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異世界への走馬灯

 雨上がりの天気の良い日だった。

 眠い…


「全然寝た気がしない…」

 軽く肩の凝りをほぐすかのように頭を振りながらつぶやく。


 昨日も帰り遅かったからなぁ、今日の納品には何とか間に合ったけど……。

 大体見積出してからどれだけ経っていると思っているんだ……、注文書が遅すぎなんだよ。

 そのくせ納期は厳守って……むちゃくちゃだろ……。

 眠い頭で今日の予定を考えながらアパートの鍵を閉め、軽く背伸びをしていつものバス停へと向かう。


 いつもと変わらない一日の始まり、少し締めすぎたネクタイを軽く緩めながら歩き出す。

 小さな水溜りがいくつか道を塞ぐかのように出来ている。そのうちの一つを軽く跳躍し飛び越えただけのはずだった……。


 小さな跳躍は頂点に達し、そして落下する。

 当たり前の事象だ。違ったのは意識する事もできないほどの高さから落下がはじまった瞬間見慣れたいつものアスファルトの道と町並みが突然ぐるぐると回り始めた事だった。


 その瞬間まで俺自身それが地球が存在する世界で見た最後の光景になるとは思っても見なかった……。


 ◇◇◇


 ……不思議な光景が永遠とも一瞬とも思われるような速さで目の前を流れていく。

 さっき玄関の鍵を閉めたアパートの玄関、何日か前の食卓、仕事場の風景、よく行く近くのコンビニ、住んでいるアパート周辺の風景、そして俺が通った学校の校舎……。


 俺が生きてきた中で見てきた過去の光景だ。

 映像は徐々に過去へと(さかのぼ)っていく。


 はっ?ちょっと待て?


 これは俗に言う、人が死ぬ直前に見るという『走馬灯』というやつでは?……。

 自分が死ぬのだという本来ならば最初に考えなければならない焦りよりも『走馬灯』というものは自分が生まれて物心が付いたあたりから人生の順を追ってみていくものだと思っていたのだが、逆行しながら流れる事もあるんだな……とかのんびり考えていた。


 まあ聞くと見るとでは大分違うものだなと感心し、あまりにも平凡で何の印象も残っていない自分の人生に少し悲しくなった。


 そういえば、親友と呼べる友は居なかったな…

(次生まれ変わるなら生涯を共に出来る友の一人でもできたらいいな…)

 もし生まれ変われるとしたら…希望の一つ位叶えてくれても良いだろと思いながら当たり障りの無い俺の人生を眺めていた。

(できたら……彼女も……)

 万が一願いが叶ったときのため追加しておくのを忘れない。


 その間も絶え間なく流れていく過去の映像……中には覚えも無い風景や人物もあった。恐らくは出会っているのだろうが忘れてしまったのだろう。


 どれくらい立ったのだろう……随分と時間がたっているような気もするが……光景は次々と時間を遡りながら過去を映し出し流れていく……。

 …………。

 ……。

(飽きた)


 特筆すべきところも何もない平凡で退屈な人生だった事は自分でも分かっている、それをひたすら見せられるのはある意味拷問に近いものがあった。


 さっき生まれ変われるとしたら一つくらい願いをと思ったが……もし生まれ変われるのなら、生まれ変わった人生で見る『走馬灯』の為に波乱万丈とまでは行かなくてもいい、ちょっとだけ退屈しない印象に残るような人生を追加してもらいたいものだ。


 もうダイジェストでいいだろ、そう思った時、映像は突然乱れ、そして真っ暗になった。


(なんか中途半端なとこで終わったな、いよいよ死ぬのか……)

 俺の感覚の中ではかなり長い時間がたっていたせいか、なんとはなく覚悟はできていた。


 意識がゆっくりと失われ俺という存在は消えていくのだろうか、それとも急に消えてなくなるのだろうか。

 その瞬間を、自分でも驚くほど落ち着いた気持ちで待っているのだが…


(またかよ!)

 また映像が流れ始めた。


 別に見たいわけでもないのだが、目を閉じていても見えるのだから性質(たち)が悪い。

 しかし、次に流れ始めた映像は……


 近代的ではないが整備された石畳の通路や建築物、見慣れた生き物や植物の他に実際には存在するはずのない、映画やゲームの中でしか見たことのない怪物や植物……。


 そう、今まで俺が生きてきた世界とは別の世界…どこか中世を思わせる世界の映像だった。

 流れる映像は、今度は断片的で画像のようでしかなったが、そこに見えたのは城壁に囲まれた街並み、壮大な城、整然と隊列を組む騎士団、冒険者と思わしき衣で立ちの人々、空を飛ぶドラゴンと思わしき巨大な生物、空一面から降り注ぐ火炎の雨、空を割って現れているとしか思えない異形の化物、空に届くほどの巨大なムカデ、ゲームでおなじみの獣人やゴブリン、トロール……。


 その中を俺の意識だけが通り過ぎるような感覚だった。


 ファンタジー系映画の見過ぎやゲームのやりすぎが原因かとも思ったが、その映像からは脈打つ肌、滲む汗、呼吸音まで聞こえてくるのではないかと思うほど妙に生々しい。

 そこに俺自身が居るかと思えるほどの鮮明で強烈な映像だった。


 俺の妄想が生み出した映像なのか?

 それにしては、俺が見たことや想像すらしたことも無い建物やモンスターも含まれている。


 いつの間にか映像を見ているのではなく、その中を俺の意識がすり抜けるかのように流れているような感覚へと変わっていた。


 そして……、映像の遥か先に漆黒の闇が見えた。

 あれが終焉なのだろうか?あそこまで行ったとき俺は死ぬのか……。

 闇が近づいてくる……俺は(あらが)う事もできず流れに身を任せる。



 唐突に何処からともなく声がした。

「やっと会えたね」


 声は恐ろしいものではなく、どこかで聞いた事のあるような懐かしさを感じる落ち着いた男の声だったが、予期しなかった事もありあまりにも意表をついていて死んでいるはずなのに心臓が止りそうなほどびっくりした。


「八神陸君……君が来るのを待っていたよ、ずっとね」

 声は続ける。


 気が付くといつの間にかどちらが上か下かも分からない黒い霧のかっかった様な場所に居た。

 立っている地面の感覚すらなく、それはこの空間に漂っていつかのような感覚だった。


 声のする方向を探るが何処から声がしているのかさっぱり分からない。

「おっと失礼、私はここだ。安心してくれ怪しいものではない」

 今度ははっきりと正面からとわかる声がし、声の主が姿を現した。


 黒装束といっても差し支えないほど黒で統一された衣装に身を包み黒のマント、怪しげな文様の入ったフードを目深に被っていて顔はよく見えない……怪しいとか議論するまでも無いほど怪しさ全快のいでだちに思わず声が出てしまう。

「いや、怪しすぎるだろ……」


「え?怪しいのかな……?困ったね、これ一張羅なんだ……」

 独り言にも近い言葉にもかかわらず、怪しい男は律儀にもちょっと困ったように答える。


「まあ気にしないでくれたまえ、私のことはこの際どうでも良い。もう残された時間がないので手短に話そう」

 男は俺のことはお構い無しに切り替え淡々と話を続ける。


「まずは君の承諾なしにこの世界へ呼んだ事は本当に申し訳ないと思っている。しかし君を必要としている私にとしては君を生かすにはこの世界に呼ぶしかなかったのだ。あのままだと君は死んでいたのだから……」


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