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でも僕は何も知らないので、首を横に振る。
「あ~、じゃあ改めて言うとね。麻野くんにはカットモデルになってもらったんだ」
「カットモデル?」
「そっ。それで俺の腕前を披露する為に、これから着替えてもらって、写真撮影」
「ええっ!?」
たっ確かにカットモデルの仕事は知っていたけど、まさかタダになる条件がソレだとは…。
ショックを受ける僕を見て、青年は苦笑しながら頭をかく。
「翔はきっと、モデルと言うと麻野くんが嫌がると思ったんだろうな」
「…聞いていたら、逃げました」
こういうところで目立ちたくはなかったのに…。
でもすでに髪は切られたし、今更逃げるのも青年に悪い。
「あの写真って…」
「ああ、実は今度美容師としての腕を競うコンテストがあるんだけど、その第一書類審査に送る用なんだ」
…それなら多くの人に見られるわけじゃないし、良いか。
「…分かりました。ちゃんと事情を聞かなかった僕にも責任はありますし、最後までお付き合いさせてください」
「すまないね。あっ、モデル料はちゃんと出るから安心して」
「えっ? お給料、ですか?」
「もちろん。でも俺から出るから、あんまり金額は期待しないでくれ」
でも貰えるなら嬉しいな。
「さて、じゃあお次は服のことに移って良いかな?」
「はっはい!」
我に返った僕は、慌てて青年の元へ向かった。
青年は真面目に服を選び、三十分かかって衣装を決めた。
着替えた後も髪型を整え、そしてメイクも…少しされた。
見栄えを少しでも良くする為に、と言われたけれど、僕の顔が地味だからだろうな。
「あの、こう言うのもなんですけど、龍雅くんにお願いした方が良かったんじゃないですか?」
今更だけど、彼の方が良かったんじゃないかって思う。
「翔は確かに良いモデルだけど、すでにデビューしているからね。審査では素人であることが条件なんだ」
あっ、そうだった。
彼はすでにモデルとしてデビューしているんだった。




