託される答え①
「はい、質問!」
「わかっている当然気になるよね。なぜ君をこの世界に呼んだかと言うとだね……」
男は当然質問が来る事を予測していたのであろう。話を続けようとしているが、それを俺が遮る。
「いや、俺ってすっ転んで……それで死んだんですか?」
「あ、そっちね?あんまり言いたくはないけど…着地した場所にたまたま運悪く小石があって、その小石でバランス崩してね、そんで膝かっくんってなって後ろ向きに倒れちゃってね、後頭部打ってそれが直接の死因ではないけど、それから水溜りあったよね、その水溜りで溺死しかけて……」
「すんません、もういいです……俺そんな死に方だったんですか……」
「めっちゃはずかしい、死にたい……」
「いや、死んでないって。せっかく助けたのに死にたいとか言われてもね……」
「何にも良い事ないまま俺死んじゃったんだ……」
俺はうな垂れながらつぶやいていた。
「いや、だから死んでないから。周りに君に気付く人が居なかったから、そのままなら確実に死んでいたけどね。私は君の世界へ行く事が出来ないのでこちらに呼ばせてもらったのだよ」
俺は頭の整理をしながらそっと男を観察する。顔はよく見えないし身なりはかなり怪しいが害意はなさそうだ。
男は俺を助けてくれたと言う、口調やしぐさなど悪い人間という感じはしない、信じていいものだろうか……
気まずい時間が続く……。
「えっと、気持ちは察するに余りあるけど、いいかな?」
男は間を持て余し俺に慰めの言葉を掛けるが、その声には心配そうな気遣いとそれ程興味ないという感じが伝わってくる。
「……話し戻していいかな……私は君を必要としているんだ」
男は話しを続けても良いものか悩みながら話しているのだろう、歯切れが悪く声も心なし小さくなっている。
(とりあえず意識があるって事はまだ生きてるってことでいいんだよな?)
このままでは埒が明かない。俺は男の話を聞くだけ聞いてみることにした。
「……いきなり必要と言われても。何で俺が必要なんですか?言っておくけど俺なんの特技も技能も持ち合わせていないんですけど」
「君はね、ある資質を備えているはずなんだよ。こうして会うのは初めてだけど君の事はよく理解しているつもりだ」
男はほっとしたのか口調が戻った。
「資質って俺、運動も勉強も本当に並程度で特にこれと言った資質どころか素質も無いと思いますが」
「ふむ、今まで君の居た世界ではそうだろうね。稀にあることなんだけどある資質を持った者が、その資質を発揮することのできない世界に生まれることがあるんだ。君の場合が正にそれ。さっき君が前に居た世界では現実に見たことも無い光景をみたでしょ?君に手っ取り早く理解して貰うために見てもらったんだけどね。それが私たちの居た世界。君の資質はその世界でこそなんだよ」
「と言う訳でね君の資質が最大限に活かされるその世界で私が得る事のできなかった答えを君に見つけて欲しいんだ」
さっき見た世界というとあれだなと『走馬灯』の中で見たファンタジー世界を俺は思い出していた……ってこれは?
魔物が跋扈するファンタジーの世界で渇望されるくらいの資質ってもしかして……。
俺の資質って……もしかして勇者とか大賢者とかそんな英雄的な感じのやつ!?
いや待て。そんな都合のいい話があるはずが無い、何の特技も無いが運の悪さだけは定評のある俺だ。
世界を構築する中で主役級以外で必要とされるとなると……。
――俺が知る映画やゲームの様な世界とした上で大きな違いはやはり魔法の存在だろう。
ここは、あえて魔法を使用する人間種と絞った場合……。
魔法使いを筆頭に魔法剣士や召喚士、精霊使い、魔獣使い、ヒーラーやバッファーもあるな……おっと、ネクロマンサーも忘れちゃいけない。
――まて、魔法を行使する職業もあるな、神官、鍛冶屋、薬師、料理人?待て待て、どんな職業でも魔法使うかもしれん……。
やばいな、異世界……。
「あの……俺ってそんなにすごい資質をもっているのですか?」
あっさりと考えるのをやめた俺は男に問い掛ける。
「随分と悩んでいたようだけど、何か思い当たる事でもあったかな?」
「いえ全く」
「そうか」
「だが私はね、信じているからこそ君が誕生するのをそれこそ気が遠くなる程長い間ここで待っていたんだ」
男は笑いながら答えた。
俺を信じてくれている事自体は嬉しくない訳でもないのだが、地球という世界で人生を送ってきた自分に自慢できる事など一つとして無かったことは自分自身が一番知っている。
自分に男がいうほどの資質があるのか甚だ疑問ではあった。
「そんな考えても見なかったことを急に言われても……」
「もし、あなたの言うような資質が俺になかったら?」
俺は素直に自分の思っていることを伝えた。
「君は……」
男は誰に聞かせるわけでもないといった風に少し上を向き独り言のように話し始めた。
「君は誰かの脇役となる為に生まれてきた訳ではないだろう?君は世界の主人公は自分ではないと思っていないかい?」
「君自身が主人公になろうという強い意思を持たなければ君は遠くから主人公となれる人々を見て羨望や嫉妬あるいは傍観しているだけの只の脇役に過ぎないよ」
「人は知らず知らずではあるが自分の資質にあった道を選ぶことが多い、けれど苦難多く挫折し他の道を選んでいくんだね。生まれた環境や事情により選択の余地もない者も居るけれど君はそうではないよね?主人公になれる者、なろうとする者は自分のことを信じ常に前を向いて挑戦し行動している者達だ」
「自分を信じて進むからこそ何度でも苦難を乗り越え挫折から立ち上がり結果として資質が開花し自分の人生の……他者から認められる主人公となるのだ。結果が必ずしも報われるとは限らない、だが苦難を避け行動せず何もしていない者に良い結果がでることはないよね」
「結果とは何かをした証なのだよ」
男は淡々と話し続ける。
早々に夢を諦め、生きて行く為に遅くまで嫌な仕事でもこなし帰宅し飯喰って寝る。唯一の趣味はゲームだけ、ただただ日々を過ごしてきた俺にとって男の言葉はかなり痛い。
「俺だって……」
無意識に言葉が出ていた。
「すまない、偉そうな事を言ってしまったね、ただ君は自分の進みたい道ではないところで悩み、叫ぶ事もできず本当に嬉しいときの笑顔を、笑い方を忘れてはいないかい?」
「どうせなら進みたい道で悩み、怒り、泣き、叫び、笑ってみたくないかい?」
「……欲しい答えが返ってくると思うなよ……どうなっても知らないからな」
ようやく声を絞り出す。
「もちろんだとも、君が出す答えが何であれ私は受け入れよう。やる気になってくれたんだね?」
男は嬉しそうに答える。