旅立ちの朝
ご無沙汰してます、はがね屋です。
ついに目的を果たす旅へ!
例の襲撃の次の日、俺とミチルが連日泊まっている宿に、シュピーゲルからの使者がやって来た。どうやら俺たちは国王に呼び出され、国王の元へと早急に参らなければならなくなった。
その知らせと招待状をもらい、俺は少しワクワクしていた。
「さてミチル君、そろそろ冒険ってやつをしなくちゃならなくなるかもな」
「何呑気なことを言ってるんだい、まずはシュピーゲル国の魔境退治だろうが」
「確かに、今の俺たちならなんとかなるかもしれないな」
「うん。出発は丁度今から1日後。明日の朝だから、今のうちにこの村の人達にあいさつに行かないとだね」
「そうだな、できることから早めにやっておこう」
とはいえ、シュピーゲルはラベル村の北門を通過すればすぐそこにある場所で、王が住まう塔に行くにも20分もかからないだろう。
まず最初に村長がいる役場に向かい、シュピーゲル国に行き魔境を倒すことを告げた。次にメイドス、カルラのところに。メイドスは大事な仕事があるから同行は出来ないと悔やんでいたが、カルラはそろそろ旅に出るころだったので、少しの間パーティーを組むことになった。そして最後に、先程までいたこの2日間お世話になった宿屋に来た。
「アム、お母さんたちいるか?」
「お母さん、今王国までお買い物行ってるから帰るのは明日だと思うわ」
おいおいこの子1人に宿を任せてるのかよ。戻ってくるなり、アムは入り口をいつものほうきで掃除をしていた。
「そうなのか。実は俺たちも明日シュピーゲル国に行くんだ」
「わぁ、そうなんだ。シュピーゲルはラベル村よりも全然広いから迷子になっちゃダメよ!ちゃんと帰ってきてよね」
予想外の返しにミチルはおどおどしている。
「ア、アムちゃん流石に僕らでも大丈夫だよ。それに僕たちは旅に出るんだ」
「え、そう…だったの?」
しかし、先程まで太陽のように眩しい笑顔を見せていたアムの表情が曇り、少しうつむいてしまう。
「どうかしたのか?アム」
「実はね、私のお姉ちゃんも冒険者やってたんだ」
聞いた話だが、冒険者とはある程度の経験と階級がないと務まらないらしい。アムの姉の歳がいくつかは分からないが、この村から冒険者になりということは、よっぽど良い才能の持ち主だったのだろう。
「そうだったのか。お姉ちゃんそんなに強かったのか」
「うん。昔ね、カルラさんが私たちにクラスカードをくれたの。私は五等術士だったのだけれど、お姉ちゃんは三等術士だったのよ」
「階級は僕たちよりも上じゃないか」
「それが王国まで噂が流れて、サクマさんたちと同じで国王に呼び出されたの。魔境シュピーゲルをどうか倒してくれって。貴重な力を貸してくれって」
ということは、多分俺たちが呼ばれたのもシュピーゲル討伐の依頼で間違いないだろう。魔王との戦いで、各国の戦力は不足していると聞いている。そんな中いきなりの三等術士は、極めて貴重な戦力になるはずだ。しかし、未だにシュピーゲルは…。
「まさか、アムのお姉ちゃんは…」
「そう、そこで戦死したの。でもお姉ちゃんのお陰で再び強い封印することができたみたいなの。騎士長も国王もとても残念に思ってたわ」
シュピーゲル国は魔境の封印を解き、騎士団とアムの姉、中級パーティーで討伐しようと考えていたらしい。だが作戦は失敗。ギリギリのところでアムの姉が封印に成功したお陰で、今魔境は暴れずに済んでいるはずだ。俺はポケットに入れていたクラスカードを取り出す。俺とミチルは先日の戦いで三等剣士へと昇格した。アムの姉と同じ階級。
「ミチル、今から行こう」
「え、どこに?」
「第1王国、魔境シュピーゲルを討伐しに行くんだ」
心の中で、何かがふつふつと沸き上がってくる。
「サ、サクマさん?!」
ガタッと椅子を倒し、ミチルとアムが驚きの表情に顔を変える。
「無茶だよサクマ!アムちゃんのお姉さんたちだって、王国騎士団とパーティーと協力して無理だったんだ!ほぼ素人のたった2人が敵う相手じゃないだろ!」
「どのみち明日には魔境と戦うんだ!それにどうせ、魔王との戦いで、今はろくなパーティーは揃ってない」
俺とミチルは胸ぐらを掴み合い、互いの腕に力を込める。今のアムの話と先日の戦いでの勝利が絡み合い、今の俺ならなんでもできる気がしていた。
そんな2人の間に割って入り、腕を振り払おうとするアム。
「落ち着いてください!それなら私も付いていきます!」
はたまた予想外のアムの発言に、俺は我に帰る。
「ダメだ、危険すぎる!」
「私だって四等術士です!役に立てるかは分かりませんが、お姉ちゃんが繋いでくれた封印を、みんなを守ろうとした意思を受け継ぎたいんです!」
「アムちゃん…」
アムは尚も必死になって声を荒らげる。
「だから、どうかお願いします!討伐戦、私もパーティーに参加させてください!」
俺はどうすればいいの分からなかった。アムを連れていき、万が一にも彼女を死なせてしまったら?俺はどう責任をとればいいんだ。俺たちも一緒に全滅してしまったら?ミチルはともかく、俺はここで消えてしまう。俺は、戦うことを迷っているのか。だがもうここまで来ればやるしかないんだ。俺は七大魔境を倒して魔王を倒す。母さんと父さんが守るこの世界を、救うんだ。そして、ミチルと一緒に帰る。ならばもう迷わない。やることはここに来てから何1つ変わりはしないのだから。やらなきゃ何も、変わらないのだから。
「分かったよ、アム。一緒に行こう」
アムは頬を涙で濡らしながら、満面の笑みで顔を上げた。
「うんっ!!」
ミチルとの話し合いの末、やはり準備が必要とのことで、予定通りに出発は明日の朝にすることにした。
*****
早朝、北門前の広場には4人の影があった。サクマ、ミチル、カルラ、そして、アム。門へ向かうとそこにはいつもの門兵の姿がある。やがて門兵のレイジとイルミは、俺たちに一礼をして北の門を開く。
「「行ってらっしゃいませ!」」
門をくぐり、国王の住まう塔を目指し歩き出す。海上から、眩しいほどに輝く朝日が登り出す。
アムの年齢は15。
四等術士で使用魔法は回復系。