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「コイツはまだ技術が追いつかないのが問題なんだよ。だからいっつも締切を逃してしまう」
「うっせーよ! 千波!」
ちなみに千波くんは親戚にプロのマンガ家がいるみたいで、その人の元で技術を学んでいる最中らしい。
松原くんも休みの日にはヘルプで入る時があるみたい。
でも千波くんはすでにアルバイトとして雇ってもらっていて、今は修行中だからマンガ作りはしないと言う。
ウチの部の場合、OBやOGがすでにプロのマンガ家デビューしている人が何人もいるから、その人達が学校まで教えに来てくれるのはありがたい。
…何げに恵まれた環境にいるよな、僕達って。
「じゃあ松原の原稿、千波が手伝ってやれば?」
「アキもそう思うだろう? ところがコイツ、自分一人でやるって言い張ってさ」
千波くんが呆れた眼差しを向けると、気まずそうに顔をそらす松原くん。
「さっ最初の作品は自分一人で上げたいんだ!」
「そう言ってすでに2年目に突入だぞ?」
「だからうるさいってぇの!」
二人が言い争うのを、アキちゃんは無関係の顔をして食事をすすめ、僕は苦笑しながら見つめる。
…けどふと視線を感じて、窓の外を見た。
「あっ…」
僕達は交差点近くのファミレスに入った。
そして僕は窓側の席に座る。
そこから外が見えるんだけど、僕の眼には彼の姿が映った。
彼は信号待ちを友達としているけれど、何故か顔だけこちらを見て、今は僕と視線を合わせている。
…どうしてそらさないんだろう?
そしてどうして僕も、そらさないんだろう?
今こうやっている場所が、お互いの居場所だと分かっているのに…。
改めて違いを感じてしまったせいだろうか?
それとも……。
「タク? どうかしたか?」
「あっ…」
アキちゃんの声で、我に返る。
すると信号が青になって、彼は友達と共に行ってしまった。
「ごっゴメン、ちょっとぼ~っとしてた」
「…そうか」
本当はアキちゃんに嘘をつくのはイヤだ。




