小さな希望
どうも、はがね屋です。
来る!新たな力!
目を開けると、心配してこちらに走ってくるミチルたちの姿が見える。いつも通り動く体を起こす。
「サクマっ!大丈夫か!!」
「あ、あぁ。大丈夫みたいだけど?」
背中を確かめる。あれ?と気づく。先程騎士スケルトンに斬られた傷は跡形もなく回復しており、服だけが斜めに切り裂かれている。その場に居合わせた全員が驚いている。
「おいおいサクマの坊主、どうなってやがる」
「は!そうか。これのお陰か」
胸からペンダントを取り出す。太陽に反射してプリズムのペンダントは、くっきりとした虹色の光線を放つ。
「サ、サクマ君!それは…」
「神器、ルックスビータ。だろ?もう1人の父さん」
「なぜそれをっ!」
「「 もう1人の父さん?!!? 」」
驚くカルラ、更にその隣で驚くミチルとメイドス。なかなかのパワー発言だ。驚くのも無理はない。カルラにはざっくりと説明をしようと思い、
「さっき、こっちの母さんと会ったんだ」
「はぁ、やっぱりか。君と会ったときからもしかしたらとは思っていたが、まさか本当にそうだったとは」
「待ってくれサクマ。話に追い付けないんだけど」
「話したいのは山々なんだが」
視界を南の門へと移動させる。破壊された門から、スケルトンの他にもモンスターが入り込んでくるのが見えた。どうやら魔の森のモンスターがラベル村へと入り込んで来たようだ。メイドスはあれを知っているようで、
「ちっ、あれはゴブリンとハイベアーだな」
「ゴブリン、ハイベアー…」
ゴブリンと呼ばれるモンスターは、緑色の体にボロボロの布を1枚身に纏い、片手に剣や斧を持ったモンスターのようだ。体格は割りと小柄で140cmほど。一方ハイベアーは、向こうの世界と同じような熊のように感じるのだが、見たこともない大きさをしている。4~5mあるのだろうか。
「ミチル、行けるか?」
俺は再び横に落ちていた剣を拾い握る。
「もちろんだよ!」
ミチルもニカッと笑い、紅蓮に燃える剣を持ち直す。先にメイドスとミチルが走り出す。俺は膝立ちの状態から体を起こす。
「父さん、いやカルラ。女神様が言ってたけど、何か用意してくれてるんだろ?」
ニヤリと表情を浮かべ問うと、カルラは苦笑いのような表情を向け返してくる。
「あの女神はどこまで話してるんだか。あぁもちろんあるよ。受け取ってくれ」
何かの呪文を唱え、何もない空間に穴が開く。そこから1本の剣をカルラが取り出す。そしてそれを俺に差し出す。
「これは聖剣“スペランツ”だ」
「おぉ、かっこいい…」
子供っぽい第一声。思わず口から漏れてしまった。剣を鞘から引き抜くと、今にも輝きだしそうな真っ白な刀身が露になる。見た目は普通の直剣。そして、柄頭から鍔にかけて青空を染み込ませたような真っ青な色をしている。鍔には小さな鏡のような装飾が施されている。
「これがあれば、俺も戦える」
「その剣はあの女神の力を使って作ったものなんだ。そしてこの世界で唯一、魔王を殺せることのできる聖なる剣だ。これを、勇者である君に託すよ」
「必ず期待に応える!本当にありがとう!」
「お礼を言うのはこっちの方だ。彼に代わってに言わせてもらうよ、立派に成長してくれてありがとう」
「あぁ。行ってくるよ!」
*****
前方で戦っている2人は既に乱戦状態になっている。カルラによるとシュピーゲルから衛士がやってくるのだが、最低でもあと5分はかかってしまうらしい。数はゴブリンが30、ハイベアーが5。
「頼むぜ、スペランツ!」
走り出す1歩が跳躍のようにとてつもない長さになる。そして右肩から背中に剣を構え、前方に進みながら剣技を繰り出す。
「はぁぁぁぁぁっ!」
目の前にいたゴブリン2体の首を、青く輝く剣筋が切り裂く。赤い鮮血が舞い上がる。俺に気づいたミチルとメイドスがこちらを向く。
「サクマ!」
「おせーぞサクマの坊主!」
「ここから取り戻すさ!」
2人と合流し本格的に戦闘を開始する。向かってくるゴブリンたちは、奇声のようなものを発するだけで人語は話さないようだ。
「1体1体の戦闘能力は低いけど、とにかく数が多い!油断しないで気をつけて!」
「さんきゅーミチル、でももう油断はしないぜ!」
キィン!ガキンッ!
ゴブリンの群れに囲まれながら中心でミチルと合流し、背中を合わせて呼吸を整える。2人揃って中段の構えをとる。
「ねぇサクマ、さっにから頭の中に言葉が浮かんでくるんだ」
「それ、もしかしたら技か何かかもしれないぞ」
「分かった、試してみるよ!」
2人はアイコンタクトを交わして再び走り出す。そして後ろでミチルが例の技名を力の限り叫ぶ。
「インフェルノ・ストーム!」
たちまちゴブリンとハイベアーを青く燃え盛る炎の渦の中に閉じ込める。初めてインティを使ったときに見た時とは比べ物にならない炎の熱さ、そして威力だ。中心でミチルが一太刀振るうと一瞬にしてモンスターたちの体が真っ二つになり燃え尽きる。
「俺も負けてられないな!」
残りのモンスターは、ゴブリンが8、ハイベアーが1。そこで俺にも、頭の中に言葉が浮かぶのが分かった。よっし、いくぞ!
意識するのとともに剣とネックレスが徐々に輝き出す。
「ラディウス・クーペ!」
剣が一層輝きを増し、更にルックスビータも強く輝き出す。神器の輝きは剣へと送られているようだ。剣の周りに巨大な青白い光の刃が構築される。
「おぉぉぉぉぉ!」
ルックスビータにより、本来よりも威力が増幅された技、ラディウスクーペ。それを、ゴブリンとハイベアーの群れへと縦に振りかざす。そして地面スレスレで剣を翻し、横一文字にも剣撃を加える。
シュピィィィン!
甲高い音を上げゴブリンの群れとハイベアーを光熱で溶かし斬る。やがて、大剣を構成する光の刃はバラバラになり、美しい青空へと消えて行く。あっという間に、剣は元のサイズに戻る。
「今で全部みたいだな」
俺がミチルの元へと歩き出すと、メイドスも戦斧を肩に小走りで合流してくる。
「サクマの坊主もミチルもすげぇな、なんなんだ今のは?」
そこにカルラも拍手をしながらやってくる。
「2人が使ったのは、ナチュラルスキル。自然の物質から、術技を使い直接生成された武器のみが使えるスキルなんだ。しかし初戦闘で2人とも使えるなんて本当にすごいよ」
ナチュラルスキル。俺の剣は光から、ミチルの剣はどうやらマグマから作られたらしい。術技を使うと武器も作れてしまうとは驚きだ。
ふいに、門とは反対方向からいくつかの声が聞こえてくる。
「おぉーーーい!」
4人とも気づきそちらを振り返る。カルラはこちらに来る者を知っているようで、メイドスと2人で彼らの元へ進んで行く。
「あれは、シュピーゲルの衛士だ」
「俺たちが話つけとくから、お前ら今日は休んどけ」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
「すみません、ありがとうございます」
メイドスとカルラは20人ほどの衛士の元へと話をつけに行った。その場に座り込んでいた俺とミチルも立ち上がり、剣を鞘に納める。
「さて、あの2人に甘えて先に宿に帰るとするか」
「そうだね、僕も疲れたよ…」
左腰に剣を下げた2人が宿に向かって歩き出す。
スケルトンは夜行性。騎士スケルトンはそれを克服した姿。ゴブリンとハイベアーは昼行性なので、二人が初めて森に入ったときには遭遇しなかった。