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僕を見ていることはあっても、一度たりとも声をかけてくれたことはなかった。
そして遊びに行く約束も…一度めは生徒指導室。
二度目はこの廊下、三度目の今回もここだ。
ここは文化系の部室が多くて、一度入ったらなかなか人は出てこない。
そういう時間と場所を彼は考えてまで、ここに来たのだ。
それはすなわち……僕との付き合いを、誰にも知られたくない、からだ。
…気付きたくないことに、僕は気付いてしまった。
「僕と一緒に遊んでいれば、いずれは地元の友達の時のように、誰か知り合いに知られてしまうよ? それでも良いの?」
「………」
彼は唇を噛み、言葉を出さない。
それは迷いがあるから。
「良くないよね? キミの為にも、僕の為にもならない。一緒に遊んでくれたのは嬉しかったけど……もういいよ」
もうお互い、住む世界に戻った方が良い。
「じゃあお前は何でボクを見ていたんだよ!」
「っ!」
今度は僕が言葉を失う番になった。
彼は涙目で、震えながらも真っ直ぐにボクを見る。
「ずっと…ずっとお前の視線を感じていたんだ。気付けばお前は僕のことばかり見てて…」
「…ゴメン。無意識、だったんだ。でも今は見ないようにしているだろう? キミの言う通りに」
「そっれは……」
再び彼は沈黙する。
「気に病んでいたのなら、本当にゴメン。悪気は全く無かったんだ。ただ…何となくキミを見てしまってて、それがキミにとって不愉快になるなんて、言われるまで気付かなかった。本当に、ゴメン」
僕は心から詫びて、頭を下げる。
「あっ…」
「勉強会のことは絶対に誰にも言わない。あっ、アキちゃ…彰人くんには話しちゃったけど、彼は口がかたいから大丈夫」
僕は顔を上げて、弱々しい笑みを浮かべる。
「だからもう、僕のことは気にしないで」
「何だよ、それ…」
僕だってこんなこと、本当は言いたくなかった。
彼のことが好きだから、一緒にいられるのは本当に嬉しいし楽しい。




