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その後も彼のことを話題にして、話をしながら撮影は終了。
「う~ん…。やっぱりメガネがないと、視点が合いませんね」
途中、メガネ無しで撮りたいと言われ、僕はメガネを外していた。
けどぼんやりとしか見えなくて、困った。
「悪かったね。でもメガネなしも良い感じだよ」
「高校卒業したら、デビューしたいと思います」
青年からメガネを受け取り、僕は着替えて、フロアに戻った。
そして彼の元へ行ったんだけど…。
彼はソファーに横になって、マンガを読みながらゴロゴロしている。
テーブルにはグラスやお菓子が散らばっていて、まるで我が家にいるみたいな態度に、ちょっと絶句。
「おい、翔。何っつう格好しているんだよ?」
「待ちくたびれた。…って、麻野、結構良い感じじゃん」
髪を切った僕を見て、彼は起き上がってこちらへ来る。
「うん、良くしてもらった」
「うんうん。麻野はこういうの似合うよ」
彼があまりに嬉しそうに笑うので、僕は何だか胸の辺りが熱くなる。
「あっ、そっそれじゃあ荷物を…」
「ああ、そうだったね。モデル料も渡すよ」
受付で預けていた荷物を受け取り、青年から茶封筒を受け取った。
「ありがとうございます。審査、受けると良いですね」
「ああ、頑張るよ」
青年に笑顔で手を振られ、僕と彼はヘアサロンを後にした。
「でもカットモデルのことは、早く言ってほしかったな」
ビルから出ると、僕は開口一番に言う。
「だって麻野ってそういうの、好きじゃなさそうだし。でも悪いもんじゃなかっただろう?」
それは否定できない。
ただで髪を切ってもらったばかりか、お給料まで頂いちゃったし。
「その金でコンタクトでも買えば?」
…今日はこの手の話しが多いな。
「コンタクトはいいよ。それよりコレでお昼ご飯、食べに行こう」
「あっ、そう言えばお腹減った」
すでに昼食時、僕もお腹が空いていた。
「んじゃ、近くに良いカフェがあるんだ。そこのランチが美味しいんだ」
嬉しそうに話す彼を見ると、本当に美味しそうに思えてくる。
「じゃあそこへ行こうか」
「ああ!」
――その後、カフェで昼食を食べ、オフィス街をウロウロした。
彼はいろんなオシャレな店を案内してくれたり、眺めの良いビルに入ったりした。
僕も彼も終始笑顔でいられたけど、それもこの時までだった。




