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託される答え②

「それから…」

「?」

 聞くのはちょっと恥ずかしいが俺は男にやっと聞こえるかの声で尋ねる。


「その資質って…女性にもてるんだろうな?」

 これが男の口車に乗せられた俺の精一杯の抵抗だった。


 男はすぐには答えなかったが、恐らく意味を掴みかねているのだろう。

 そして少し笑いながら答えた。


「君の資質をそんな風に考えた事はなかったが…いや実にすばらしい、それはそれで良いことだと思うよ。 人に愛される道を進みたいという事はとても素晴らしい事だ」


「そもそも質問する事自体愚問ではあるけどね。私が惚れ込んだのだよ?女性ならなおさらだ。君が君の思う道を進むならばもてない訳がない」

 男は身振りを添えながら話し心底嬉しそうだった。


「私の娘達がここに居たら君に惚れてしまうかもしれないな」

 いや、あんたにほれ込んで貰っても仕方がないのだがと頭をよぎったが……


「ほう……娘さんの件、詳しく聞かせて貰おうか」

 迷いはなくなり俺は問い掛けた。そして……


「いや是非聞かせて下さい。本当お願いします、なんでもします」

 俺は一気に男への距離を縮め訪ねた。傍から見たら只哀願しているようにしか見えないだろうが。


「娘といっても私が娘のように思っているだけで彼女らはよき友人であり立派な女性達だよ。申し訳ないとは思っているが彼女らとは随分と会っていない、まあ会えないというのが実際のところだけどね」


「君が自分の道を進めば必ず何処かで出会うだろう、そのとき彼女らが何かしら困っているようであれば是非力になって欲しい」

 いや出会ったらって顔も知らないのだが……


「しかし急に良い顔になったと思ったら……。まあ、君がやる気を出してくれるのならかまわないけどね」

「俺は常に前向きでやる気ですが?」


 ……ん?

 ここで初めてこれほど賞賛される資質が何なのかまだ聞いていない事に俺は気が付いた。

「あの、俺の資質ってなんですか?」


「ああ、君の資質ね」

 俺は少し緊張しながら男を見つめる。当初感じていた怪しさはもうすでに何処かへ消え去っていた。


「――すまないが、それは言えないのだよ。私が君の資質を伝える事によって私の求めている答えが真のものでなくなる可能性があるのでね。だが心配には及ばない、君の資質は私の居た世界に君が降り立った瞬間に目覚めるはずだ。危険な世界だけどね」


「君には君の資質を信じ自分で確かめてほしい。そしてその世界の中で資質をどう伸ばし誰の為に揮う(ふる)かは君次第だ。――君が選んでこそなんだよ。それこそが私の求めている答えだと思うんだ」


 男は気付いたかどうか分からないが「誰の為に揮うかは君次第だ」と言った。

 という事は良くも悪くも人に影響を与えるような資質なのだろう。


 自分にそんな資質があるとは思えない……しかしこんな虚言をわざわざこの世界に俺を呼んでまで言うだろうか?


 色々考えてみてもまったく分からない事だらけだったが、これほど人に必要とされる事は話半分だとしてもやはり嬉しいと思っている自分と驚いている自分が確かに存在している。


「誰かの為になるのか……」

 俺は独り言のように呟いていた。


「おお、そうだ。君が引き受けてくれるのなら私から君に贈り物がある」

「伝説の武器下さい」

 俺は間髪置かずに答える。


「……それは無理だよ。私が君に贈るのはちょっとした知識だ」

 男は楽しそうに笑いながら答えた。


「先ほども言ったけど世界に降り立った瞬間から君の資質は目覚め恐らく力を使う事ができる。私が君に贈る知識はその力から君自身を守る為の知識と周りの者達に危害を加えない為の知識だ。本来君がこの世界で誕生したのなら得ていたはずの知識だよ。君は本来とはかなり違う形でこの世界に降り立つからね」


「えっと、力?この世界で誕生していたらって……。俺を守る?周りに危害を加える?」

「まあ記憶みたいな物だよ、君が知ろうと思えば知る事が出来るようにね。実際に自分で確かめてみるといい。それよりもそろそろお別れだ」


「もうやる気にはなってくれているようだけど、君の承諾を得ていないままだったね、私としても君の承諾なしに事を勧めたくはない、君の進む道だからね」


「先ほども言ったけど本当に危険な世界だから強制はしないよ」

 男が問い掛けた、時間切れの意味は分からないが俺には男の姿が少しぼやけて見えた。


 男は最初に時間が残されていないと言っていた、もしかして……。

「ちょっと待って……俺が引き受けなかったらあんたどうなるんだよ……?」

 そう言う間にも男の姿はだんだんとぼやけ消えかかっていた。


「……断られるなんて思ってないだろ?」

 フードに隠れて見えないはずの男の顔が笑っているような気がした。


「俺やれるだけやってみるよ……」

「あなたにそこまで信頼してもらえて嬉しかったから、だから…」

 短い間ではあったが人にこれほど信頼されたことはなかった。ただそれが嬉しかった。


「君でよかった。できれば君の傍ら(かたわ)で君を見ていたかったのだけどね……」

「私に君の進む先を見せて欲しい……君に私の名を贈りたいが良いかな?名だけでも君と一緒に連れて行ってもらえると嬉しいのだが……」

 俺は頷いて見せる。


「……ありがとう……私の名は……」

 男は今までにないような嬉しそうな声で答え、そしてその姿は完全に消えてしまった。


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