ。その中心に光の鎖に繋がれた大きな狼のようなものがいる。大きさはハイベアーほど。黒い体に赤い目を光らせた、まさに獣そのもののような見た目。周りの人間に反応するかのように、狼は暴れだす。それと同時に鎖が悲鳴をあげ、光に亀裂が入る。
「あれは、お姉ちゃんの魔法…」
アムは驚き口を両手で塞ぐ。
「そろそろ引き千切れてしまうよ、気をつけてサクマ君、ミチル君!」
ギィィィン!
と大きな音と千切れた鎖が、光の粉となって周囲に飛び散る。
「戦闘開始!」
騎手長の掛け声と同時に、騎士団員はシュピーゲルを取り囲み走り出す。しかし、狼は一瞬にして姿を消す。
「何っ?!」
「シュピーゲルが消えたぞ!」
団員たちも混乱する。俺にもサクマにも見えておらず、辺りを見渡す。しかしアムには見えていたらしく。
「上よ!上!」
上を見上げる。シュピーゲルは超高速で跳躍していたのだ。そこから急降下し、取り囲む団員たちを一斉に切り裂いていく。
「ぐぁぁぁぁっ!」
「は、速すぎる!」
そこら中で赤い鮮血が吹き出す。まずい、団員の半分は今ので負傷してしまった。しかし。
「ヒール!」
アムが術技を唱えると団員の傷がほとんどの塞がっていく。術技は剣技とは別に、詠唱を必要とする。また、術士と相性が悪いと詠唱しても、術技が使えないこともある。
術技を唱えたアムの方を振り向く。
「すごいじゃないか、アム!」
「これくらいできないと、サクマ!次来るわよ!」
目の前にシュピーゲルの鋭い爪が迫ってくる。俺は瞬時に剣を横にして振り上げ防御する。
「はぁぁぁあっ!」
キィィン!
「ミチル!」
「うん!!」
ミチルが俺の剣と競り合っているシュピーゲルに向かって一撃を加えようとする。が、狼の体が薄く光出す。
「はぁっ!」
ミチルの一撃が、青い線を空に描き空振りに終わる。狼は空中で後ろに1回転をし、俺の肩に爪鋭いが一撃を入れる。肩から血が滲み出る。
「ぐっ…これがこいつの能力だ!」
「まさか、高速移動?!」
すると、初めてカルラの声が広間に響き渡る。
「クリエイト!」
逃げた先の壁から、岩の柱が出てくる。
ギャンッ!
と声を出しシュピーゲルが怯む。カルラの術技だ。
「サクマ君の推測は間違っていない。シュピーゲルは能力で高速移動をしている!」
「ミチル、インフェルノストームは使えないのか?」
「さっき塔で1度使ったから、再発動にはもう少し時間がかかりそう」
「俺は神器の力で増強してたから、もう1度なら使えそうだ」
しかし、この洞窟だと生命エネルギーが少ないから神器に頼った特大火力の範囲攻撃は使えない。ふと左肩がほんのり暖かくなる。アムの術技だ。
「なら、私が封印の力であの狼の動きを止めてみるわ」
アムの想定外の発言に思わず驚く。
「アム、そんなことができるのか?」
「私は回復系の術士だけど、お姉ちゃんが攻撃系の術技で私にも使えそうな技があるって、教えて貰ったの」
俺たちがこの部屋に来るまで封印されていたのと同じ術技が、アムにも使えるのだろう。
「ならそれでいこう、アムの術技でヤツの動きを止めてくれ。その後に俺がスキルで絶対に倒す!」
「分かったわ。タイミングはサクマが決めて、私はいつでもいけるから」
向こうから騎手長が走ってこっちにやってくる。
「もしかして、良い作戦が決まったのですか?」
「あぁ、そんなとこだ。騎士団にはヤツを空中に上げるように指示をして欲しい。高速移動ができるとはいえ、足を踏み込む場所が無いと能力は使えないらしい」
「りょーーかいしました!」
再び騎手長は走り出し、団員に指示を出す。すぐに騎士団は陣を組み、狼と交戦を始める。
「ミチル、騎士長と戦ったときと同じだ、ヤツの裏を頼んだ」
「また君が前に出るのかい?この前、サクマがこっちでやられたらって話をしたじゃないか…」
そうだ。俺はこっちの世界で死ぬと元の世界には戻らず消滅する。襲撃があったあの日の夜、ミチルに全てを話したのだ。
「大丈夫だ、俺はそう簡単には死なないよ。それに、お前がやられたら今度は俺が1人でこの世界で戦わなくちゃならないだろ」
「ふふっ、サクマは寂しがりやだからね」
「なんだと?俺はミチル君ほど子供っぽくないからな」
俺はニヤリと口を歪めませながら、ミチルの頭をわしゃわしゃする。
「こらーー、戦闘中にイチャイチャしなーい!」
アムが頬をわずかに赤らめ怒鳴り出す。
「はいはい悪かったな。それじゃあアム、頼んだぞ」
アムの方を叩き、団員たちが必死にシュピーゲルと戦っている方へと振り向く。俺とミチルは再び剣を構える。
「えぇ、分かってるわ。絶対に成功させる!」
ザザッと地面を踏み、俺とミチルは走り出す。再びシュピーゲルの高速攻撃によって、前戦の団員たちが吹き飛ばされる。シュピーゲルの着地と同時に俺とミチルは剣技を繰り出す。
「はぁぁぁぁあ!」
シュッ!
今度は浅くシュピーゲルの背中にかすり傷を負わす。しかしギリギリの所で空中に回避されてしまう。しかしそれこそが俺の狙いだ。
「クリエイト!」
カルラの術により地面から岩の槍が次々と飛び出してくる。錬成術とは見事のものだ。そして狼はその槍を足場にして、高速移動で回避行動を空中でとり続ける。そこで、1本の足場である槍が故意に砕ける。シュピーゲルは少し、焦るようにして足をバタつかせる。一斉に槍が地面に消える。
「今だ、アムッ!!」
アムがワンドをシュピーゲルに向かって構える。
「ケーラ!!!」
何もない空中から、無数の光の鎖が現れる。その鎖は狼の手足や首に絡まり、狼の動きを止める。空中で身動きを取れないでいるシュピーゲルに狙いを定め、俺もスキルを発動させる。
「ラディウス・クーペッ!!!」
俺はスキルによって強化された身体能力によって一瞬でシュピーゲルの元へと跳躍する。
「おぉぉぉぉぉぉっ!!」
高く振り上げられた光の大剣が、光の鎖で縛られた狼を真っ二つに切り裂く。
ザシュッッッ!
血飛沫の雨が地面を赤く染める。勝ったのだ。しかしそんなことよりも、スキル使用後は身体能力が元に戻るため、俺は落下に抵抗できないでいる。
「おわぁぁぁ!落ちるーー!!!」
「サ、サクマ君?!クリエイト!!」
地面から滑り台が現れ、なんとか助かった。さすがは錬成術。
俺はゆっくりと体を持ち上げ腰の鞘に剣をしまい、みんなの方を見る。
「サンキュー、カルラ…。やったなアム、ミチル」
戦闘を終えたのになぜか辺りは静寂に包まれていた。ふと、小さな声がわずかに聞こえてくる。
「あ…、あぁ……」
そのアムの鳴き声を隠すかのように騎手長が叫び出す。
「シュピーゲル!討伐完了ぉぉぉぉぉお!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
それに続いて団員全員も叫び出す。俺とミチルはグータッチを交わす。
「作戦大成功だな、ミチル」
「君のお陰だよ」
俺はアムに近寄り、頭をポンポンと叩き、静かにアムが泣き止むのを待った。
(祝)第一魔境 シュピーゲル討伐!
これにてシュピーゲル国編、終了です。