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そうなんだ…。
それは嬉しいけど…でももしかしたら『タダで切ってくれる』所だから、案内してくれたのかも。
「オタクって言うけど、麻野くん、体鍛えている?」
「武術を少しばかりですが…」
「おおっ! どうりで目付きも強いと思った。翔から聞いたんだけど頭も良いみたいだし、女の子にモテない?」
「『オタクじゃなかったら良かったのに…』だそうです」
「おやおや」
青年は会話をしながらも、どんどん仕事を進める。
でもメガネを外している僕の眼には、ぼんやりとしか鏡に映った自分しか見えない。
「―よし、こんなものでいいかな?」
二十分ぐらいでカットは終わり、ドライヤーで髪を乾かされる。
床に落ちた自分の髪を見ると、結構切られたみたいだ。
「うん、良いな。麻野くん、どう?」
メガネを渡され、僕は改めて自分の姿を見た。
「あっ、凄い…。良いですね、この髪型」
長くても顎の上まで、全体的にすっきりした。
それに段入りに切られたり、薄くされたおかげで、顔が小さく見える。
「麻野くんはコンタクトにしないのかい?」
「あ~、予算がないです。バイトしてもすぐに趣味に使っちゃうんで」
「じゃあ経験もない?」
「一度眼科に検査に行った時に、一日用のをつけてみましたが……見えすぎちゃって困りました」
メガネを作る時に、眼科の先生に試しにと言われて付けてみたのだが、逆に見えすぎて違和感があった。
「まっ、慣れるまでの辛抱だから。さっ、次はこっちだよ」
『次』?
まだ何かあるんだろうかと疑問に思いながらも、僕は青年に案内され、店の奥へと向かった。
そこは衣装部屋みたいに、服がたくさんある部屋だった。
「さぁて…。どんな服が良いかな?」
そして服を見だした青年を見て、僕はようやく異変に気付く。
「あっあの、これから何が?」
「ん? 翔から聞いてない?」
青年が驚いた顔をするってことは、彼は知っていることなんだろう。




