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僕はいつもより苦く感じるコーヒーを飲んで、口を開く。
「…良いんです。いつまでも人前では話せず、こんなコソコソした付き合い方はイヤですし。それに…彼の趣味にはやっぱり合いそうにないです」
「オタクは底なし沼みたいなものだしな」
抜けようと思って、抜けられるものではない。
「まあ趣味の相性は悪かったみたいだが、タク達同士はそんなんでもなかったんじゃないか?」
「そう…ですね。でも彼の遊びにいつも付き合っていたら、趣味に時間が使えませんから」
彼と趣味を天秤にかけ、僕は趣味を選び取った。
…本当に最悪だ。
「う~ん。せめて彼がタクの書くマンガに興味を持ってくれたら良いのにな」
「それも無理かと…。必要以上にはマンガを読まないと聞きました」
「…そこまでオタク嫌いが根深いのか」
流石の部長も絶句してしまう。
自分のことじゃないのに、本気で心配して、考えてくれるのが良いところだ。
「もうコレで彼との付き合いは終了です。さて、部長。そろそろ行きましょうよ」
「あっああ…」
「閉店時間になったら、せっかく早く部活から上がれたのに勿体無いですからね!」
僕は明るく言って、コーヒーを飲み干した。
―切り替えは早い方が良い。
僕は趣味に集中すべきだ。
そして彼も、元の人間関係を取り戻すべきなんだ。




